『在英米国軍人への手引書』は、第二次世界大戦中ナ チス・ドイツと対峙すべく、英国に派遣された米国陸軍の軍人に向けて書かれたパンフレットだ。 似たところも多いが、違うところも沢山ある米国人と英国人。小さな行き違いが衝突を生み、それが両軍の士気や両国の関係にまで影響することを懸念した当局 が、同盟国の国民性や彼らとのつきあい方を、兵士たちに理解させるために作成した。
オリジナルは、貧相なクオリティの7ページほどの冊 子だったらしい。後年、このパンフレットを英国オクスフォード大学中央図書館(the Bodleian Library)が小さな本として出版した。その第二版が出た直後の2005年、オ クスフォード大学に在外研究に来ていた訳者の一人(稲葉)が、オクスフォードの町の中央に本店を構える老舗書店 Blackwellでたまたま見つけた。少し立ち読みしたら面白かったので、そのまま買って帰ってすぐに読み終えた。
1942年の発行当時にこの手引き書を読んだ英国人たち は、(多少画一的なところがあるにせよ)自分たちでさえもうまく言い表せないでいたその国民性を見事にまとめたことに驚き、おおきな賞賛を送ったという。
確かにこの手引き書は、英国や英国人の国民性につい て平易に解説し、彼らとのつきあい方をマニュアルとして上手にまとめている。しかし、それ以上に私がこの手引き書で好きなのは、次のセンテンスにあるよう なお互いに相手の立場に立って考える配慮の念だ。
「覚えておいてほしい。米国内で諸君は、諸君が振る 舞うのと同じように振るまい、諸君が大切に思うことに敬意を払う人を好くだろう。英国人に対しても同じことをしよう。そして彼らが大切にしているものに敬 意を払おう。」
いいこというなぁ。根本的な価値観の違いを克服でき るとは限らないけれど、こういう気持ちをもつことで多くの齟齬は解決できるものだと、訳者も経験的に感じている。
さて、米国政府の文書には著作権はつかないので、翻 訳も公開も自由にできる。そこでプロジェクト杉田玄白の作品にしようと思って翻訳を始めたのだが、少し訳したところで帰国の日が近づき、日本に帰ってから は忙しくてそのまま5年近く経ってしまった。そこで勤務先の国際基督教大学の興味のありそうな学生に声をかけ、手伝ってくれた二人の学生(大村・荒尾)と ともに残りの部分を仕上げることになった。
翻訳は前半を稲葉、後半を大村・荒尾が担当し、全体 を稲葉が統一した。翻訳途中で放置されていた訳文が完成し日の目を見たのは、ボランティアを買って出てくれた学生たちに負うところが大きい。感謝したい。
2011.03.21 稲葉祐之
− はじめに −
諸君は、連合軍の一員として英国に向かっている。ヒ トラーとまみえ、そして彼の地でヒトラーを打ち破るために。しかし当面の間、諸君は英国の賓客である。この手引書は諸君が英国人、彼らの住む国、そして彼 らの生き方を知る上での第一歩となることを、その目的としている。
我が国と英国とは同盟国である。ヒトラーはこれら二 国が、ともに強力で忍耐強く、また臨機の才に富んでいることを知っている。彼はまた、他の連合国とともにこれら二国の存在が、最終的には自らの決定的な敗 北につながるということも知っている。
それゆえヒトラーが配下の宣伝参謀たちに与えた最初 のそして最大の命令が、米国と英国を分裂させ、両国の間に不信を拡大することであった、ということを知るのはまったく当然のことである。もしもヒトラーが そのようなプロパガンダに成功すれば、勝利の機会はふたたび彼の手元に戻ってくる<かもしれない>のだ。
過去の戦争について争う時ではない。
諸君がアイルランド系アメリカ人の家庭に育ったな ら、イギリス人はアイルランド人を訴追する検察官だ、と考えているかもしれない。あるいは彼らは、独立戦争や1812年の戦争(訳注 米英戦争)の際に我 々の敵であった兵士たち(Redcoats)であると。しかしいま今日、これら昔の戦争について再 び言い争ったり、あるいは昔の不満をいまさらのように大きくしている時間はない。我々の祖父たちが南北戦争の際にどちらの側について戦ったかを、我々が気 にしないのと同じことだ。というのも、現在になってはそんなことはどうでもよいことだからである。
我々はヒトラーのプロパガンダを、我々自身の持つ武 器で打ち破ることができる。すなわち平凡で当たり前の常識、すなわち自明な真実を理解するということによってである。
