「高校生に語る水の神秘」

 

 ふむふむ、君たちは水の事を無味乾燥でありふれた物質だと思っているみたいだね。たしかに、見た目水は何の変哲もないどこにでもあるような物質だ。臭いだって、色だって、味だってない。水道ひねれば水はいくらでも出てくる。でも、本当に水は君たちが思っているような物質なのかな?実際は水っていうのは、もっと奥深い、そしてありふれていない物質なんだよね。

 君たちは、水はありふれていると言っていたけど、本当の純水というものをみたことがあるかい?水道水が、消毒用の塩素が入っていて純水ではないのは知っているね。浄水器を通した後の水だってまだまだ色々な物質が溶けている。川を流れている水にだって、カルシウムやナトリウムのイオンがたくさん入っているから純水じゃない。化学の実験とかで使っている純水と先生がいっているものもじつは若干だけど他の物質が溶けている。本当のところ、真の純水なんて世界に存在しない。自然界だけでなく、人間の技術を駆使しても作ることは出来ない。なぜなら、水のものを取り込む力がものすごいからなんだ。言い換えると、水は物質を溶かす力が強いってことさ。溶解力が強いってイメージだとアルミニウムを溶かしている塩酸とか想像するかもしれない。でも、水だって負けていない。自身の1/3の容量のある食塩を溶かすことが出来る。そして、常に接している物質を溶かそうとしている。だから、ビーカーの中に水が入っていたら、少しずつだけど水は常にビーカーのガラスを溶かしている。この水の溶解度の強さを活かしたのが半導体製造用水だね。パソコンや携帯電話など最近の機械にはほとんど使われている半導体は、その性質上不純物が混じってはいけない。だから、極限まで不純物を取り除いた水で洗うことによって付着している不純物を水に溶け込ませて、半導体の純度を高める。でも、その半導体洗浄用の水だった完全に不純物がないわけではない。他の物質と接している限り常にその物質を溶け込ませているから、真の純水は存在しないんだよ。つまり日ごろ私たちが、水と呼んでいるものは、本当の水ではない。ほら、水って不思議でしょ?

 他にも、水の性質は物理・化学的に特殊な面が多い。たとえば、水の固体である氷は液体の水に浮く。一見当たり前のことだけど実はそうではない。水以外のほかの多くの物質の固体はその液体に沈む。普通、液体というのは分子間に隙間があって、そのおかげで流動性というのがあり、固体はその隙間がなくなるからカチンコチンになる。だから固体の方が分子間の距離が近いから密が濃いということになる。だから、密度が固体の方が大きく、液体に沈む。だけど、水は固体になったときに水素結合という水独特の結合によって1つの水分子が4つの水分子と接しなくなる。多くの他の物質の分子1つが612個接していることを考えるとこれはかなり少ないんだ。だから、水の固体分子の間はスカスカだったりする。これが液体になるとこの隙間に分子が入り込む。それで1割ほど密度が濃くなるんだよ。それで、氷が浮くわけだ。この水の特殊な性質のおかげで私たちが存在しているといっても過言ではないよ。もし氷が水に沈んでいたら、氷河期のころなどはほとんどの水が凍結していただろうからね。つまり、海のそこ深く沈んでいる氷は夏になっても太陽光に照らされないから解けることはまずない。で、冬になると表面の水は凍るわけだから、どんどん海底に氷が蓄積していくわけだ。すると、どうだろう、そのうち海の大部分は氷になってしまう。そしたら生命誕生なんてできたかな?氷が水に浮いているからこそ、海の中の水は凍らなくて済むわけだし、極地を除けば夏になったら解けることが出来る。この氷が水に浮くっていう性質はとても重要なのさ。

 他にも水は色々な特殊な性質がある。詳しい説明は省くけど、4度が一番密度が濃いとか、水道から出る水にセーターでこすった下敷きを近づけるとそっちの方に曲がるとかね。興味があったら調べてみるといいけど、この性質一つ一つが私たちの生活に結びついているんだ。これほどまでに特殊性に満ちた水は物理・化学的に面白いものさ。

 そして、水は本当にありふれたものなのかな?まずは太陽系規模で考えてみよう。5年位前に、火星に水がある可能性があるって火星探査機が突き止めて大騒ぎになったよね。つまり、それくらい他の惑星に水があるというのは珍しいことなんだ。月や火星に水の存在の可能性があるといわれている。もしかしたら、木星や土星にもあるかもしれない。しかし、あるとしても氷の形で存在するといわれている。地球のように表面の70%以上が液体の水で覆われている星なんてほとんどありえない。なぜなら惑星も恒星もほとんどの星は0度以下か100度以上だからね。その点で地球は奇跡の星といえる。だから、宇宙規模で見ると液体の水というのはありふれたものではないことがわかる。

 地球規模で見ても水はありふれてはいない。私たちは雨の多い日本に住んでいるから水に不自由することは夏の渇水がたまにあるくらいだけど、他の地域ではまったく雨が降らないようなところもある。砂漠とか考えてみるとわかりやすい。たしかに地球の「70%以上は水で覆われているけど大部分は海水、つまり塩水で、飲用や農業用に使えたものじゃない。だから淡水の確保というのは国がまずしなければならないことだ。こういったことを考えて、21世紀は水紛争が多発する世紀だと予測している学者もいる。実際、中東戦争では何度も水利用施設が攻撃されたりして、水がキーポイントになっている。人口増加と水質汚染を考えると第3次世界大戦の原因が水でもおかしくはない。だから、利用できる水ということを考えると、地球内では水はありふれているわけではないのさ。

 こういったことを考えると、水を軽視することはできないでしょ?そして、水がありふれたものではないということを認識した今、水を大事にすることが重要なのじゃないかな。水を汚さないことが、利用できる水を増やす。もちろん節水するにこしたことはない。あと、温暖化で降水量が変わったりするから、水を大事にするという観点からも温暖化を防ぐように努めることは大事だね。自分ひとりの力じゃどうにもならないって思うかもしれないけど、皆がやればかなりの力になる。それに、環境のメカニズムはまだまだわからない部分が多くて、少しの変化が大きな変化をもたらすことがあるから一人の力が微々たる力かというとそうでもないんだよ。だから、水について考えて、水保全のために少しでもいいから行動することが大事なんじゃないかな。本当に水をめぐる第三次世界大戦が起きる前に、水豊かな国の住人であるわれわれ一人一人が行動することが不可欠なんじゃないかな。

 

参考文献

鈴木宏明『水のはてなQ&A55(桐書房 2004)