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テーマ「地下浸水」

 

序文

 この夏、地下で二人の人が亡くなった。大雨の影響、水の力の恐ろしさを改めて思

い知らされた。地球上全てに当てはまる問題ではないが、「地下」というところは、

我々にとって身近な場所である。この先自分も被害者になるかもしれない。そのよう

な不安もあり、このテーマを選んだ。

 

何が起きたか

×事故1 6月29日 福岡

 午前九時までの一時間に77ミリという観測史上二番目の豪雨。午前九時半過ぎに

博多湾が満潮を迎え、御笠川があふれた。地形的に低い、博多駅や地下街、周辺のビ

ルにも水が流れ込み、多くの市民に影響が出た。JR博多駅近くのオフィスビル地下

の飲食店では、女性従業員が一人でランチの仕込みをしていた。午前十時頃、女性は

店主に「店に水が入ってきて逃げられないかもしれない」と伝え、その直後に悲鳴が

して電話は不通になったという。表の階段からの出入り口はシャッターが閉まってい

たため、隣の駐車場などから水が流れ込みあっという間に水没してしまった。

×事故2 7月21日 東京

 この日関東地方には一時間に最大108ミリという集中豪雨が襲った。新宿区の男

性は地下室の本や布団が心配になり、エレベーターで地下に降りた。この家は三つの

坂道が交わるすり鉢状地形の底にある。水は地面から二十数センチの地下室への降り

口を越え、階段から猛烈に流れ落ちた。地下室の扉は外開きで、水圧で中から開かな

かった。エレベーターにも、水は入り込み、男性は逃げられなかった。

※ 水圧は水深に比例し、扉にかかる力は水深の2乗に比例するという。つまり水深

3メートルでは水深10センチの900倍、4トン近くの力がかかっていた。

 

なぜ、二人は逃げられなかったのか

×下水処理の基準

 川があふれ、下水や排水能力を超える水量になった。全国の自治体の下水処理能力

は、ほぼ一時間あたり50ミリ前後の雨量を想定して設計されている。五年から十年

に一度の大雨に対応できるという目安。しかし、この基準は、大正時代のデータをも

とに設定されており、今とはだいぶ状況が異なる。最近は、三年に一度の確率で、5

0ミリを越える雨が降る。さらに近年は集中豪雨が起きる間隔が短くなっているとい

う分析もある。また、地球の温暖化により、集中豪雨は増えると指摘する学者もいる

という。

×地下浸水

 日本最初の地下浸水は1981年7月新宿の地下街、目黒区のマンションという。

その後も頻繁に起き、昨年は全国で八カ所、四十三棟の被害があった。しかし、これ

まで幸いにも人身事故にいたっていなかったため、その深刻さは見過ごされてきた。

×不十分な対策

 行政従来の治水対策は堤防が決壊しないことを最優先にしてきた。街に水があふれ

た場合、排水能力を超えた水をどう処理するかという対策は不十分だった。近年、河

川流域は舗装され、雨水は地下にしみこまないまま、下水などを通じて川に流れ込

む。すると、河川の水位は早くピークに達する。さらに、建築基準法の改正で、住宅

街に地下室が増えた。地下の防災は防火、地震対策が基本。火災では出入り口が多い

方がよいが、水没には逆。

 

十分な対策は

×緊急対策

 建設省など関係四省庁は@地下の豪雨、水害の危険性の周知、啓発A地下空間管理

者への洪水情報B避難態勢の確立C水の進入防止など被害軽減対策の促進―の緊急対

策を公表した。

×下水処理能力

 東京都では下水処理能力を75ミリに強化するという構想もある。しかし、現実的

には七十年以上かけて整備してきた都市基盤を直ちに改修するのは不可能なこと。

×専門家は

 京都大学防災研究所の河田恵昭・巨大災害研究センター長はこう指摘する。個々の

地下街や地下鉄について、避難ルートをどうするか、地上の出入り口をどれから優先

的に閉めるのか、停電の場合はどうするのかなど、ソフト面で綿密な対策を立てるこ

とが必要である。

 

私たちにできること

 現状では、地下空間では、情報の伝達が遅く、地上で起きていることがわかりにく

い。水の力は、恐ろしく大きいこと、水害の危険性を心しておくこと。地上が水であ

ふれ始めたら、地下には入らないことなどしかできないだろう。しかし一連の原因を

つくりだしたのは我々人間である。水は、その「生態」のままなはずである。道路の

舗装や、地球の温暖化など、産業の発展の代償が、その発展の中心地で起きていると

いうのは何とも皮肉なことである。月並みではあるが、これからの時代は産業の発展

ではなく、自然との共存を第一に考えるべきではないだろうか。

 

参考―地球の温暖化に伴う集中豪雨の増加(仮説)について

 温暖化が進むと、空気が含む最大水蒸気量が増え、降水量が多くなる。温暖化は上

層より下層で進むため、下層の空気が上昇しやすくなって対流活動が盛んになり、降

雨は上昇気流域に集中しやすくなるため。

 

参考文献

http://www.fujitv.co.jp/jp/supernews/special/toku0831.html

http://www.nishinippon.co.jp/media/news/9906/gouu/toshi.html

朝日新聞1999年10月15日金曜日朝刊 第三社会面

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