中でもとりわけ自明なことは、英国民と米国民との生 活様式の大部分が非常に似ているということである。両国民とも同じ言語を話す。そしてどちらもそれぞれを代表する政府を信頼し、信教の自由、言論の自由と いうものを信じている。しかし深刻なものでないにせよ、両国を隔てる国柄というものも存在する。これらの小さな違いについて生じる誤解こそが、ヒトラーが 自らのプロパガンダを有効なものにするべく望んでいることなのである。
控えめ。だが不親切なのではない。
諸君はこれらの違いの存在を否定することによってで はなく、それらをオープンに受け入れ、その違いを理解しようと努めることで、敵のこのプロパガンダを打ち破るのである。たとえば英国人というものはしばし ば、その振る舞いにおいて我々よりもずっと控えめである。4500万人が住む、人口稠密なこの小さな島国では、誰もが自分のプライバシーを守ることをしっ かりと学んでいる。そして彼らは同様に、相手のプライバシーを侵害しないよう気を遣っているのである。
もし彼らが電車やバスの中で諸君に会話を投げかける こともなく座っていたとしても、それは彼らが傲慢なためでも不親切なためでもない。おそらく彼らは、諸君が考えているよりもずっと諸君に注意を払ってい る。しかし、彼らは図々しいとか下品にみられたくはないので、諸君に話しかけないだけなのだ。
もう一つの違いは、諸君にはおかしく思えるような独 特のせりふや表現を彼らは使うことである。彼らの目からからみたら、諸君はたくさんの間抜けな間違いをしかねない。たとえば英国では、男女同伴の席で「bloody」などというのはよろしくない。これは彼らの間では、最悪の悪態の表現のひとつ(「すん げぇ〜」)だからである。「I look like a bum.(私って役立たずみたい。)」と いうのも、彼らには不快に響く。なぜなら英国人にとってその意味するところは、「わたしって、おけつ(=bum) みたい。」ということだからだ。これはこの礼儀正しい社会でも秀でていたいと思う諸君へのこつの一つであ る。この手引の終わりに、更にこのような表現の違いが載せてある。
英国の貨幣はポンド、シリング、ペンスである(これ もあとで詳しく説明する)。英国人はこの仕組みに慣れているし気に入っているので、米国式の十進法の仕組みの方がいいという諸君の議論を納得することは、 ないだろう。また彼らは、諸君がそれを「へんてこな仕組み」というのを聞きたがらないだろう。彼らは金を得るために必死に汗を流しているし(英国の給料は 米国の給料よりもずっと低い)、また彼らは諸君がそれを馬鹿にするからといって、諸君の頭がいいとか変だとか思うこともないだろう。
見せびらかさないこと。
英国人は、自慢や見せびらかしを嫌う。米国の賃金と 米兵の給料はともに、世界でも最高の水準なのだが、給料日には英国の基準に従ってカネを使うようにわきまえることが安全なやり方だ。彼らは、諸君の給料が いいことをわかっている。しかし彼らは、諸君があたりにばらまくようなカネの使い方を、諸君が考えているほどよいことだとは思わないだろう。むしろ彼ら が、諸君が倹約の美徳という常識をわきまえていない、と感じる可能性のほうが高い。「トミー(Tommy: 英兵)」たちはとりわけ、自分たちと米兵との給料の差に敏感になりがちだ。このことを頭に入れておくこと。常識的に振る舞い、彼らと間違ったやり方で関わ らないことである。
英国において諸君は、我が国にあるものと似ていて も、物理的に異なっているものを多く目にすることになるだろう。しかし、重要な類似点もまた存在する。同じ言葉、慣習法、そして信教の自由という理念はす べて、ピルグリムファーザーズがプリマスの岩頭に降り立ったときに英国からもたらされたものである。政治的な権利についての我々の考え方は英国に由来する ものであり、合衆国憲法(the Bill of Rights)は英国の権利に関する名高い条文 から借りてきたものだ。
覚えておいてほしい。米国内で諸君は、諸君が振る舞 うのと同じように振るまい、諸君が大切に思うことに敬意を払う人を好くだろう。英国人に対しても同じことをしよう。そして彼らが大切にしているものに敬意 を払おう。
英国人はタフなり。
英国人の性向であるソフトな物言いと礼儀正しさに は、惑わされてはならない。もし必要であれば、彼らは大変にしぶとくもなる。もしも彼らに意気地がなかったら、英語は、海を越え山を越えジャングルや沼を 越えて、世界に広がることはなかっただろう。
