「世界の水問題と河川管理」

~水ビジョン・日本からの発信~

 

 

この番組では、世界各地で深刻化している様々な水問題に関して、現状の紹介や私達が取り組んでいくべき課題、そして今後日本が果たしうる役割について議論している。以下のレポートでは、まずこの番組の主旨をまとめた上で、水問題に対する私なりの考えを示していく。

 

現在、安全な飲料水へのアクセスができない人々は世界で14億人、必要な水を確保できない国家は31にも上る。こうした水問題に取り組むため、日本を含めた世界各国が2000年ハーグにおいて「世界水ビジョン」を発表することを決めた。この国際会議に向けて、日本の水問題に対する姿勢を議論することが番組の主旨である。水は地域的な問題と考えられがちだが、現実には世界全体に関わる非常に重要な課題である。

人口爆発による水の利用量増大による水不足、砂漠化、水質汚染などによって、地球の水は危機に瀕している。タイなどの途上国では、都市化に伴って下水道整備が進まず、水質汚濁が深刻化している。水循環を壊したのは、他でもない人間である。開発のために川の流れを変えてしまうなどして、人間はこれまでに世界の半分の水を使用してしまった。このままでは、地球の維持が困難となるので、対策の必要性が叫ばれている。具体的に、カナダは、飲料水などの輸出を禁止すべきであると主張し始めている。水が豊富なカナダでさえ、自国の自然環境の一部である水を輸出することは環境破壊であると捉えているのだ。

また、昨今の国際的な経済依存の高まりは、水貿易の増加と同義であるといえる。というのも、淡水の利用は7割が農業利用であるからだ。そのため、Virtual Waterと言われる農産物が世界を行き来する状態は、水の貿易ということになる。農業自由化がWTOで決定されれば、グローバルイシューとしての水の位置付けがさらに高まる。

国際河川であるライン川の取り組みは非常に興味深い。貿易の活発化で水質汚染が深刻化した結果、国際保護委員会が設立され、現在EU諸国で協力して河川管理を行っている。スイス火災事故でライン川に有害物質が流出して以来、水質検査場も設置し、水質を監視する制度も取り入れた。水上警察も川の監視を積極的に行っている。こうした努力により、ライン川の水質は100年前の水準にまで回復した。洪水対策にも市民参加を促すなど、河川管理に力を入れている。

番組では日本と河川のつながりについても触れられている。日本は高度経済成長のため、川との関わりが大きく減少した。しかし、近年では雨水利用という新しい考え方が定着しつつある。例えば、住民が雨水を蓄えるタンクを取り付けたり、雨水を浸透させる道路舗装を行ったりすることだ。こうした変化は、環境保全と市民参加を追加した1997年の河川法改正により、増加傾向にある。様々なアプローチでの自治体と地域団体の協力が実現し、行政と住民が一体となった水への取り組みが始動している。日本の例からもわかるように、これまでの官僚や政治家による河川管理の取り決めに、住民参加を促すことでより実効力のあるルール作りが可能となるのだ。

しかし途上国では、開発を早急に進めたい意図から、住民参加を官僚や技術者が反対する傾向が高い。こうした考え方を、開発の主役が住民であるというものに変えていく必要がある。

そして番組では、アジア水問題について日本はどのような貢献ができるのかについても議論された。まず、日本のこれまでの経験や知識を生かし、途上国へ洪水や渇水対策などで協力していくことが挙げられる。住民参加に消極的な官僚らの意識改革を行っていくことも重要となってくる。

最後に、21世紀へ向けた水管理の方向性が話し合われた。世界水ビジョンの役割は、これまで国際社会において注視されてこなかった水問題を組織化することにある。リーダー国がまだ存在しないこの分野における日本の積極的なリーダーシップ発揮が期待されている。日本の経験である様々なローカルな取り組みを基礎として、世界全体の水問題に対して貢献していくことの重要性が強調されていた。

 

今回この番組を見て、水問題の緊急性と重要性を改めて認識した。会議でも触れられていたように、私自身も水問題への意識が低い一人の日本人であったことを思い知らされたとも言える。水は豊富にあるものという感覚を当たり前のように持っていたが、それは世界が直面している現実とは正反対であり、危険な認識であることに気付かされた。

まず、水問題に対する危機意識がほとんどなかった私にとって、Virtual Waterという農産物の形で、日本が水を多く輸入していることは意外な事実だった。私の中で、水問題は、家庭などで使用する目に見える水に関わるものという意識が強かったからだ。家庭用水が不足するのは深刻なことに違いないが、食糧である農産物が日本に入ってこなくなることも同じように命に関わる問題である。私達の生活のあらゆる面において、水が不可欠であることを実感した。

