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水道水に環境ホルモン
日新聞の朝刊の、容易に見過ごされてしまいそうな家庭欄に驚くような記事が載っていた(参考資料-1)。本当に目立たないポスタープレゼントの持ち込み記事である。
しかし、市民団体「日本子孫基金」が作ったそのポスターは、水道水が危ないというもの。生協連合会・グリーンコープ連合(福岡市)が調べた結果、水道水に環境ホルモンの一つといわれているビスフェノールAが約0.01~0.02ppb含まれていたという話である。しかもその原因は水道管の内面塗装に使われているエポキシ樹脂ペイントが原因ではないかというもの。
なぜ水道管にエポキシ樹脂ペイントが?
大まかに分けると水道管には、鋳鉄管と鋼製管、そして細かい配管には塩ビ樹脂そのものでできた塩ビ管が使われるケースも多い。鋳鉄管は鋳物であるためなんの塗装も必要としない。つなぎ目は継ぎ手で受けて施工ができるために特別な技術を必要としない。そのため使われやすい素材であるが、脆いところが欠点である。それに比べて、鋼製管は現場で溶接という技術を用いて接続しなくてはならないが、接続の正確さ、しなやかで追従性があり、耐久性に優れている。しかしながら、鋼性のパイプは当然に酸化するため、飲料水が直接触れるはずである内面には何らかの塗装が必要であり、内面にタール・エポキシ樹脂ペイントを施し、外面には、塩化ビニール樹脂シートを覆装するが、大経管になるとやはりタール・エポキシ樹脂ペイントを塗装している。(私の元勤務先ではこの鋼管を製造していた。)
なぜエポキシ樹脂ペイントが問題か。
このエポキシ樹脂、あるいはポリカーボネート樹脂はビスフェノールAという合成化学物質を原料にして作られており、このビスフェノールAが環境ホルモンと一般に言われている外因性内分泌攪乱物質の一つであるからだ。
米国スタンフォード大の研究チームがポリカーボネート樹脂で作られたほ乳瓶から溶出するビスフェノールAが乳ガン細胞の異常増殖を引き起こすという実験を報告している。日本では、「日本子孫基金」が横浜私立大環境科学研究センターに委託したほ乳瓶調査を実施。これは市販の6種類のほ乳瓶について、95度の熱湯を入れて一晩おき、室温にさました後、中の水を分析するというもの。結果どのほ乳瓶からも3.1〜5.5ppbのビスフェノールAが検出された。日本の食品衛生法はこのビスフェノールA素材からの溶出量は2,500ppb以下とされているので、基準を下回っており問題はないとしている。しかし、上述した米国スタンフォード大の実験では、2〜5ppbでも乳ガン細胞は異常増殖を示しており、果たして問題がないか、は断じ得ないと考えて良いと思う。
環境ホルモン
環境庁がリストアップした環境ホルモンは70種類。ただ、これらで、全ての可能性のある化学物質を網羅しているかどうか、と言う点については今後の調査が待たれる。そもそも環境ホルモンの存在を初めて明らかにしたのは「奪われし未来」(コルボーン他 著 長尾 力 訳 翔永社)である。それ以降、生殖機能への影響、成長の遅れや行動上の問題、また良く知られた例では、フロリダ州のアポプカ湖に生息するワニについて生殖能力の退行例などが挙げられてる。
順応性にも影響?
厚生省の研究班が行った調査でまたも興味深い結果が報告されている(参考資料-2) 。それは、ベンゾピレン、ビスフェノールAをマウスに与えた結果、マウスの環境への順応性が低下し、自発運動量を増加させるというもの。通常のマウスは、新しい環境に入れられると順応しようとして激しい動きを呈するものの、三十分もすると穏やかになる。しかし、ベンゾピレンを体重1kgあたり10g投与されたマウスは3-4割運動量が増えたという。しかもビスフェノールAを餌1gあたりに0.03mg,0.1mg混ぜた餌を4週間与えさらにベンゾピレンを体重1kgあたり10g投与されたマウスは運動量が最大二倍以上になったという。最近のこども達のいわゆる「切れる」という行為を考えると、この記事は見過ごすわけには行かない。詳細な研究が必要かも知れない。
また、米ミズーリ大コロンビア校のフォン・サール教授(生物学)は、ビスフェノールAを妊娠中のマウスに投与した実験から、投与量の少ない方が逆に影響が大きい場合もあるのではないかと問題を提起。 この実験では、親マウスに体重の1億分の2のビスフェノールAを投与した場合、生まれたマウスの前立腺(せん)の体積が通常より約25%も肥大した。ところが、投与量を10倍、100倍と増やすと肥大はほとんどみられなくなり、1000倍にすると逆に前立腺は縮んだという。 教授はこの結果をもとに「ある量で無害でもそれ以下の量で害が出る場合がある。多量投与から微量の場合を推定せず、別に実験をすべきだ」と警告ている。
なぜ環境ホルモンは人間の身体に影響を与えるのか。
これらの環境ホルモンが、天然に存在するホルモンによって反応するべき人間の機能に置いて、偽物のホルモンとして機能し、そうあるべき姿を妨害してしまうという恐ろしさを持っている。その上、このホルモンを摂取した世代に影響がでるのではなく、次世代に影響がでるといわれてもおり、その影響に気づくのが必然的に遅れることになり、影響はそうたやすいものではなくなることが大きく予想される。その上、本来の水の性格そのものの作用が働いて、水はこの種のホルモンをどこまでも運んでいく。川や水道水だけでなく、人間の体の中でも母乳、血液、リンパ液、血漿となって流れている。
なぜ、通産省?