六万人の英国人−成人男女に子供たち−が爆撃によっ て死亡したが、彼らの士気は衰えることもなく高いままだ。この国が一体となってはっきりと立ち向かう勇気がなければ、それは起こらないことなのだ。英国人 とはすなわちしぶとく頑強な人々であり、よき盟友なのである。
諸君が英国人に対して「耐えよう」などと語ることな ど、そうそうはできないはずだ。彼らはとくに、これ以上堪え忍ぶことには関心など持っていない。彼らはヒトラー打倒に着手できるよう、我々との間の確かな 友好関係の中でともに行動することにこそ関心があるのだ。
− 国土 −
諸君はすぐに、イングランドがノース・カロライナ州 あるいはアイオワ州よりも小さな国であることを知るだろう。イングランド、スコットランドとウェールズをあわせた英国全体でも、せいぜいミネソタ州くらい である。イングランド最大の川、Thames(「テムズ」と発音する)もミネソタを出るあたりミシ シッピ川よりも小さいくらいだ。またイングランドのどこからでも、百マイル以内で海まで到達できてしまう。
もし諸君がボストンやシアトル出身なら、英国の天候 は故郷のそれを思い出させるだろう。しかしノース・ダコタやアリゾナ出身であれば、慣れるのに少々手間取るかもしれない。最初のうちは諸君も、雪も降らず ぱきっとした寒さに欠け、ずっと降り続く雨や霧が好きになれないだろう。実際に、ロンドン市内の年間降雨量は、米国の多くの場所よりも少ないにもかかわら ず、ずっと頻繁に霧雨のように降ってくる。最終的には、ほとんどの人々がこのイングランドの気候に慣れるのだが。
もしも旅行する機会があれば、同じ面積の中でこのよ うに風景が多様な地域など、我が国のどこにもないことを諸君も納得するだろう。英国海峡に面する海岸の一部はメイン州のそれだし、別のところはドーヴァー の石灰岩の白い絶壁といった具合である。イングランド南部とテムズ河谷は米国東部の農場や牧畜地帯のようである一方、湖水地方とスコットランドの高地は ニューハンプシャー州のホワイトマウンテンそっくりだ。オランダ方面への出撃基地となるイングランド東部の景観は標高が低く平坦、沼沢地帯になっていてほ とんどオランダそのものである。また北部イングランド・ヨークシャーとイングランド南西部のデヴォンの広大で手つかずのムーア(荒れ地)は、ダコタのバッ ドランズやモンタナを彷彿とさせるだろう。
大きさではなく古さ
休暇中おそらく諸君は都会に出て、そこで英国人の古 さと伝統に対する誇りというものを見いだすだろう。そして彼らがサイズにはほとんど興味を持たず、我々のようにとにかく「一番大きなもの」を取ることはし ないことに気づくだろう。たとえば、ロンドンには摩天楼は見あたらない。これは、イングランドの建築家がそれを設計することできないからではなく、ロンド ンがニューヨークのような岩盤ではなく沼地の上に建設されているのだが、摩天楼を建てるにはなんらかの強固な地盤の上に固定する必要があるためだ。ロンド ンでは、彼らはむしろイングランド歴代の国王や偉人が埋葬されているウェストミンスター寺院や、ドームで有名なセント・ポール大聖堂、あるいはおよそ千年 も前に立てられたロンドン塔を案内してくれるだろう。これらの建築物すべてが、イングランドの歴史の中で重要な役割を果たしてきた。これらは、我々にとっ てマウント・ヴァーノン(訳注:ジョージ・ワシントン大統領の家)やリンカーン大統領の生誕の地が持つのと同じ意味を持っているのだ。
イングランド最大級の都市はすべて、各地の海岸に近 い低地に位置している。南東部テムズ川に接しているのがロンドンだ。単にニューヨーク、ワシントンとシカゴをあわせたようなところで、イングランドのみな らず大英帝国の首都でもある。大ロンドン市の1200万人という巨大な人口は、大ニューヨーク市とその近郊、そしてニュージャージーの都市を飲み込むほど のものだ。バーミンガム、シェフィールド、コヴェントリー(しばしば「英国のデトロイト」と呼ばれる)からなる大「ミッドランド」工業都市群は、イングラ ンド中央部に位置している。西岸には織物と運輸の中核、マンチェスターとリヴァプールがあり、更に北のスコットランドには、世界の造船の中心地であるグラ スゴーがある。スコットランド東部にあるのが、スコットランドの古くからの首都エディンバラだ。スコットとロバート・ルイス・スティーブンソンの物語の場 面は、諸君の多くが学校で読み習ったことだろう。そしてイングランド南西部、サヴァン河の河口に位置するのが大港湾都ブリストルである。
戦時下だということを忘れないこと
