「川と人間生活」
田越川
私が取り上げるのは、神奈川県逗子市を流れる田越川です。
逗子の住宅街、街中を通るこの川は、やがて逗子海岸へとたどりつき、海につながります。この川が流れるところどころの風景は、自然が豊かな小さな街、逗子市を象徴しているようなものだと思います。
現在の川の様子
私の家から一番近い田越川では、高低差がかなりあるものの、下へと降りられるように
なっていて、好奇心旺盛な子供たちが川辺で遊んだりしています。色とりどりの丸々と肥えた鯉がたくさん泳いでいて、親子ガメや、小さな魚の群れもよく見られます。
また、カルガモの親子やほかのカモもよくこの近辺を泳いでいて、サギなどの鳥が
水辺でえさを採ろうとしている光景もよく見られます。
また、京浜急行が走り、田越川が流れるその間には、遊具がいくつかある小さな公園もあり、小さな子供のいる親子や、犬を連れた人の散歩コースになっているのでしょう。逗子市内のあちこちで、このようなのどかな風景を、この田越川とともに見ることができます。普段は住民もあまり意識することはないと思いますが、田越川は、実は逗子の
自然、そして街並みを豊かにする上で、非常に大きな役割を担ってくれているのだと
レポートを書くにあたって気づかされました。
私と田越川との関わり
幼少時代を思い出してみると、学校が終わって家に帰っても、すぐに外に飛び出している子供だったからか、私と田越川との思い出はたくさんあります。
1桜の舞うころ 今はもうなき風景
数年前まで春になると、川沿いに満開の桜の花びらが舞う場所がありました。
駅からすぐ近くのその場所は、淡いピンク色の桜とさわやかな黄緑色の柳、遠くにかかる赤い橋の色がかさなりあって、何とも美しい景色になる場所でした。
桜の木が多くあるところはあまりないので、幼少時代、桜の花びらを手のひらでつかまえようと必死になってはしゃぎ遊んでいたことをよく覚えています。
毛虫などの虫がひどい・・ということで桜は全て切り倒されてしまった時はとても残念でしたが、近所の家の人のことを考えたら仕方なかったのかな・・とも思い納得していました。
2カルガモの生態観察 動物に興味を抱かせてくれた川の生態環境
このレポートを書くにあたって小学校時代のことを思い出していたとき、とても懐かしい思い出がよみがえってきました。小学校3年生ごろだったと思うのですが、仲がよくて毎日遊んでいた友達と、田越川を泳ぐカモに非常に興味を持ち、二人で観察日記を
しばらくつけていました。夕方になると川に行き、メモをとったあと、手作りのノートに色鉛筆などを使ってカモの絵を描いたり、何をしていたか書いていました。
今思うと、学校の宿題でもなかったのに、自発的に観察日記を書いていたことが
何だか不思議に思われます。でもきっとあの頃は、毎日新しい遊びを発見するのに
夢中で、その遊びの一環として街中を走り回っていた私たちが興味を抱いたことだったのかな・・と思います。これも、川とその川に生息する動植物がいなければできなかったことであり、子供にとって大切な時間である“遊び”の時間を、自然が与えてくれたことにとても感謝しています。
3すすき採り 秋を感じられたもの
田越川の川辺に秋になるとすすきでいっぱいになる場所があり、担任の先生とすすき採りにいって、すすきでふくろうを作ったことを覚えています。
それ以外にも、十五夜の日になるとそこからすすきを採ってきて飾っていました。
でも、いつの間にかすすきを採ることはしなくなってしまいましたが、あれも川があったから出来ていたことだったのだと思います。
20~30年前の田越え川の様子
逗子にずっといる両親に聞いてみたところ、一見変わっていないようだが、よく見ると川の汚さが違うとのことでした。 確かに田越川は、透明な透き通った川ではありませんが、でも工業地帯を流れているようなどろどろとした汚い川にも見えません。
しかし、よく見てみると川のはじっこに、流された生活排水がたまっていて、固まって泡になっています。30年前は、このような泡はなかったと両親は言っていました。
また、生活排水なのかはわかりませんが、最近川の水がほとんどなくなって、黄色い泡みたいな塊だけが浮いているような場所ができてしまいました。市では、生活排水は
きちんと管理して川に流れないようにしているとは思いますが、それでも管理しきれないほどの排水を私たちが家庭から流してしまっていることの現われなのでしょうか・・。
また、両親によると、川自体だけではなく、川の周りの風景が変わっているそうです。
それは、先ほど書いた桜があった場所もそうですし、昔は土手みたいだったところが整備されて、コンクリートで固められているところが多くなったようです。
このように整備されることは、一見街並みを良くし、また遊ぶ子供にとってより安全な場所を作っているかもしれませんが、一方でそれを作るために犠牲になる自然も多いことは確かだと思います。
ホームページ「逗子市 田越川さかな調査」
ずしし環境会議“まちなみと緑の創造部会” が2005年10月から立ち上げた
新しいもので、よりよい状態で田越川を次世代につなぐために、川の現状を知りたい・・
という思いからつくられたホームページでした。
調査は“田越川ウォッチング”と企画して、地域住民に参加を呼びかけ、田越川を
地域ごとに区切りながらそこに生きる魚や虫、鳥などを細かく調査して、写真とともに調査結果を掲載していました。
また、鯉の生息数の比較データなども載せられています。このようなホームページの存在を今まで知らなかったのですが、田越川にカワセミや鮭といった生き物も生息していることを知り、とても驚いたし、本当に残していかなくてはならない自然の宝庫なのだとますます実感しました。
これからの田越川 川に望むもの
今回このレポートを書くまで、自分が生まれ育った街に流れる田越川の存在について
考えることなどほとんどありませんでした。私にとって、川が流れていて海につながる・・という光景は当たり前のもので、逗子の景色として浮かんでくる中に必ずあるものだったと思います。でも、田越川さかな調査のホームページの写真を見ていて、改めてこの川の流れる風景がどれほど逗子の街並みを豊かにしてくれているのか分かりました。さらに、この川に生息する植物や動物が、人々に四季を感じさせ、心を豊かにしてくれているのだと思います。これからも、田越川にはこのように、住民の心を穏やかにしてくれる存在であってほしいです。そして、ずしし環境会議の目的にもあるように、この川の状態をこれ以上悪化させず、よりきれいな状態でずっと流れていてほしいと思います。そのためには、住民が広報などを見て、環境団体が行っている活動を知り、積極的に川の存在意義を考えていかなければならないのでしょう。
そして、これからも、自分がそうであったように、田越川には、逗子に住む子供たちが好奇心いっぱいに遊べる楽しい遊び場となり、自然に興味をもつきっかけになる場所であってほしいと思います。