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海水の淡水化
現在、日本では生命維持に不可欠な淡水を手に入れる事は非常に容易である。しか
し、この地球上には淡水を手に入れるのが非常に困難で、水資源の確保をめぐり武力
による争いまでが起こっている。日本人が普段ほぼまったく不自由していない淡水で
あるが、ひとたび地域が変われば、非常に貴重なものへと変わるのである。
<淡水資源の地域的不均衡>
地球は『水の惑星』と呼ばれるが、淡水は2%しかなく、地域的に見ると不均衡であ
る事がわかる。特に、中東地域、アフリカ地域などでは、淡水資源をめぐり武力衝突
までもが起こっている。そもそも、イスラエルがゴラン高原を現在も支配下において
いるのは、ヨルダン川からの水資源の確保のためである事が一つの理由である。ヨル
ダン川のように、国境をまたがって流れる、国際河川は、その利用をめぐって問題が
起こりやすい。上流地域だけが貴重な水資源を使うわけにはいかず、下流地域も考慮
し、水資源を使っていかなければならない。また、水質汚染も、下流地域には重要な
被害をもたらす。安全な水が手に入らないと、衛生面の悪化、農耕牧畜、児童の健康
への影響など、大きな被害をもたらす可能性がある。
安全な淡水を手に入れる事は、その国が発展していく過程において、不可欠な事で
ある。現在、日本やアメリカなどの先進諸国では、一日に消費する水の量は増加の一
途であり、先進諸国においても、不足気味になりつつある水の問題をどう解決したら
よいかという事が話し合われてきた。
<海水の淡水化>
そのような状況において、地域的に淡水を入手する事が非常に困難な場合、特に中
東地域、また、慢性的な水不足に陥りつつある大都市部などは、海水を淡水化する事
によって、生活用水を入手しようとしている。地球上の水の量は、水の誕生以来変化
していないために、ある水を利用できるようにするしかない。そうして考え出された
のが水の淡水化であり、近年急速に進歩している。先進国にとっても、自国の利益に
なるために開発を続けてきた事が一つの理由であろう。海水の淡水化にはいくつかの
方法がある。
<蒸発法>
蒸発法とは、海水を加熱し、その蒸気だけを集め、冷却し、淡水を入手する方法で
ある。多段フラッシュ蒸発法という方法が最も使われている。これは、海水を熱し、
低圧室に送ると、圧力が低い状態では水の沸点は低下するために、一瞬で蒸発する。
この蒸気を冷却し、圧縮してまとまった淡水を得る方法である。この蒸発法は、蒸発
させるために大きな熱エネルギーが必要で、そのためには石油が必要になるために、
中東地域向けの方法である。
<逆浸透法>
この方法は、海水の塩分は殆ど通さないが、水分子は自由に通る特殊な薄い半透明
膜を用い、片側に溶媒として淡水、もう一方に溶質として海水を用いると、水分子が
海水側に移動し、海水が薄められる。水分子の浸透は、海水に圧力をかける事で抑え
る事が出きる。これが浸透圧であり、浸透圧より大きい圧力を海水側にくわえると、
逆に、海水中の水分子が半透膜をとおって淡水側におしだされる。この原理にもとづ
いて、海水に圧力をかけ半透膜におしつけ、膜をとおってくる淡水をとりだす方法が
逆浸透法である。この方法はエネルギー消費量が少ない海水の淡水化法として注目さ
れ、研究開発がすすめられてきた。またすでに実用化されておりその利用率も年々ふ
えてきている。
<電気透析法>
膜をつかって、おもに淡海水を淡水化するのに用いられている方法が電気透析法で
ある。塩分が水にとけると、陽イオンと陰イオンにわかれる。陽イオンのみをとおす
陽イオン交換膜と、陰イオンのみをとおす陰イオン交換膜で隔離された間に淡海水を
いれ、陰イオン交換膜の外側を陽極に、陽イオン交換膜の外側を陰極にして直流電圧
をかけと、陰陽両イオンはおのおの膜の外側にひきぬかれ、膜と膜の間に淡水がのこ
るので、この淡水をとりだす。
この方法は、溶液中のイオン濃度が高くなるとそれだけ電力、すなわちエネルギー
が必要となるため、おもに塩分濃度の低い海水の淡水化にもちいられている。
1962年アリゾナ州の町でこのプラントが操業し、その町のすべての水を供給した。
1日に約250万リットルの水を、6300リットル当たり約1ドルで供給した。
<凍結法>
純粋な水に比べ、塩水は融点が低い。海水が凍っても、氷には、北極、南極の氷の
ように塩分は含まれていない。この氷から、表面の塩分を取り除く方法が凍結法であ
るが、潮を取り除くのが難しいために、あまり実用化されていない。
<現状及び今後の展望>
海水の淡水化により得られた世界の淡水の量を方法別にみると、蒸留法が61%で、
全体の52%は多段フラッシュ蒸発法、5%が多重効用式蒸発法、4%が蒸気圧縮蒸留法
である。ついで、逆浸透法は33%、電気透析法は6%、冷凍法はかぎられたところでし
かつかわれておらず、数字のうえでは0%である。またとりだされた淡水の用途は、
62%が飲料水、25%が工業用水である。地域別にみると、中東55%、アメリカ15%、ヨー
ロッパ9%、アジア8%、アフリカ7%などである。日本では工業用水や、離島などの飲料
水用につかわれている。
現在、海水の淡水化は、主に中東、先進諸国にて行われている。それは、中東の石
油という資源、先進諸国の豊かな資本があってこそできる事である。海水を淡水化す
る事は、現実に既に可能である以上、この技術をどう世界に広げていくかが問題であ
る。アフリカ諸国などは、そのための資本がないために、十分な技術を用いる事がで
きない。また、運営上のコストも問題である。しかし、このコストに関しては、アメ
リカでは原子力を用い、コストの低下化を進めている。国内の原子力の理解があれ
ば、低コストで運用する事も可能である。後は、他国からの政府開発援助(ODA)な
どを持ち入れば、発展途上国でも、運用が可能である。それにより、紛争の防止及び
解決にもつながるであろうし、地域の安定にも貢献できる。地球上の水量は普遍であ
る。その限られた中で、淡水はさらに限られている。豊富にある海水を利用する事ま
で可能にする事ができたのも、人類の知恵であり、今後もこれらの知恵が、水という
生活と深く結びついている物との関係をつなげていく事であろう。
<参考・引用文献>
水の不思議 http://www.jwcc.co.jp/strange.html 外務省ホームページ http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/economy/summit/denver/com_kari.html http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/hyoka99/99_5_1.html 国連大学 Work Prgress ホームページ http://www.unu.edu/hq/japanese/newsletter/wip-j/wipj-15.2.html#water グリーンクロスジャパンホームページ http://www.gcj.or.jp/GCJ2/i2.html
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