諸君には英国が少々うす汚れ、そしてうらぶれて見え ることだろう。英国の人々は、諸君がみているのはこの国の最高の状態ではないのだ、ということをわかってもらえるよう案じている。というのもこの国では、 1939年以来戦争が続いているからである。英国の家々はきちんと塗装されていない。なぜなら工場は塗料ではなく、軍用機を生産しているためである。有名 な英国式庭園や公園はどちらも荒れてしまっている。これは、手入れをする人がいない、あるいは必要とされる農作物の生産に人手を取られてしまっているから だ。この国のタクシーは、どれも骨董品のようにみえる。なぜなら英国は自国とロシアのための戦車の生産にかかりきりで、自動車の生産している時間などない からである。列車が寒いのは、電力が暖房用ではなく産業用に振り向けられているためだ。列車には贅沢な食堂車もない。総力戦のさなかに、そんな余力などあ り得ないからである。そしてその車内は、掃除もされず汚れている。なぜなら男も女も、洗車よりも重要な仕事に必要とされているからである。英国の人々は、 平時の英国はもっとすてきで、清潔で、こざっぱりしているということを、諸君にわかってほしいと願っているのである。
民主主義のゆりかごとしての英国
おそらく諸君は新聞で、「貴族(lords)」や「ナイト(騎士)(sirs)」につ いての記事を読むことになるだろう。しかし一方で、イングランドは偉大な民主主義国家の一つであり、我が国で認められている多くの自由のゆりかごとなって いる。この国では国王による個人的な支配は、千年ちかくも前に途絶えてしまった。こんにち国王は、君臨はしていても、統治はおこなってはいない。英国の人 々は王室に格別の愛情を持ってはいるが、かれらは実質的に国王からそのすべての政治権力を取り去ってしまっているのだ。諸君が出かける際には、イングラン ドのこの点についてよく覚えておくことだ。そして国王を批判しないように注意すること。そのような批判に対して英国人は、諸君が国家や国旗に背くようなこ とをいう人に対するのと同じように感じるのである。こんにち国王と王妃は国民とともにあってドイツ軍の空襲を耐え、他の人々と全く同様にその住まいを爆撃 されている。そして国民は、それを誇りにしているのである。
こんにち、古い国王の権力は議会と首相、およびその 内閣に移されている。英国議会は、議会の母と呼ばれてきた。というのも世界中の国の代議機関は、すべてそこから模倣されたものだからである。英国議会は二 つの議院、すなわち下院(the House of Commons)および上院(the House of Lords)からなる。下院はもっとも力があり、我々の議会と同様、国中の成年男女の投票によって選出される。こんにちの上院は、下院を通 過した法案に承認を与えることができる程度のものである。(男爵(baron)、公爵(duke)、伯爵(earl)といった)貴族のもつ称 号の多くは、何百年もの間、父から子へと受け継がれてきた。その他の称号は、米国の大学や学校が著名人にたいして贈る名誉学位のように、抜群の業績にたい してそれを顕彰するために授与されている。これらの習慣は、奇異で古いものに見えるかもしれない。しかしこのような習慣は、教会の礼拝の際の慣れ親しんだ 儀式から我々が得るのと同じような安心や慰安の感覚を英国人に与えているのである。
英国人はこの見た目には明らかに古くさいやり方の中 でも、場合によっては我々の持つそれよりも柔軟で人々の意思に敏感な、実践的できちんと機能する20世紀の民主主義に恵まれているのだ、ということを覚え ておくことが重要である。
− 国民の習慣とマナー −
英国で暮らしていく最良の方法とは、我が国でもっと もうまく暮らしていくための方法とおおよそ同じである。つまり我が国で重視されるのと同じ種類の丁重さ、礼儀正しさ、親切さは、英国でも十分に通用すると いうことだ。英国人はこれまで多くのよき米国人に出会ってきており、親米的である。彼らは、諸君が親切であるなら諸君のその率直さを気に入ることだろう。 また彼らは、諸君が鷹揚であるように望むだろう。彼らは、諸君の大げさに親しいそぶりを受け入れないし、自らの親愛の情を示すことについてはためらいがち だ。しかしいったん諸君を気に入れば、彼らは世界でも最高の友人になってくれるのである。
