「墨田区の雨水利用」について

 

 

 

墨田区で環境行政に携わりながら“水”を長年見つめてきた、村瀬誠さんのキーワードは、「雨水利用は地球を救う」、「自立」(自前の水源)、「循環」(洪水防止、湧き水復活)、「共生」(雨の文化の復権)などです。同氏によると雨水利用は「治水・利水・防災」の総合力を持つ有力な資源だそうです。@自前の水源の確保。足元の降る雨を資源として見直し、できるだけ水源の自立を図ろうというのです。東京に年間降る雨が25億トン、東京で使われる水道水が20億トン。雨水利用の普及は、都内に無数のミニダムを作ることになります。A防災用水の確保、大震災への備えです。いざという時の命の水なので、身近な水源こそが町を守ると考えています。「路地尊(雨水を溜める桶)の雨水利用」は、防災の資源循環の点から国際的にも関心が持たれています。墨田区は1982年から3年間、大雨で下水道があふれ水害に見舞われました。この反省から公共施設で雨水を一時溜めて資源化し、水洗トイレや冷房、防火用水に使うことにしました。墨田区役所では地下1階を雨水タンクとし、区役所の水洗トイレの水を墨田川に降った雨を利用して年間180万円分節約しています。

 

国技館の雨水利用

 国技館で相撲やその他の行事が開かれる日数は年に約3ヶ月ですから、その時に水洗便所などで水が集中的に利用されます。それを雨水で賄おうというのです。このシステムでは約8400Fの屋根に降った雨を地下の1000Fの雨水タンクに溜め、トイレの洗浄水や冷房用冷却水に利用し、生活用水の7割を賄えるようになっています。

 

地域ぐるみの雨水利用

 昔から雨水は天水桶に溜めて防火用水として使ってきましたが、小中学校に環境教育用として雨水を溜める通称「天水尊(てんすいそん)」を設置するなど、積極的な取り組みが行われています。さらに雨水利用は地域にも広がり、昭和63年には「防災のまち作り」のシンボル「路地尊」に雨水利用が取り入れられました。路地尊は、隣家の屋根から集められた雨水を地下タンクに溜め、手押しポンプで汲み出すシステムです。普段は街の緑を育てるために使われ、いざという時には初期消火等の防災用水として活用されます。このような取り組みが進められ、墨田区は現在ではもし水道が止まったとしても23万人が10日以上持ちこたえられる日本を代表する防災都市となったのです。雨水利用のメリットは、@水道水の節約、A災害時に使用できる、B洪水を少なく出来る、ということに加えて設備が簡単な為、各家庭でも節水対策に気軽に取り組むことが出来るという点が挙げられます。空気の汚れた都市部等では降り始めの2@までは汚れが目立つので捨てるけれど、上澄みの水はかなりきれいになるので散水や家庭菜園の水やりに使用出来ます。

 

問題点:水不足解消と洪水防止

 墨田区では、街のコンクリート化が進み、昭和57年頃から豪雨になると、下水道から下水が逆流して都市型洪水が起きていました。一方で、東京では夏になると毎年のように水不足に悩まされてもいました。そこで都市型洪水と渇水防止のため雨水利用が考えられたのです。屋根に降った雨を溜めれば、洪水防止につながるとともに、自前の水源として有効利用できるからです。

 

考察:水という視点で見ると、現在の大都市は洪水と渇水という二つの顔を持っています。東京を例にとれば、群馬県に対して「雨ごい」をしている一方で、東京に大雨が降れば洪水が起きてしまう状況です。水源地の雨は必要だけれど東京の雨は困る、といった都市の利便性だけを追求した「使い捨て水思想」との決別が必要なのではないでしょうか。雨水利用は、単に水道代が節約できるという、単純な目的のみではありません。河川の浄化にも役立ち、都市で不足する水資源の確保にもなるとともに、雨を溜めることにより都市型洪水の防止にも繋がります。敷地に降った雨を下水に流さず地下浸透させることは、地下水の涵養を促し、湧き水を保全し、ヒートアイランド化防止にもなります。雨水利用を通して、もう一度、地域の水循環を考え直して見る必要があると思います。天水桶とは、雨水を貯めておく樽のことです。雨水の利用方法としては、庭木、畑の水に、洗車の際の水または、非常時の水(地震等で水道が使用できない時)など使用方法は様々です。左の写真は一般の家庭で雨水利用に取り組む場合の天水桶の例です。雨どいを伝ってくる雨水を桶に溜め、利用します。世界の国々が森林を守って雨水を涵養する一方で、個人レベルであっても多くの人々が雨水を溜めて有効利用を図れば、やがては地球環境保全に大きく貢献するのではないでしょうか。  

                  

 環境問題は、専門家や行政だけのものではありません。身近な環境問題への関心の高まりから、環境問題を自分たちの問題として学び、取り組む場が増えてきています。一人だけでは出来ないことが、多くの人と協力することによって実現出来ます。例えば、環境について学ぶことは大人だけでなく、子供と共にこそすべきではないでしょうか。また、道路や公園などが環境にやさしい施設となるよう、その整備の内容や管理に住民が積極的に関わることも必要です。自分たちの街の環境を自分たちで守り、作り続けるための参加の仕組みを考えていきたいと思います。地球をめぐる水は、人類共通の財産であり、生態系の一員としての人類は、他の生物や環境とのバランスの良い調和なしには、安定した生活ができません。一人ひとりが少しの努力を積み重ねることによって、世界全体で大きな自然の恵みを得られるのです。 

 

路地尊(墨田区)                  国技館の屋根

     


参考資料:

http://www.ryoko.info/tokyo/066tokyo.htm

http://www.skywater.jp/rojison.html

http://www.h6.dion.ne.jp/~kouei-1/page002.html

「飲料水を考える」 和田洋六 地人書館

「おいしい水、安全な水」 左巻健男 日本実業出版社

「環境とまち作り」 環境とまち作り研究会 風土社

「小事典 暮らしの水」 建築設備技術者協会 講談社