2003NSIII 「自然の化学的基礎」 

「21世紀は水の世紀」

 石河 貴行

 

1. 「21世紀は水の世紀」の理由  

 21世紀は水の世紀と呼ばれている。その理由を二つの視点から見ることが出来る。まず一つ目は、21世紀に起こるであろう人口増加と、それに伴う深刻な水不足という視点である。二つ目は水をめぐる自然環境の悪化という視点である。

A. 人口増加に伴う水不足

 現在世界の人口は60億人強であるといわれているが、2050年までに89億人にも上るであろうといわれている。ただでさえ現在、発展途上国をはじめとする世界各地で飲み水や農業用水などの水が足りない地域があるのに、これ以上増えてしまうとそれこそ水が手に入らない人が世界各地で増えていくだろう。そしてこの水不足と密接に結びついているものとして、食糧不足がある。実際に、米1トン生産するのに必要な水は2,500トン、麦で1,000トン、肉で7,000トンとされているのを見ても分かるように、食料を生産するのには大量の水が必要なのだ。このように、人口増加により水不足が生じ、それは食糧不足という問題にまでつながっていく。そうなると次に懸念されるのは、その水をめぐって世界中で紛争がおこるのではないかということだ。これは、20世紀が、石油をめぐる紛争の絶えなかった世紀であることからもうかがうことが出来る。20世紀は石油という限りある資源をめぐっていくつもの戦争が起こった。中東戦争、イラン・イラク戦争、湾岸戦争などがその例である。そう考えると、21世紀は、圧倒的に足りない水を求めて紛争が起こる世紀になることも十分考えられるのだ。これが、「21世紀は水の世紀」言われるひとつの理由である。

B. 水をめぐる自然環境の悪化

 近年、世界中で自然環境が悪化しているという報告を耳にするが、中でも湖沼や河川、それに連なる河口の干潟などの水をめぐる自然環境の悪化が顕著になってきている。実際にWWFが1998年に製作したレポートには、ここ30年の間に、淡水生態系の豊かさが、約40%以上失われたとかかれている。水は、自然界のサイクルにおいて欠かすことの出来ない重要な存在で、あらゆる生命の土台となる物質である。その水が汚染されることにより、世界中の生物が、減少や絶滅などの悪影響を受けることになるのだ。ここ数十年の間に絶滅が危惧されてきたカエルに関しても、水と、水をめぐる自然環境の悪化が影響しているのではないかといわれている。このように、水をめぐる自然環境の悪化が深刻となってきた現代において、どのようにして自然環境を回復させるのかが、21世紀の課題となっている。それが、「21世紀は水の世紀」といわれるもう一つの理由だ。

2. グローバルな視点での対策

A. 人口増加、水不足、食料不足への対策

  先にも述べたように、世界の人口は2050年には89億人にも上るほど増えるといわれている。それに伴って、世界中で水を確保できない人の数も増えるだろうといわれている。それは、現在の5分の1に対し2025年は3分の1が水不足となり、2050年には地球全体での水不足になるだろうといわれている。これを防ぐには、人口増加を防ぐことも重要であるが、それと同時に国家間での食料の輸出入を抑えることが重要になってくる。なぜなら食物の輸入はすなわち水の輸入ということになるからである。現在のグローバル化してきた社会では、大量に食料が世界中を移動しており、その傾向は将来的により大きくなるだろうと思われる。しかしこれは、水のない地域からさらに水を奪ってしまうようなものなのだ。実際に、日本は年間744億トンの水を、食料を通して輸入していることになり、世界一の水輸入国になっているのだ。なので、国として、他国からの食糧の輸入に頼ることのないように、食料自給率を上げていくことが大切になってくるのだ。

B. 自然環境への対策 

  21世紀に自然環境保全をするにあたって重要になってくることは、自然破壊が起こっている湖や川、湿原や干潟だけに焦点を当てて保全するのではなくて、その地域一帯を丸ごと保全することが大切になってくる。なぜなら水というものが自然環境に及ぼしている影響は非常に広い範囲にわたり、様々な要素が絡み合っている場合が多いからだ。さらに、これからはよりいっそう国家間で協力して保全に取り組まないといけなくなるだろう。それは、水(川や湖など)にとっては国境などないのだから、国境を越えた対策をしなければとても保全など行えない。なので、21世紀に必要な保全の考え方として、「集水域」という考え方がある。これは、一本の川の水を取りまく周囲の広いエリアのことだ。この「集水域」という考えに基づき、国境を越えた環境保全を行っていくことこそ21世紀に必要なことであろう。

C. 淡水の質の回復

  人間生活と深いかかわりを持ち、あらゆる生命の土台となっている水、特に淡水の重要性が近年見直されてきている。雑誌「National Geographic」によると、世界中の水の1%しか飲み水や灌漑、工業用に使えないという。これの原因として、発展途上国での下水の川への垂れ流しや、設備不足のため水を引くことが出来ない地域が多いことがあげられる。21世紀は、このような地域の淡水の質の向上を図り、より多くの用途に淡水が使えるようにすることが必要であろう。その一つの例としてガンジス川における川の浄化プロジェクトが計画されていることが挙げられる。

 ウ)ガンジス川の浄化

   ヒンズー教徒にとって聖なる川であり、多くの教徒に沐浴が行われているガンジス川だが、科学的に水質を調べると、一般に沐浴のできる川の安全値の80倍もの大腸菌が存在していることが分かっている。多いところでは2、000倍にも上っている地域もある。この原因は、下水が直接川に流されること、川で洗濯したり、体を洗ったりしていることである。この大腸菌のために腸チフスなど様々な病気にかかる人も少なくない。また、この水で作った作物にはいやな臭いがついているのだという。このためインドのバラナシでは下水管を地下に通して集め、浄化するなどの方法を検討している。このように、川が生活の中心になっている地域、国では、いかにその水質をきれいにするかがこれからの課題である。そのためにも、川の一部の地域だけでなく、その川と関わりあるところすべてを保全する必要があるのだ。 

 

3. 私自身が出来ること 

   私たちが出来る水に対する接し方として、基本的なことではあるが、無駄遣いをしない、再利用をする、ということが挙げられる。しかし、基本的なことほど難しいといわれるように、これらを実行に移すのは、水に慣れ、ありがたみを忘れつつある私たちにとっては非常に大変なことである。ラスベガスのBellagio Hotelでは、たえず盛大な水を使ったショーが行われている。世界の5分の1の人々が安全な水が手に入らない状況にあるのにだ。やはりこれからの世紀は、自分の身の回りの水を見つめなおし、無駄遣いしている水をなくすことを第一に考えなければならないと思う。そして、私たちが水に関心を持ち、現状を見つめ、何が出来るのかを一人一人が考えるもの必要不可欠だ。そして、得た水に関する新しい認識や情報を多くの人に広げていくこと大切であろう。そうすることによって、水環境保全の運動にもつながるであろうし、水不足から生じる食糧不足、そして紛争の防止につながるであろう。現在、マイナスの意味で使われることの多い「21世紀は水の世紀」という言葉だが、「水問題が深刻化した世紀」と呼ばれるのか、「水問題を克服した世紀」と呼ばれるのかは、私たち一人一人のこれからの行動に掛かっているということができるだろう。そのような重大な世紀をすごす私たちはやはり、水をもう一度見つめなおし、関心を持ち、行動に移しながら生活することが大切なのである。

 

参考文献

 

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