「四万十川と人間生活」

 

 四万十川は高知県西部を流れる「日本最後の清流」で ある。その全長は196km、流域面積は2270平方kmで ある。現在、四万十川はその魅力で多くの人をひきつけている。夏になると、県内外から多くの家族連れや学生の団体がキャンプやバーベキューを目的に訪れ る。彼らが残していくのは、その残飯や空き缶、真っ黒な焚き火の跡である。周辺住民の間では、その惨劇を哀れんでか、「四万十の夏の風物詩」とさえ言われ ている。高知県内ではそれを訴えるために、「四万十川にゴミを捨てないで♪ゴミ嫌!」と鮎が歌うCMも 流れている。

 

 四万十川にも四季がある。春、川岸一面に菜の花が 咲き乱れる。それと川のコントラストは言い様も無いほど美しい。夏、新緑の季節。水面に移る緑と太陽の光で、その川面は美しくキラキラと光る。秋、紅葉の 季節。真っ赤に色づいた紅葉の葉が川面を流れ、今年が終わりかけることを伝えてくれる。冬、収穫の季節。落ち鮎漁の解禁と青海苔の収穫が始まる。

 

私の実家がある高知市から四万十川までは車で2時間 ほどの距離がある。夏休みにはよく両親や親戚とキャンプに行ったものだ。中でも、思い出に深く残っていることが3つある。まず1つ目は沈下橋と呼ばれる橋 から、ダイブをしたことである。沈下橋とは、欄干がない橋のことであり、水かさが増えた時には橋が全て使ってしまうことから、そう呼ばれている。今では怖 くて飛べそうも無い高さから、少年だったあの頃は平気で飛んでいたことを思うと自分も老いたと感じる。

深木(三里)沈下橋

高樋の沈下橋

 2つ目は、はじめて自分の力でうなぎを捕まえたこ とだ。うなぎバサミという透きバサミに似た鋏を使って、四万十の天然うなぎを捕まえた。そのうなぎの味は今でも忘れることができない。と言いたいが、うな ぎの入れ物をひっくり返してしまい、私の口に入ることはなかった。

 3つ目は火振り漁といわれる、四万十に伝わる伝統 的な漁を体験したことだ。

火振り漁四万十川のアユの解禁日は5月15日だが、アユ漁が 本番を迎えるのは7月からで、この時期から川の中上流域で火振り漁が行われはじめる。昼にあらかじめ川を横断するように網を仕掛けておき、夜に舟を出し、 舟上でかがり火を振りまわす。アユは水面に映る火の帯に驚き、逃げまどい、網の中に追い込まれる。こちらの方は、その後私の口にも入った。四万十の海苔を 食べ、大きく育ったアユは、香りもよく、程よい油のノリで大変美味であった。

 

このように、楽しい思い出を多数持つ四万十川も近 年、変わってきている。四万十川最後の渡し船だった四万十市営「下田初崎渡船」が、2005年12月末に、船の老朽化や赤字を理由に廃止されたのだ。四万 十川流域にはかつて多くの渡し船があり、昭和初期から四万十川河口を結ぶ住民の足として人々の生活を支えてきた。しかし、自動車の普及や橋の架設に伴って 渡し船は次々と姿を消し、2002年には同市勝間の「学童の渡し」が廃止された。近年は遍路ブームで乗船客が増えてきていたが、廃止への流れを止めるまで には至らなかった。「下田初崎渡船」は河口の下田地区初崎地区の約1キロを十分ほどで結ぶ。利用者は 1977年に年間約5000人を数えたが、1985年ごろからは1000人前後で推移。さらに1996年、3キロほど上流に四万十大橋が完成したことで、 2000年には約600人にまで落ち込んだ。 しかし、環境省は「昔から遍路道として親しまれてき た」として、航路を「四国のみち」に指定。ここ2、3年は遍路ブームにも乗って歩き遍路を中心に1000人を超えるなど健闘していたが、 四万十川の昔の風情を残す渡し船は、昨年ですべて姿 を消した。

また、いくつかの沈下橋も老朽化を理由に撤去される ことも決まっている。昔の風情漂うものが失われていくのはとても悲しく、寂しいことである。

そんな中でも、我々が守れるものもある。それは、四 万十の自然である。「日本最後の清流」といわれる四万十川。高知県はこの川を流域の住民はもとより、県民・国民共有の財産として、後世に引き継いでいくた めの基本的なルールとして、平成133月に「四万十川条例」を定めた。そこには目指す将来 像が次のように示されている。

 

    四万十川の水量が豊かで、かつ、清流が保たれている こと。

    四万十川に天然の水生動植物が豊富に生息し、又は生 育していること。

    四万十川の河岸に天然林が連なり、良好な景観が維持 されていること。

    流域内において、人工林が適正に管理され、天然林と ともに多様な森林が形成されていること。

    季節ごとの優れた景観を有していること。

    住民の安全かつ快適な生活が保たれていること。

    四万十川がこどもの遊び場として活用されているこ と。

    四万十川を生かした産業が活性化し、持続的に発展し ていること。

    流域内又は流域外との地域間交流が活発に行われてい るとともに、その活動が、住民の生活又は流域の生態系に負荷を生じさせていないこと。

・情報通信網が整備され、その活用が図られているこ と。

 

これらを実現するには、自治体だけではなく、周辺住 民や、キャンプなどの利用者の貢献が必要不可欠である。ゴミを捨てない、過度の森林伐採や植物採集をしないなど、単純なことが未来に繋がるのだ。

 高知県民に聞けば、誰もが、高知の誇りの一つに四 万十川を挙げる。その誇りを守ることが我々の使命かもしれない。

 

参考文献

四万十川流域振興室  <http://www.pref.kochi.jp/~shimanto/index.html>

沈下橋便り <http://www.city.shimanto.lg.jp/simanto/chinka.html>

binbinet     <http://binbi.net/shimanto/river3.htm>