彼らと「うまくやっていく」上で、まず一番に覚えて おくべき点は、英国人は米国人と多くの点で似ているが、すべての点で同じというわけではない、ということである。諸 君はじきに狼狽させられるような、あるいは何か間違っているのではないかと思えるような彼我の違いを見つけることだろう。道路の左側を運転し、計算するこ とが「不可能な」貨幣の仕組みを持ち、あるいは生ぬるいビールを飲むといったたぐいである。しかしいったん慣れてしまえば、野球やジャズやコカコーラが我 々によく合っているように、それらがイングランドによく合っているのだということがわかるだろう。
英国人のスポーツ好きについて
あらゆる階層の英国人は、自身アマチュア・プレイ ヤーとしてもプロ・スポーツの観客としても、スポーツに対して熱狂的である。彼らは射撃を好み、競技を好み、また乗馬もし、競馬で賭けをし、そして釣りを する。(しかし釣りや狩猟をする際には注意が必要である。釣魚権や狩猟権は、しばしば個人の財産として取り扱われているからだ。) 主な「観る」スポーツ とは秋・冬のフットボールと、春・夏のクリケットである。もし機会があれば、これらのスポーツのいずれかの「試合」を観てみるとよい。我が国のスポーツと の違いを見るだけでも、得るものがあるだろう。
わが国の野球と比べればクリケットはつまらない、と いう印象を抱かせるであろうが、上手にプレーすることは簡単ではない。諸君は草野球にあたる草クリケットに対して、プロの正式な試合よりももっと楽しさを 見出すであろう。大規模なプロの試合は、我々でいう投手に当たるボウラー(bowler)と、バッ ターに当たるバッツマン(batsman)同士の私闘以外の何者でもない。そして、何が起こってい るかを理解するために、細かなルールまで知らなければならないだろう。
英国ではフットボールといえば二つの形態をとる。米 国で知られているように、彼らはサッカーをやり、そして、より過酷な競技であり、アメリカン・フットボールにより近い、しかし、我々が使用しているプロテ クターとヘルメットは一切使わないラグビーもやる。ラグビーでは、各チーム15人必要とされ、アメ リカン・フットボールよりも少し大きいボールを使い、前方へではなく真横へパスすることを規則としている。英国人は我々が扱うように手際よくボールを扱う ことはしないが、足技に関してはかなりのスペシャリストである。英国の競技と同様に、交代は認められない。ある選手がけがをしたらば、そのチームは14人で試合を続けなければならない。
フットボールやクリケットの試合における英国人の観 客は、わが国の観客に比べて、より秩序だっていて礼儀正しいということに気づくだろう。クリケットで、フィールドの選手が捕球し損なえば、観客は、おそら く、同情的な態度をとるであろう。そして、それが良くない処理のように見えたとしても、「よくがんばった!」と叫ぶであろう。米国であれば、観客は「そい つをつまみだせ」と叫んでいることであろう。この対比は覚えておくべきである。それはつまり、英国での試合に興奮している最中に、米国では理解されるだろ うが英国人が侮辱だと考えるかもしれない発言をしないように、注意しなければならないということである。
一般的に、わが国以上に英国では多くの人が競技をす るし、彼らはたとえ上手でなかったとしてもやる。いつも、諸君よりも下手な人間を見つけることができるし、あなたと一緒に競技をやって楽しんでくれる人も 見つけることができる。彼らは素晴らしいスポーツマンであり、よいプレーを目にした時はいつでも、すぐにその素晴らしいスポーツマンシップを認めるのであ る。
室内の娯楽
英国には我が国と同様に、劇場そしてシネマ(cinemas)とよばれる映画館がある。しかし、娯楽に絶好の場所といえばパブ(pub)である。パブ、またの名をpublic house、 は我々におけるバーや定食屋にあたるものだ。一般的な飲み物はビールであり、それは我々のビールのようなドイツ・ビールをまねたものではなく、エール(ale)である(しかし彼らは通常それをビールもしくはビター(bitter) と呼んでいる)。ウィスキーは現在そこまで飲まれてはいない。戦時下の課税により、一本あたりの値段は4.5ド ルまで跳ね上がった。英国人はビール好きであり、それは今でも変えることはできない。ビールは現在、平時のアルコール度数はないが、それにも関わらず相変 わらず人々をおしゃべりにさせている。
