2004 冬学期 NSIII 「自然の化学的基礎」 課題 I 「川と人間生活」

  舞岡川 (神奈川県)

                                松永 優

 

 横浜の田舎町とも呼べる舞岡。私が現在住んでいる町である。その小さな町を流れる小さな川,舞岡川について調べた。上流から下流まで私は川と共に短い旅に出た。これまで川に対してあまり思い入れがなく,近所の川と言われてもピンとこなかった。今回あらためて川を見つめ直すことで,川を取り囲む様々な自然が私の周りにはまだ残っているということに気づかされたのであった。

 

 舞岡川は舞岡公園を源流域として北西に流れ,柏尾川に合流する延長およそ2kmの河川である。まずは源流域である舞岡公園を訪れた。川について語る前にこの公園について少し話しておきたい。舞岡公園は山に囲まれた谷戸の公園で,様々な野生動物が生息している。公園ときくとブランコや滑り台などを思い浮かべるかもしれないが,ここでは一般の遊具や人工的なコンクリートの道は見られない。代わりに大きな木や走って遊べる広い野原,いろいろな生物を発見できる池や雑木林が敷地いっぱいに広がっている。ここは水源の森でもあり,わき出る水は今回私が調べた舞岡川などを生み出している。またその豊富な水によって水田活動も行われ,毎年とれた作物や米で収穫祭が催される。私が小学生の頃,授業で毎週この公園に自然観察に行ったのをよく覚えている。自然環境保護の仕事をしている人たちが公園内を案内してくれ,様々な野生動物などを紹介してくれた。それに伴って私たちも環境保護を訴えるポスターづくりや自然を守る活動を行うことがしばしばあった。谷戸で田植えや稲刈りなどの農業体験もやっていた。自分達で育てた米でついた餅は本当においしかった。そんな自然にめぐまれた場所から舞岡川ははじまっているのだ。

 

 水源そのものを発見することはできなかったが、公園内のいたるところで池や川や田園が見られた。10年ほど前には春になると川で黒いメダカが泳いでいたのを覚えている。夏にはザリガニを取ったこともあるが,ここ数年そうした生き物を取ることは禁止されている。池ではよくカワセミやサギが見られた。公園から少し下ったところでは川は道の端に整備されており、神社の前や住宅地を通ってゆるやか流れていた。水源地周辺も含めてとても狭く浅い川のため,泳いだことはない。住宅地の方でもザリガニが取れた記憶があるが、今回は野生と思われる生き物は見当たらなかった。水は透明で底の石ころや砂がよく見えた。ここまでが私が舞岡川について知っている範囲だった。        

 

そして今回,私はまだ足を運んだことがない場所へと川の行方を追ってみた。交通の多い駅や学校周辺まで出ると川の幅や深さが倍以上に広がり,流れも速くなっていた。水源地周辺ほど近くで観察できず、上から見下ろすような形になった。鯉やカモが見られたが、なんだか不自然であった。誰かが放し飼いにしたのかもしれない。ゴミなどは全く見られなかったが,入りたくなるような綺麗さはなかった。いくらきれいな川でもこの寒さの中何の目的もなく冷水に浸りたい愚か者は数少ない。この辺りまでくると川の両サイドはコンクリートで整備されていた。BRIDGESTONEの工場の前まで来た。私はこのときBRIDGESTONEの由来が石橋社長からきていることを初めて知った。それはさておきここで舞岡川は柏尾川に合流する。短い滝のようにドドーッと水が落ち,大きな川に吸い込まれて行く。合流地点の柏尾川の幅はこれまでの舞岡川のさらに倍はあり、大きな橋が掛かっていた。ゴミや泡などは見られず、汚いという印象はなかったが、水源地付近で見られた透明感や純粋な水というイメージはもはやなかった。柏尾川はその後江ノ島へ流れ着く境川と合流する。ますます広い世界が待っている。今まで何気無く通りすぎてきた川であったが,あらためて見てみると短い旅にもかかわらず数々の段階を踏んでいることがわかった。そして下流になるごとに川は泣いているようにも思われた。合流後の川の行方は追っていないが、恐らくもっと汚染されていると予想できる。今現在はゴミは見られない。せめて今以上川を汚さないように地域で川を守る試みをしていく必要がありそうだ。また表面上はキレイでも水質はどうなのだろうか。生き物が全く見られないのは正直不安である。工場や駅周辺の川で黒いメダカを発見するのはなかなか困難であるが,ごく自然に鯉以外の魚が泳いでいるのが見られるような川であり続けてほしい。やはり1人1人の川や水、自然に対する関心がカギとなると私は思う。

