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水質悪化を考える
「東京の河川はきれいになった」とはいうけれど、他の淡水環境の汚染はどうだろうか。ここ最近のニュースでは、あまり良くないニュースが入っている。今回のレポートではこのニュースを紹介した上で、湖沼、河川の環境の悪化を防ぐために植物浄化作用に注目した大阪大学の森本研究室、植物浄化法を紹介する。
「河川水質については、水質汚濁の指標、生物化学的酸素要求量(BOD)の環境基準達成率が、前年度の86%から9ポイント下がった77%となり、鬼怒川・小貝川水系と、渡良瀬川水系で水質が悪化する傾向があることが分かった。(1999/1/22朝日新聞・朝刊 栃木)」
「水質汚濁の目安となる化学的酸素摂取量(COD)を測定した道内14湖沼のうち、前年度より、1つ多い10の湖沼が環境基準を達成していないことが、道のまとめた今年度の「環境の状況等に関する年次報告書」(環境白書)で分かった。調査は1998年度に実施された。湖沼は閉鎖された水域であるため、一度汚れると元に戻りにくく、道内の湖沼では水質改善が進まない状況にある。
白書によると、定点観測している14の湖沼のうち、CODの環境基準をクリアしたのは、支笏湖、能取湖、然別湖、倶多楽湖の4つ。前年度は環境基準を達成した屈斜路湖を含む10湖沼が基準を満たさなかった。(1999/9/24朝日新聞 道内版 朝刊)」
首都圏から離れた栃木や北海道といった道県において、環境基準することができなかった。ということはかなりの都道府県においても水質汚染が進行していることを意味しているように思われる。
記事の中で出てくるBOD、CODについて下記にまとめておく。
生物化学的酸素摂取量[biochemical oxygen demand]
生物化学的酸素消費量ともいう。略称 BOD。検水を好気性微生物が十分生育できる状態にし、通常は20℃で5日間放置した時、消費される酸素量(BOD5)をいう。
化学的酸素要求量[chemical oxygen demand]
化学的酸素消費量ともいう。略称 COD。水中に含まれる有機物と非酸化性の無機物が酸化剤によって酸化される時、消費する酸化剤の量を、それに相当する酸素の量で表現したもの。
排出基準や環境基準について、海域や湖沼ではCODを、河川ではBODを用いるのは、河川は流下時間が短く、その間に川の中の水の酸素を減少させるような、つまり生物によって酸化されやすい有機物を規制すれば良いのに対し、湖沼や海域は滞留時間が長いので有機物全量を規制しなければならないという立場に立っているため。「環境科学事典」
つまり、このBOD、CODが大きいほど、水中に溶けている物質の分解に必要な酸素量が大きく、つまり不純であるといえ、酸素要求量が過大に増えた時には水中には悪臭の原因となる微生物が繁殖する。
そこで、藤田研究室の「植物による水質浄化」をみてみたい。
植物による水質浄化法は、水辺に葦などの水辺植物を育てることで水質の改善に役立てようというものである。
1.植物による水質浄化メカニズム
BOD除去
植物はそれ自身が有機物を除去することはないが、植物体の存在によって微生物量が増え、それによってBOD除去も促進される。
窒素除去
水域に入ってきたOrg-Nは微生物により分解を受け、NH4-Nや硝化細菌によりNO2-NやNO3-Nへと分解される。これらの無機塩を植物が吸収することにより、水域から除去される。この反応は好気条件下で起こる。植物の根からの酸素輸送により水域には好気条件と嫌気条件とのモザイク構造が形成され、これにより高い窒素除去能力が起こる。
l 利点
・ 現在の都市下水処理の主流である標準活性汚泥法では、除去の難しい窒素やリンの除去が可能である。
・ 植物体が存在することにより、日光を遮り、藻類植物プランクトンの発生を抑え赤潮アオコの発生を防ぐ。
・ 濃度が低い水域への利用が可能である。
・ 太陽エネルギーを利用するので、省エネルギーである。
・ 高度な維持管理を必要としない。
l 欠点
・ 気温や日照時間など、気候条件に処理成績が大きく左右される。
・ 広い土地を必要とする。
・ 植物体の刈り入れを行わないと、窒素リンなどの再溶出が起きる。
・ 現在、余剰植物体の有効な利用方法が確立されていない。 (一部抜粋)
このほかにも、藤田研究室は窒素リンなどを同化しやすい植物を取り上げ検索システムが作られている。
人々は飲み水やその他日常の生活用水には、自然水をそのまま用いてきた。しかし、今日では水道によって、水を直接得ることができない地域でも簡単に利用することができる。そのために、人々は水の価値に対して無関心になってきており、それが様々な問題を引き起こしている(大山)。たとえば、かって秋田県千畑町の農家の生活廃水は鯉の養殖池を兼ねた配水池に一旦溜められて流されていた(鈴木)が、川や湧水の利用価値の低下と共に、保全システムが崩れ、現在ではそのまま汚水が流されている。
過去のシステムの崩壊が著しい現代、新しい環境保全型の水質保全システムの構築はいそがなければならない。藤田研究室で取られている「植物による水質浄化」法は自然環境中にある自浄能力を最大限に引き出そうとする試みであり、人工的な処理法に良く見られる副作用的影響が少なく大いに評価されるものだ。
● 新聞・インターネット資料
・ 「道内14湖沼、水質改善進まず 7割が基準超す 環境白書/北海道」1999/9/24朝日新聞 道内版 朝刊 ・「河川の水質、悪化傾向 野焼きへの苦情増える 県が環境白書/栃木」1999/1/22朝日新聞・朝刊 ・ 大阪大学 藤田研究室 ホームページ 「植物による水質浄化」 HYPERLINK http://5host.env.eng.osaka-u.ac.jp/~morimoto/page/ http://5host.env.eng.osaka-u.ac.jp/~morimoto/page/
● 参考書
・ 荒木峻 沼田真 和田政 編 「環境科学事典」1985 東京 東京化学同人 ・ 大山佳代子「第2部 第章 第1節 秋田市における上水道敷設以前の水利用」肥田登 編「秋田の水−資源と環境を考える」1995 秋田 無明舎出版 ・ 鈴木公平 「第2部 第沛ヘ 第2節 千畑町における湧水の利用形態」肥田登 編「秋田の水−資源と環境を考える」1995 秋田 無明舎出版
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