ある一つのことを覚えていれば、英国のパブにおい て、温かく歓迎されるだろう。パブは、貧しい男たちのクラブであり、近所の人や村人たちが集まる場所であり、彼らが、諸君のようなよそ者にではなく、自分 の仲間に会いに来る場所である。もし一緒にダーツをやりたければ、まず彼らに声をかけてもらうようにすることだ(彼らはおそらくそういってくれるだろ う)。そしてもし負けたなら、脇へよけて、他の人に譲るのが習慣である。
英国人は日曜日を非常に重んじている。店は全て閉ま り、ほとんどのレストランも閉まり、小さい町ではやることさえほとんどない。彼らに倣って、日曜日の午後をすごそうとすることが身のためである。
英国の教会、特に小さな村の教会では、内装も外装 も、しばしば、とてもきれいである。それらの多くはいつも解放されていて、もしその気になったのであれば、入ってみるとよい。しかし、礼拝が行われている 場合は歩き回ってはならない。
諸君は我々の相方、つまりすでに読んだり聞いたりし たであろう英国の軍人Tommyについて知るということに、自然と興味を抱くだろう。こちら側の二 つの行動は、即座に友情関係を悪化させるということがわかるであろう。すなわち彼らの連れの女性に手を出すことと、彼らの軍隊が直面してきたことについて 評価しないことである。そして加えるならば、そう、諸君の方が彼らよりもよい給料を得ていることをわざと繰り返すことである。
世界中の子供たちと仲良くすることは、難しいことで はない。英国の子供も我々自身の子供たちとほとんど同じである。英国人は、得た食料のほとんどを子供たちに与えている。英国の子供たちにとって、米国人で ある諸君は「特別な存在」となるであろう。なぜなら各学校で給食を与えられ、その食事は自分たちのためにアンクル・サムが送ってきてくれたものであるとい う事実を心に刻みつけているからだ。英国人に対して食料供与に関してわざわざ伝える必要はない。彼らはそのことは十分に知っており、そしてそれを高く評価 している。
論争を避ける
英国人に「この間の戦争(訳注 第一次世界大戦) で、我々が助けに来て、そして勝ったのだ」などと繰り返すことは、英国人の神経を逆なですることにつながる。各国は、それぞれ応分の貢献をしたのだ。しか し英国人は、戦争によって約百万人の最良の成年男子を失ったことを忘れていない。対して、わが国が失った人命は6万人である。
そのような主張やそのときの借款は、もう終わった話 である。現在、ナチスのプロパガンダが四六時中流れていて、英国人に「商売人の米国人(Uncle Shylock)と彼のドル銀貨を守る」ために戦う理由を問い続けている。借款について言及することでヒトラーの術中にはまってはならな い。
英国人に、今回の大戦で彼らの軍隊のいくつかが壊滅 したなどという必要な全くない。わが国の軍もいくつか壊滅しているのだから。彼らに対して開口一番批判をしてはならないし、「俺様たちが何をしようとして いるか」語る必要などない。口を動かす前に頭を使え。そして、英国が単独で誰の助けも借りず、どれほどの間ヒトラーを撃退してきたかを覚えておけ。
パブでは、多くの英国人が臆面もなく政府やその戦争 指揮について批判しているのを耳にするだろう。だがそれは、諸君がそこに加わって意見を言うべき場所ではない。それは彼らの問題であって、諸君たちの問題 ではないのだ。諸君が自分の家族の誰かについて批判することもたまにはあるだろう。しかし、それと同じことを部外者がすれば、どのように感じるかは知って いるはずである。
我々と同様に、英国人は政府や政策についてただよく 意見を言うし、政府からの独立心があるのだ。しかし、彼らを誤解してはならない。彼らは世界の中でも最も順法精神のある国民であり、英国の司法制度は、存 在する限りのほとんど最高のものだからである。そして年間の英国全体における殺人者、強盗、また窃盗の数は、米国の大きな都市に比べて少ないのだ。
我々が何事につけどれほど上手くこなせるのかを英国 人に説く前に、もう一度よく見て、聞いて、そして学べ。彼らは、米国での生活に関して聞いてこようとするだろうし、諸君にとっても、彼らの多くが抱いてい る粗野なインディアンやギャングたちからなる米国映画から得た思い込みを払拭する絶好の機会となるであろう。物事を進めるうえで英国人と米国人の間で違い を見つけたならば、通常それには十分な理由があるはずなのだ。
英国の鉄道では小型の輸送車両が使われる(彼らはそ れをgood wagons(貨車)とよぶ)が、それは彼らがそれよりも優れているものを知らない からではない。小さな車両によって、無数の小さな駅においても、より早い輸送車の運転が可能になる。