 

父は30年以上前からこの舞岡に住んでいる。早速昔の舞岡川や源流付近の様子をたずねてみた。源流付近には谷戸が広がり、湿地の何も整備されない敷地だったそうだ。公園として整備されたのは私が生まれてかららしい。谷戸から流れた水があわさって舞岡川となった。神社あたりは今のように整備されておらず、水面が見えないくらいの藪に覆われていた。また川には様々な生き物がいたという。ザリガニ、黒いメダカや数種類のカエル、ホタルも見られた。40年前は野生のカメがいたそうだ。もっと昔は駅周辺の幅の広い川でウナギが取れたこともあるらしい。黒いメダカ、カエルのたまごやおたまじゃくし、ホタルは私も数年前に見た記憶がある。話を聴く限りではさほど変化は見られないが,多少人の手を加えた部分はあるようだ。カエルも今は数種類確認するにはあちこち探す必要がありそうな上に,私が見たことのあるおたまじゃくしの1種類はアメリカから持ち込まれたカエルだということもわかった。今回は冬だったということもありあまり生き物の確認はできなかったが,もう少し温かい時期になったらまた確認しに行きたいと思う。今回私の知る範囲の舞岡川は以前とほとんど変わりなかった。これは大変喜ばしい。来年も5年後もその後もずっとこのままの状態であることをのぞんでいる。特に源流域は舞岡公園を含めこれからも自然豊かな状態を保護されていかなければならないと強く感じる。

 

 舞岡川なんぞという小さな川にはホームページなどあるはずがないと思いつつもとりあえず検索してみた。あった。こんな田舎でもネットで紹介されているのか!と少々おどろいた。そういえば最近では市や地域のペーパーに舞岡公園が紹介されているのを時々目にする。しかも40件以上もヒットしている。さっそくメインのページを見てみた。横浜市が開いている市の紹介サイトである。その中の一部の項目にちゃんと舞岡川が紹介されていた。川の長さや流域面積,どこからはじまってどの方向へ流れるのかなどなかなかきちんとした説明だ。ここでわかったことは,川がコンクリートで整備されているのは洪水を防ぐためらしい。市役所に感謝。ちなみに舞岡公園も紹介されていた。またその他のページでは,主に舞岡川を通してその周辺地区や舞岡公園の紹介をしているものが多く見られた。どれも舞岡の昔のままの景色や豊かな自然をアピールしているように思われる。私はできるだけ多くの人にこののどかな舞岡を知ってもらいたい。こんな辺鄙な場所を紹介しても何の得にもならないかもしれない。しかしながら何もないからこそ何も手を加えない自然を体感できるのである。私はここで生まれ育ってよかったと思っている。

 

 川は大昔から世界中の人々の生活に関わってきた。特に日本では米を作るために用水路として川の水が利用され,谷戸ができた。洗濯機のなかった頃は川で洗濯をした。水洗トイレのもとは川である。桃太郎や一寸法師や大工とおにろくなど昔話でも川は多く登場する。中国とのつながりもあるが,天の川と呼ぶように銀河を川の姿にたとえている。川は人々の生活と密接な関係にあるのだ。しかし,全国には多数の川が存在しているものの,最近では川との直接的な関わりが少なくなってきているように思える。川で洗濯をする姿は滅多に見られない。都会では家の近くに川がない人の方が多いだろう。そういった川と人間生活との関わりが薄れることで人々の川に対する意識も低下してきているのかもしれない。川に対する思い入れがなければ川を汚すこともためらわずできるだろう。川が育む生き物を自分勝手に捕ることも可能だろう。だからと言ってこのままで良いとは決して言えない。今一度川に対する意識を高める必要があるのではないか。現在公園や川は整備されている。私はそれはそれで良いと思う。整備された歩きやすく安全な公園にすることでより多くの人が雑木林や谷戸に触れようとこの場所を訪れてくれるからだ。同時に川にも目を向ける。舞岡に限らずどこか自然の豊かな地に一度触れてみることで,1人でも多くの人が水の生き方に関心を持ってくれたら,それは川を守る道へと通じるのではないだろうか。

 

 舞岡川に関するHP

http://homepage.mac.com/relham/Maiokagawa/

http://www.city.yokohama.jp/me/cplan/mizu/kasen/syoukai/maioka.html

http://www.city.yokohama.jp/me/totsuka/kids/river/maioka.html

 

 

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