「水は無味、無臭、無色透明で、物理・化学的に特に注目すべき特徴もない。しかも、この地球上のどこにでも ある最もありふれた物質だ。」と考えている高校生に水について語る。


「高校生」を「日本の高校生」に限定して話を進めます。以下、水に対し上記のような認識を持っている日本の高校生に語りかける、という形式をとります。

主題「水戦争―人類にとっては“限りない資源”ではない水」


 皆さんは、水を「この地球上のどこにでもあるありふれた物質」と考えているようですが、水に対してこういった認識を持つことは望ましくありま せん。

 確かに水は地球の表面の70%程度を占めています。たくさんありますね。また、皆さん御存知おことと思いますが、人間の体の60-70%程度は水です。 このことを考えれば、水は決して珍しい物質などではありませんね(体の一部なのですから!)。しかし、水は「地球上のどこにでもある最もありふれた物質 だ」と考えられるべきではありません。なぜなら、水にこういった認識を持つということは、水の乱用を許し得るからです。

 実は、水の量は増えもしませんが、減りもしません。46億年前に誕生した水が、水蒸気となり雲となり、雨や雪となり再び地球に降り注ぎ、また水蒸気とな り…を繰り返しているのです。46億年前に誕生した水が、地球をぐるぐる循環しているだけなのです。増えもしませんが、減りもしないのです。「全体の量が 減らないのならいくら使ったって良いじゃん!」と考える人がいるかもしれませんが、水を節操なく使ってはいけません。むやみやたらに使えばいつか生命活動 を維持できない、という事態に陥ることになりかねません。
地表の70%は水だ、といいましたが、地球の水のうち、人類が利用できる淡水は、0.5%にも満たないのです。確かに今までは、この、全体の0.5%にも 満たない水で人類は存在し続けてくることが出来ました。しかし、近年、水の汚染に伴い使える水の量が減ってきてしまっています。特に温暖化の影響がこれか ら深刻となることが懸念されています。気温の上昇に伴い氷が溶け出し、海面が上昇し、地上の真水を海水が汚染してしまうことが予想されているのです。
また、使用出来る水の量が減っていくことに対して、地球の人口は増加の一途をたどっています(United Nations, Population Division)。人間一人あたりが使える淡水の量が減っていくことは必至でしょう。科学者の多くは、この使用可能な淡水の減少による悪影響は、今後 50年で、深刻なほど悪化していくであろうと警告しています(Millennium Ecosystem Assessment 2005)。

世界には、近い将来「水戦争」が現実のものとなり得る可能性のある地域が少なからず存在します。中東やアフリカがそその例として挙げられることが多いよう です。
「水戦争」とは、昔は、川の上流の農家が水をたくさんひいてしまったために起る下流の農家との揉め事、を表す言葉だったようですが、ここではもっと広い範 囲、「国家同士が水を巡って争う」ことを表す言葉とします。必ずしもその戦争の大義名分が「水獲得のため」とはならないのでしょうが、昨今の戦争が「実際 は石油権益を狙ってのものだったのだろう」と言われることが多いように、将来は「実際は水権益を狙っていたのだろう」ということになるかもしれない、とい うことです。
パレスチナ・イスラエル問題は皆さんも地理や歴史の授業で習って知っていると思います。2005年の夏、イスラエルはガザの入植地から撤退しましたが、ヨ ルダン川西岸の入植地にはいまだ固執し続けています。これを、「ヨルダン川西岸の入植地は高台にあるため、ここを手放しパレスチナ人の手に渡ってしまった らイスラエルの水が確保できない」との理由からの行動である、と分析する人もいます。
水はたしかに地球上のそこかしこに存在しています。しかし、人間が使える水の量は減っていき、総じて一人の人間が使える量も減少していくのです。

 「日本は水、足りているんじゃないの?仮に世界で水を根本もしくは一つの理由とする戦争が起きるとしても、私たち日本人には関係ないでしょ?だってたま に夏に水不足が起きるくらいで、慢性的に水が足りなくなるなんてありえないんじゃない?」と思う人がいるかと思います。実際私もそう思っていました。しか し、この認識は大きく2つの点において誤っています。
1つ目は、先にも挙げたように、温暖化によって、海水位が上昇し、真水を海水が飲めない水に変えてしまうという可能性があるという点です。
 2つ目は、今現在であっても、日本は水が足りている状態ではない、という点です。
皆さんは、「バーチャルウォーター」という言葉を御存知でしょうか。Wikipediaの定義を借りると「産物の生産に要した水はその産物の輸出入に伴っ て売買されていると捉えるとき、その水を仮想水(=バーチャルウォーター)」と呼ぶそうです。少し難しいかもしれないので簡単に言いますと、食糧をはじめ とする、輸出入されるあらゆる製品が作られる際に使われた水が「バーチャルウォーター」ということなのです。
 日本は国内の水を年間590億㎥使っています(飲み水は除く)。海外からの輸入品から換算したバーチャルウォーターは640億㎥です。輸入によって間接 的に使っている水の量の方が、国内で直接使っている水の量より多いのです。日本人の生活の半分は、海外の水に頼っているということです。


 日本も水問題と無縁ではいられないことが分かっていただけたでしょうか。
「グローバル化」という言葉が一種のはやり言葉と言えるほど世間に広がり、「国」という枠にしばられず、真に「地球益」を考えるべきだ、と言う人が最近多 いようです。私もそれが理想だと思います。しかし、これだけ世界には人間がたくさんいて、国家という概念が存在しているのだから、中には地球の利益より国 家の利益を優先させる人が多くいることでしょう。しかし、そういった立場の人にとっても、水問題は見過ごすことの出来ない問題であって、真摯な取り組みが 必要とされることなのです。

 水は確かにたくさんあって、その総量は変わりません。しかし、人が使える淡水の量は減り、そして人口は増えていきます。水をむやみに使わず、水を守って いくことが必要とされています。
そのためには、水は人間にとって「限りない資源」ではないということを強く認識しなくてはならないと思います。そうした意味で、水を「どこにでもあるあり ふれた物質」とみなすことを中止してほしいと思います。

 「水は地球上のどこにでもあるけど、使える量は限られていて、さらにこれからの私たち次第ではさらに使える量が減ってしまう貴重な物質」なのです。

 「水戦争」を防ぐには、どんな行動をとれば良いのか、切迫した危険を感じることのない私たちに考えることは難しいことかもしれません。でも、必ず解決す る必要のある問題です。
皆さんこれからもどんどん勉強をしていって、ぜひ解決のためになにか行動をおこしてみてください。一見水問題とはなんの関りもなさそうな分野の勉強から何 かヒントが得られることもあると思います。大変だとは思いますが、広く、そして深く学んでいってください。


参考文献

1)“仮想水.” Wikipedia. 27 Feb. 2006.
          http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BB%AE%E6%83%B3%E6%B0%B4.
2) 地球・人間環境フォーラム. “水資源.” 環境要覧 2005/2006. 東京:古今書院.
3) Millennium Ecosystem Assessment. “Experts Say That Attention to Ecosystem Services is Needed to Achieve Global
4) Development Goals.” 30 March. 2005.
          http://www.millenniumassessment.org/en/article.aspx?id=58.
5) トニー クラーク,モード バーロウ(著).鈴木 主税(訳).「水」戦争の世紀.東京:集英社,2003.
6) United Nations, Population Division. World Population Prospect: The 2004 Revision Population Database.
http://esa.un.org/unpp/p2k0data.asp.