英国の自動車は小さく、低馬力である。それは、全て のガソリンを何千マイルもの海を越えた輸入に頼らなければならないからである。
英国のタクシーは漫画のような前輪構造をしている。 それがわずか12フィート幅の道をUターン するところを見れば、理由を理解できるであろう。
英国人はうまいコーヒーの入れ方を知らない。しかし 諸君は、うまい紅茶の入れ方を知らない。おあいこではないか。
英国人はのんびりしている。しかし、本当にのろまな わけではない。英国の優秀な鉄道は、速度の世界記録を持っている。英国の船は、大西洋横断記録を持っている。そして英国車と英国のドライバーは、米国で速 度の世界記録を樹立しているのだ。
英国人が、我が国と異なり、国旗や連隊旗に対して敬 意を十分に示さないことに腹を立ててはならない。我々とは違い、英国人はそれほど大切な象徴としては扱っていないのである。しかし彼らは、英国の国歌に対 してより大きな敬意を払う。平時であれ戦時下であれ、国歌(God Save the King; 我々の賛歌Americaのようなもの)が、劇場公演のようなすべての公共の集まりの最後に演奏さ れる。たとえ最終のバスを逃すことになろうと、このときに直立不動の姿勢をとらないと、英国人は行儀の悪いことだと考える。もし諸君が急いでいるなら、国 歌演奏の前に退出することだ。それは差し支えないものと考えられている。
概して、英国人−それがイングランド人、スコットラ ンド人、ウェールズ人のいずれであれ−は、率直であれ正直である。もし休暇中の諸君が、行き先や金、あるいは英国の習慣について迷ったときは、大仰になら ずに諸君の方から話しかけるのであれば、ほとんどの人が諸君を助けようと気にかけてくれるはずである。あらゆる問題に関して一番のよりどころとなるのは近 くにいるボビー(bobby)、すなわち警察官である。英国の警察官は、この世のほとんどすべての 問いに答えられることを誇りにしている。彼らはせき立てるということもないし、じっくりと話を聞いてくれるはずである。
英国人は、諸君を友人として、そして盟友とし て歓迎してくれるであろう。しかし、単に大西洋を渡っただけで、自動的に諸君 を英雄扱いしてくれるわけではないことを覚えておけ。第一次大戦の際に多くの兵士がみた最も強烈な弾幕よりもはるかに激しい空襲時の爆撃を生き抜いてきた エプロン姿の主婦や半ズボンの少年たちが、英国には多くいるのだ。
− 戦 時の英国 −
米国内にいるということは、諸君が戦時中の国にいた ということである。そして諸君は、出港してからというもの、常にその身を戦場においてきた。このことから、英国全土は戦場で あり、そして1939年の9月以降常に戦場であったことを理解するであろう。そしてこのこと全て が、英国人の生活に多大な影響を与えた。
英国の全ての明かりは毎晩、そして一晩中消されたま まだ。全ての高速道路の標識はおろされ、防空気球が揚がっている。今や牧草地は麦畑に、花壇は野菜畑となっている。平時に2、30万人であった英国軍はいまや200万人以上にまでふくれあがっている。大工場から小さな村工場までの大小さまざまな工場で作りだされた全 てのものは自国を始め、リビア、インド、ロシア等の全ての前線の戦争の兵器として供給される。幾千もの女性は工場や軍隊の補助機関で働き始めた。過去の社 会階層は取り払われ、工場労働者の息子が軍隊の士官となったり、貴族の娘達が軍需工場で仕事を持ち始めた。
しかし、このことよりも重要なのは、それがもたらしている影響である。英国人は毎晩、毎晩、来る月も来る月も爆撃を受けてき た。幾千もの人々が家を失い、地位を失い、家族を失った。ガソリンや衣服の確保も、鉄道での移動も難しくなり、収入も課税によっていまだ米国人が経験した ことがないほど減らされている。過去、英国人が足りなくなった事がないものの一つが石鹸であった。いまやその石鹸でさえも工場で働いている娘達が手や髪に ついた油を落とせないほどに不足してきている。そして食料は何よりも厳しく配給されている。
英国がくぐり抜けてきたもの
米国人が当然のように享受してきたものなしで、何ヶ 月も英国人は生活を営んできた。とはいえ、このような不足や、艱難辛苦、停電や爆撃からも英国人は気概を奪われていないということが、諸君にはすぐに分か るであろう。彼らには苦難の時と不幸から生まれた新たな明るさや覚悟が備わっている。彼らが通り抜けてきたことを鑑みれば、彼らの勝利への決意がいつにな く強い事は、人として当然なことであろう。