国際河川であるライン川を巡る問題解決の取り組みについても、非常に興味深いと感じた。日本は島国であるので、国際河川という概念は私にも遠い存在だったが、世界の人口の6割が国際河川流域に住んでいるという事実は問題の重要性を強調している。国際河川を巡る紛争の解決に至るには、おそらく地域によって様々な異なったアプローチが必要となるだろう。また紛争解決のために、世界水ビジョンで提案されているような段階的な協力体制の構築は非常に効果的であると思う。国際河川の共有国の間で、データの交換や共同調査による基礎レベルでの協力からスタートすることは、その後の調査の進行や協力を助けるだけでなく、紛争の引き金ともなり得る国家間の利害を調整することにも役立つだろう。また、市民参加を積極的に促すことで水問題への関心を高める手法も非常に効果的であるので、途上国への手本として採用していくべきである。

同時に、こうした国際河川という概念は、地球規模の取り組みが必要である水問題についての理解を深めるために、非常に効果的であるとも感じた。日頃から慣れ親しむ河川がそこに住む自分達だけでなく、隣国やさらに遠い下流国の住民の生活も支えているという認識を持つことで、河川を共有している実感が湧き、その使用も配慮あるものとなってくるからだ。この事実が、ライン川沿岸での河川管理に積極的な市民参加が見られる要因となっているように感じる。その一方で、日本はどの国とも陸地を接していないために、水問題を地球規模に捉えることが欧州ほど進んでいないのではなかろうかと思った。日本でも複数の県や地域にまたがって流れている河川が多くあるので、上流・中流・下流全体に暮らす様々な人々の生活を支えているという意識を持ち、協力して河川の保全に務めていくことが重要だと感じた。

そして現在、多くの途上国で起こっている人口増加や、都市への人口集中による水不足への対応策として、日本での先例を手本として支援をしていくべきだという番組内での提案に、私も同意する。日本は高度経済成長による急速な人口増加と、都市部への人口集中からくる水問題に、非常に効果的に対処できた国であることは疑いの余地がない。その証拠として、私達は現在のような安定した生活を享受しているからだ。この経験をアジア諸国の開発の権利とうまく融合させて、水先進国としてのリーダーシップを発揮していくことが日本の責任であると感じた。政治家や官僚らの考えを変えていくのは容易なことではないので、途上国への支援を同時進行していく形で、長期的な視点を持ちつつ継続していくべきである。こうした試みを行うことで今後、アジア諸国と日本の協力体制が構築され、水分野以外の多くの政治・経済問題における関係改善と親密化へのきっかけとなることを期待したい。

最後に、今後、水問題を世界的な課題として位置付けるために最も重要なことは、水へのアクセスが基本的人権であるという認識を広めていくことであるだろう。特に、番組でも取り上げられていたように、途上国では開発を早急に進めようとする政府の方針から、この概念は無視されつつある。しかし、水は人間の生命の源であることは反論のしようがない事実であり、この管理は世界全体が責任を持って行わなくてはならない。そして、全ての人々に分け隔てなく水を供給できるシステムを整えることが必要となってくる。具体的には、上下水道の整備は、基本的ニーズの問題だけでなく、世界人権宣言で設定された人権の問題でもあるのだ。上下水道の改善は、疫病蔓延を阻止し、人々の保健衛生状況を改善する。そのため、個々人に最低限度の水を配分することは、国内法上そして国際法上の責任であり義務である。水を人権として扱うことで、水の商品化、そして商業化を制限し、市場メカニズムでは保障しきれない、水のすべての人々への平等な供給を実現できるだろう。水を人権として捉えることは、権利が責任と切り離せないため、そのための政府と国際協力の強い支援のコミットメントが必要となるという限界も持ち合わせている。しかし、水の性質を考慮してみると、こうした人権論は非常に説得力があり、水問題に取り組んでいく今後の世界において、不可欠となる概念と言えるのではないだろうか。

 

今回のレポートによって、近いようで遠かった水問題についての理解を深める機会が与えられた。水問題に関しては、これまで私が考えてこなかった多くの課題が山積していることに気付かされた。そして、水問題は現代に暮らす私達にとって緊急の課題であるという認識を持った。数多く残る課題を解決していくために重要となってくることは、地域的な取り組みを世界的な運動へと広げていくことであるだろう。というのも、水の管理はその地域によって成されなくては効果が期待できないためだ。そして、管理の結果を周辺国全体で共有し、開示していくことが必要とされる。さらには、こうした管理が効果的になされているかを調査するモニタリング制度も、地域間の協力で設立していかなくてはならない。人類全体で地球という環境を共有していることを常に自覚して、こうしたグローバルイシューに対応していくことの重要性を改めて認識した。

 

 

 

参考文献

 

『世界水ビジョン』世界水ビジョン・川と水委員会編 山海堂2001

『地球公共財の政治経済学』インゲ・カウル編 国際書院2005