2003NSIII 「自然の化学的基礎」 

 21世紀がなぜ「水の世紀」と言われるのか

                             匿名希望

 

 <今世紀半ばには70億人が水不足>                 

 ユネスコなど国連の23機関は03年3月、水質汚染と水の浪費の結果、21世紀半ばには、最悪の場合で世界人口の7割にあたる60カ国の70億人が、また良く見積もっても48カ国の20億人が、深刻な水不足に直面する、との予測を発表した。(03年3月5日毎日夕刊)                             

                     

 他にも、開発途上国を中心とする世界各地で水質汚染・洪水被害の増大などの水問題が発生しており、これに起因する食糧難、伝染病の発生なども深刻な問題だ。    

  水不足で枯れた河川(アメリカ、ダラス 1998)                                                                                  

 水が原因で年間500〜1000万人が死亡、10億人以上が安全な飲料水を確保できない、2025年には48か国で水が不足する見込み(特に北アフリカ、西アジア、南アジア)、水にかかわる病気で子どもたちが8秒に1人ずつ死亡、途上国における病気の80%の原因は汚れた水、世界人口の50%に対し下水道などの衛生設備が未整備、淡水魚の20%の種が水の汚染で絶滅の危機、地下水面の低下、人口増加の2倍の速さで水の使用量6倍…

 このように悲惨な水環境の中、@水資源の獲得を目的とした軍事行動、A水供給システムの攻撃、B水を紛争の手段として使う、C河川の取水をめぐる紛争、とP.H.グレイクが四つに分類したような水紛争が発生している。「20 世紀は石油をめぐって経済的戦争が繰り返された。現在の状況が続くとすれば21 世紀は水をめぐる紛争の世紀になるだろう」という、1995 年に当時世界銀行の副総裁であったイスマイル・セラゲルディン氏のことばは現実のものになってしまうのだろうか。

 

<水不足を防ぐには農業用水を減らすことが鍵>

 利用しうる淡水のおよそ70パーセントは農業のために利用されている(国連広報局)。しかし特に開発途上国において灌漑施設が不備なために、灌漑用水の60パーセントは蒸発してしまうか、また川や地下水の帯水層に戻ってしまって作物に水が有効に吸収されない。今までの灌漑農業のやり方では水を使いすぎる上、今後の人口増加に対応しきれない。そこで灌漑農業の見直し・高度化が求められている。S.ポステルは作物の根に直接水を与えるドリップ灌漑や踏み子式ポンプなどの有用性を指摘し、これら既存の技術を活用すれば世界全体の水消費を半減できる可能性があるという。他にも、気温や気象情報をコンピューターに入力して灌漑時期を調整する方法や作物の品種改良などが期待を集めている。

 世界で農業・食料と水に関する様々な問題が発生している事を知識として知っていても、蛇口をひねれば水が流れてくる日本では水不足など対岸の火事のように思っている人も多いのではないだろうか。しかし、それは大きな間違いである。

 

<日本は世界のを使っている>

近年、食料の輸出入が食料生産に必要な水の輸出入に相当するという「仮想水」(バーチャル・ウォーター)という概念が提唱されている。日本が輸入している食料品を生産するためには、約439億m3の水を必要とするという試算(第3回世界水フォーラム事務局資料による)がある。私たちは世界の水を使って生活しているのだ。

[主な輸入品の生産に必要な水量]

日本の仮想水輸入量(総合地球環境学研究所・沖 大幹)

 

 これは日本の農業用水の取水量580億m3の約7割の水に相当する数字であり、水の豊かな国である日本も世界の水危機と無関係ではいられないということを示している。日本国内の水環境について国土交通省水資源部では、長期的な水需要の見通しを示すとともに、水資源の開発、保全、及び利用に関する基本的方向を明らかにするため「全国総合水資源計画」を、次いで1999年6月に、2010年から2015年を概ねの目標年度とした「新しい全国総合水資源計画(ウォータープラン21)」を策定した。ウォータープラン21では、健全な水循環系の構築に向けて@持続的水利用システムの構築、A水環境の保全と整備、B水文化の回復と育成、という3つの基本的目標を掲げている。国内はもちろん、世界の水環境に適用できる目標である。では、その目標を達成するために私たち市民ができることは何なのだろうか。

 

 <を意識しよう>

 P.H.グレイクは、35万セットの旧式トイレを新型に取り替える節水プログラムに取り組んだ結果25万世帯の消費量に匹敵する水の節約に成功したメキシコ市の例を挙げて、身近な節水を奨励している。何気なく流しているトイレだが家庭用水のうち約24%を占めているのだから馬鹿にできない。その他の家庭用水の使い方は、風呂(約26%)、炊事(約22%)、洗濯(約20%)といった洗浄を目的とするものが大部分である(国土交通省調べ)。食器を洗う際や洗濯時に使用される洗剤も厄介な存在だ。京都生協の石鹸洗剤・「ゆりかもめ」など、環境に配慮した製品も売られるようになってきた。消費者が環境に関心があることを示せば企業は「環境に優しい」商品開発に乗り出さざるを得ない。この動きは電化製品の市場にも最近表れている。水の量が少なくてもすむ洗濯機・トイレや食器洗い機、待機電力の少ない冷蔵庫などのエコ家電だ。実際、新しい技術を導入することは節水にもつながるので電化製品を買い換える際の選択基準となるべきである。また、雨水の利用が有効である。例えばソーラーシステム研究グループのメンバーである佐藤清氏の自宅は雨水を地下に40トン溜めることのできるエコハウスである。40トンの雨水は家庭の浴槽150杯分に相当するという。雑木林が切り開かれ自然の洪水調整の機能が著しく減少した土地に建っているため、雨水を溜めることには洪水の被害を少しでも緩和させる狙いもある。溜まった雨水は主にトイレの洗浄用水となり、年間120トンの節水になる。トイレに流す水・水やり用の水が飲み水と同じ程清浄にろ過されたものである必要はないのではないだろうか。別に雨水を地下に40トン溜める設備がなくても、雨水を利用することはできるはずである。バケツに溜めておいた水で庭の植物に水やりをする、など自分の生活の中で始められることはあるだろう。水を意識して生活すれば節水はできるはずである。温暖化と重なって、渇水・洪水などの水害が都市部でも頻発する恐れがある世の中なのだ。水は貴重なものなのだと念頭において、水の「垂れ流し」をやめる。その一ひねりこそ世界の水危機を防ぐために私たちができる第一歩である。

 

 水の世紀という呼称は、前述のイスマイル・セラゲルディン氏のことばに由来するのだが、私は「21世紀は水の世紀」といわれる理由は、今世紀が重要な岐路だからだ、と解釈している。   

 21世紀が「水危機を悪化させた破滅の世紀」といわれるようになるか「水環境を建て直し循環型社会の始まった喜ばしき世紀」といわれるようになるかは、今この21世紀を生きている私たち次第なのだ。

 

参考文献

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