吉野 輝雄 |
30年ほど前,アポロ宇宙船が送って来た地球の写真を見た時の感激が忘れられない。白いまだら模様のついた青い大きな球が暗黒の中に浮かんだ姿は宝石よりも美しいと思った。白は雲,青は海,どちらも水の姿である。地球は九つの太陽系惑星の中で水をたたえた唯一つの星である。地球のすぐ内側の金星は太陽に近すぎて水はガス状態,逆にすぐ外側の火星では太陽から遠すぎて大部分が氷である。太陽からの距離だけでなく,大きさも地球から宇宙空間に水を逃さないための条件を満たしている。その証拠に,太陽からの距離が同じでありながら地球よりも小さな月には水が存在しない。地球は正に奇跡の条件を満たしている星なのだ。
もしも地球上に水がなかったならば生命は誕生しなかったであろう。水がなければ全面が緑の草木もない荒涼とした地表となり、酸素もつくられず動物は生存できない。水は生物の発生、生存に不可欠なのだ。水が殆どない砂漠では昼夜の温度差が大きく、反対に海辺は温暖で住みやすい。これは水が多量の熱を吸収して気温を調節しているからである。気温が下がると氷は水面から張る。当たり前と思っているこの事が、実は科学の目には異常なことなのだ。普通の物質では固体は液体よりも重く底に沈む。固体の方が液体よりも密度が小さい物質はアンチモン以外水しかない。水は液体として4℃の時密度が最大となる。これも異常な性質である。水にこの二つの異常性がなかったら自然環境は一変していたであろう。冬の湖底には氷が敷きつめられ,春になっても太陽光が湖底まで届かず水温は0℃のままで、魚はたちまち全滅する。実際には表面が氷結しても湖底の方はいつも4℃付近なので魚は死ぬことがない。
また、水は地表、海面から蒸発して雲となり雨や雪となって地表に降るという具合に,絶えず地球上を循環している。これが地球環境を温暖に保ち,他方で,海水や汚水を浄化して真水に変えている。人間は真水がなければ生きて行けない存在だ。地球上に棲む全ての生命の営みは水を含んだ細胞の中で行なわれている。しかしいま、人間は真水(川・湖沼)を汚し,自然のサイクルを破壊し,自らの生命を縮めている。命の源である水を汚している業の報いのように思える。
水は奇跡の物質だ。 これは決して誇張した表現ではない。「水は神からの最大の物質的賜物である」と私は信じている。新しい生命のしるしとして水のバプテスマを受けた私どもキリスト者は水の尊さを認識している者としてもっと水に関心をもって行きたいものである。
(国際キリスト 教大学教授.仙川教会員)