化学物質の排出量などを公表していく法律、「特定化学物質の環境への排出量の把握及び管理の改善の促進に関する法律」いわゆるPRTR法は、その主管庁は、環境庁はまだしも、なんと通産省がなっている。しかも事業者はその報告を管轄官庁にする、という方法となっている(1999.05.18毎日朝刊)。
この背景は何か。今回機能していないことが明らかにされてしまった、原子力産業界に於ける科学技術庁の権限をも下回る環境庁の立場である。つまり、各企業の主管庁である各省庁はこれまでの公害事例に見るまでもなく、官民が一体となって利益の追求のためにシステムを構築してきたことは明らかであり、その結果として、天下り人事の氾濫ともなっていたわけである。民間企業の一つであるマスコミの解説は常にその事象的捉え方に他ならず、天下り人事の本質がどこにあるかの解説を放棄してきてしまっている。昨年から全世界的規模で、議論となってきている外因性内分泌攪乱物質(環境ホルモン)の報道についても、驚くほどの慎重さに終始していることは否めない。国の立場がどこにあるのかを考えるときが来ていると考えている。
私達の役割
私達人類の全体、その将来を大きく左右するかも知れない時点に我々は立っている可能性があることを認識するべき時である。証明されないから支持できないと言う論理は影響の少ないと思われる事象であればかまわないかも知れない。しかし、大きな影響となる可能性のある事象については、それでは我々の将来をあたら、放り出しているのと同じである。これは民間企業にあっては、自らの将来を、行政にあっては職務の放棄に他ならない。我々は、世界各地から発信されるこの恐るべき環境ホルモンのデーター・事象に常に目を向け、巨大な営利集団の暴走を水俣病に於ける日本チッソの例を常に引用しながら正しい倫理的、政治的、論理的選択をしていかなくてはならない。
原子力技術と並んで、石油科学技術は人間が開けてしまったパンドラの箱なのだろうか。私達にできることはもうないのだろうか。人間は今後とも存在し得るのであろうか。
以上
『参 考』
1998年02月28日 <共同通信社> 環境保護団体「グリーンピース・ジャパン」は、乳幼児向けの塩化ビニール製おも ちゃは、口に入れると生殖機能に影響を与える環境ホルモンが溶け出す恐れがあると して、使わないよう呼び掛けるキャンペーンを二十七日、スタートさせた。同団体に よると、これらのおもちゃには、素材の塩化ビニールを柔らかくするため、可塑剤と してフタル酸エステル類が多量に使われており、その中には環境庁などが環境ホルモ ンと疑われると指摘する物質も含まれる。化学物質は、大人に比べて子どもに影響し やすく、生産段階、廃棄後の焼却の際には有害物質のダイオキシンを発生することか らも、塩化ビニール製おもちゃは追放すべきだとしている。 1999年3月19日 塩ビ工業・環境協会発表コメント グリーンピースの不法行為 3月18日「’99東京おもちゃショー」にてグリーンピースジャパンの関係者と伝え られる3人が不法な建造物侵入と威力業務妨害を犯したことに対して、塩ビ工業・環 境協会は強く憂慮します。 グリーンピースは、塩ビ製おもちゃを「有害玩具」であると決めつけ、不法な手段 によってアピールしています。塩ビ製おもちゃは、丈夫、安価でかつ清潔に保つこと ができる優れた性質を持っています。塩ビ工業・環境協会は塩ビ製おもちゃが40年間 にもわたって世界中の子供たちに親しまれ、愛されてきたことを誇りとしています。 最近オランダ等で行われた検討においても、ほとんど危険はないことが報告されてい ます。 確かに口に入れる乳児向けおもちゃのリスクは、極めて少ないながらゼロではないと の意見もあり、科学的な調査が進められています。塩ビ業界は、この指摘を真摯に受 け止め、科学的事実を集め検討しています。 グリーンピースは、過去においても米国でのおもちゃショーを妨害したり、オラン ダの化学品メーカーに押し入って立てこもったりと不法な示威行動を繰り返してきま した。日本においてもグリーンピースが不法な行為によって、子供や子供を持つ親を 不安に陥れ始めたことは、大変憂慮すべきことで決して許されるべきではありません。 私どもは、塩ビ製おもちゃの安全性をさらに確認するべく、科学的な検討を積み重 ねて参ります。引き続き私どもの活動をご支援下さいますようお願い申し上げます。
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