多
摩川(東京都)
私が住んでいる東京都府中市には多摩川が流れてい
る。多摩川は全長138km、流域面積1240㎢
の川で、源流は山梨県笠取山、河口は羽田沖の東京湾である。多摩川はまた、府中市だけでなく、大田区、世田谷区、武蔵野市、三鷹市など東京都26区市町村、神奈川県1市(川崎市)、そして山梨県3市町にも流れている一級河川である。
多摩川は私の家から自転車で15分くらいのところにあるのだが、今日までほとんど見に行ったことが無かった。行く時間が無かったためとい
うこともあるが、何より、便利な生活に慣れてしまって、忙しくても行く時間を設けようという気持ちを持たなかったためである。多摩川はテレビに良く映るの
で(特にゴマフアザラシのタマちゃんが発見されたとき)そ
の映像を見て、満足してしまっていたのだ。しかし今回、多摩川の実物をほぼ初めて見てみてその広大さに圧倒された。「広大さ」というのは面積のことだけで
はなく、その生き物からの愛されようのことでもある。府中市の多摩川沿いを自転車で走っていたときに一番初めに目に付いたのが鷺(図1)の群れである。広辞苑によれば鷺はコウノトリ
目サギ科の鳥で、樹上に巣を営み、主に魚類を捕食する。鷺たちは多摩川の浅瀬で餌を捕っていたようで、捕り終えた後に羽ばたいていったときの白い羽の美し
さは感動的だった。釣りをしている人も数人いたことから多摩川には魚も盛んにいることが分かった。行ったのが冬だったため、多摩川の水は少なくなってい
て、緑も見られなかったが、それでも多くの人々がジョギングやサイクリングをして楽しんでいた。それも多摩川周辺の空気の良さのためであろう。多摩川は多
くの町を流れているが、川の周りには自然が残されている。また、都会の近くでも浸水を防ぐための工事が行われている。それだけ幅広い人々や動物から大切に
されているのだ。
<図1>「ウィキペディア」(http://ja.wikipedia. org/ wiki/%E7%99%BD%E9%B7%BA)より白鷺
20−30年前の多摩川は洪水や氾濫を繰り返してきたそうだ。京浜河川事務所ホームページ(http://www.keihin.ktr.mlit.go.jp/
index_top.html)によれば、今までで最も被害が出た洪水が昭和49年9月に起きた「狛江水害」である。当時、台風16号が
もたらした大降雨により、二ヶ領用水を取水するために造られた二ヶ領宿河原堰に激流がぶつか
り、それによって迂回流が発生し、堤防が崩壊した。その結果、19戸の民家が多摩川の濁流に呑み込
まれたのだ。多摩川は、洪水・氾濫のことだけでなく水質面でも問題視されてきた。京浜河川事務所ホームページによれば、昭和45年9月に多摩川の水質はカシンベック病を誘発する
として疑われた。カシンベック病とは骨の一部が異常に発達する風土病のことである。昭和30年代初
めに多摩川流域の大田区にある小学生の手の骨にカシンベック病と似たような症状が見られたことにより、多摩川の水質は疑われてしまったのだ。また、昭和45年10月には、多摩地域のカドミウム汚染が衆議院産業公害対策特別委
員会で取り上げられた。カドミウムとは亜鉛と共存して広く分布している毒性の金属のことで、腎機能障害や骨軟化症などを引き起こす。カドミウムの汚染によ
り、府中用水では背曲りブナが発生してしまった。
こ
れらの災害や事件があったことにより、現在、京浜河川事務所では、二度と同じような災難が起きないように、様々な取り組みが行われている。今一番注目され
ているのが「スーパー堤防」の建設である。スーパー堤防とは、従来の堤防より幅が広く、洪水や地震に強い堤防のことである。メリットは他にも、堤防の上を
街として使用できること、川へのアクセスが良くなり、川に一層親しめること、まちづくりと一体となって整備ができることなどがある。スーパー堤防建設は
「多摩川水系河川整備計画」の一環で、この計画は住
民や市民団体、沿川自治体、学識経験者、河川管理者によって作られた。多摩川水系河川整備計画には「水流実態解明プロジェクト」というものも含まれている。水流実態解明プロジェクト
では:
1.
多
摩川やその支川、流域の水路の水量の動き
2. 流域に点在する湧き水の場所と量
3. 多摩川流域の水の利用の実態
4. 地下水位の変動状況
5. 多摩川やその支川が持つ浄化機能
6. 水質に関係する流域の汚濁源の量
7. 有害化学物質等の実態
8. 河川に放流された下水処理水の挙動
を
調査し、その結果から多摩川の水流として本来あるべき水量とその変動、そして水質を明らかにし、それらを踏まえて、流域の市区町村、関係機関や住民と目標
値を決定し、必要に応じて河川整備計画自体も見直していくのだ。また、京浜河川事務所ホームページによれば、子供たちも市民グループ主催のゴミ拾いや「夏
休み多摩川教室」などのイベントを通して多摩川について学び、綺麗な川づくりに協力している。
このように、洪水や事件が繰り返し起きたことにより、住民の多摩川に対する意識は高まり、現在では行政だけでなく、市民からも多摩川は守られている、そし
て愛されている。昨年の夏、私は調布市の花火大会へ行った。多摩川自体は見られなかったのだが、他にもたくさんの人々が見に来ていたことに驚いたことを覚
えている。冬は静かでのどかな顔、夏は活気に溢れた顔を見せる多摩川。ぜひ、春と秋にも見に行きたい。これからも私たちに喜びを与える川でいてほしい。そ
れを維持するためには住民たちが力を合わせなければならない。綺麗で安全な多摩川作りを通して、人同士の中も深まれば良いと思う。