諸君はこの英国へ、平和な国、家庭の心配も、食料不 足もなく、煌々と明かりが灯った国からやってくるのである。故に諸君は英兵や市民が過剰な緊張のもとで暮らしてきた事に、十分に注意する必要がある。パー ティーだけでなく、どのような状況においても主人を批判するのは無礼であり、軍事的にも味方を侮辱するのは賢明ではない。常に生ぬるいビールや冷たくなっ た茹で芋や英国のタバコの味についてまくしたてる前に、一度立ち止まって冷静に考えるようにするべきである。
英国の人々がみすぼらしく見えたり服装が汚らしく見 えたとしても、それは彼らが良い服装を好まない訳でもなく、どのように着飾ったら良いのかを学ぼうとする意欲がないからではない。全ての衣類は配給で与え られており、英国人はこの古いスーツやドレスをこれ以上つぎをあてられないほど着続ける事が軍需製品の生産に役立つと分かっているから、このような服装を しているのである。このような意味で古い衣服は、「良い服装」なのである。
一つ気をつけなければ行けないことは、もし英国人の 家庭に招かれたとして、主人から「食卓にはたくさん食べ物があるから好きなだけ食べる」ようにいわれたとしても、絶対に食べ過ぎないこと。それらはただ歓 迎の意を示すために置かれいて、実際にはその家族の一週間分の配給かも知れないのだ。
どんな無駄にも命の重みがかかっているということ
米国人は常にどこの国が食べるよりも多く食料をゴミ 箱に捨てる、と言われている。そしてそれは真実である。我々は常に「供給国」であったが、ほとんどの英国の食料は平時でさえ輸入されたものであり、ここ二 年間は特に、英国人は海外から船で持ち込まれたいかなる商品も無駄にしないように教えられてきた。たくさんの英国人の船員達は、これらの物資を運送する途 中で死亡している。英国人はこの事をよく身にしみて学んでいて、彼らにとってガソリンや食料は商船の船乗り達の命をも象徴している。彼らには諸君が必要も ないガソリンを燃やすと、これらの船乗り達の血を燃やしているように見え、また諸君が食料を無駄にしたりすると、また一人の船乗りの命を無為にしているよ うに見えるのである。
戦時下の英国の女性達
英国の女性士官や下士官は男性兵に対して命令を下す ことができ、しかも実際にそのようにする。そして、男性はその指示に対して速やかに従うし、そうすることについて、恥ずべきことであるとは思っていない。 英国の女性は、このようにして自らの存在を示してきた。彼女達は燃えている弾薬庫の近くでさえ自分の職務を遂行したし、彼女達のオートバイが地雷で爆破さ れた後も、歩いてメッセージを伝えたのだ。彼女達は、飛行士達を燃え盛る機体から助け出しもした。また、彼女達のうちの誰かが銃弾に倒れると、また他の女 性がその持ち場に入ってそこでの作業を「続行」した。今回の戦争ではただ一人の英国人女性も持ち場を放棄したという記録はない。もし諸君がカーキか空軍の 青い服を着て、ショートコートに勲章の飾り紐をつけているのをみたら、彼女がそれをイプスウィッチ軍需工場の誰よりも多く靴下を編み上げた功績によって得 たものではないことを覚えておいてほしい。
− 英 語と米語 −
ほとんどの場合、諸君が誰かと出会う前に彼らが「英 語」で話しているのを耳にするだろう。最初は諸君も彼らの話している内容が分からないであろうし、彼らも諸君が話していることを理解できないであろう。ア クセントも諸君が慣れ親しんだ物とは異なるものであるし、一つ一つの言葉も使われ方が変わっていたり、間違った用法がなされている事が多い。しかし、諸君 はこれらの違いについて慣れていかなければならない。アメリカ南部から来た記者が、ワシントンでニューイングランドや全くの反対方向から来た企業の重役達 の話を聞くのに苦労するのを思い出してほしい。
英国では、いわゆる「上流階級」は皆同じように話 す。諸君もBBC(British Broadcasting Corporation)のアナウンサーが話すのを聞くだろう。彼らは「教養のある」アクセントで話すように訓 練されているため、良い例として挙げられる。彼らは、「r」の発音を落として(我々の国でも一部の 人がするように)発音し、「here」を「hyah」 と発音する。また、彼らは「Banana」などと発音する時も全ての「a」を長母音のそれで、例えば「Father」と発音 する時の発音、で発声する。しかし、たとえ諸君がこのことをおかしいと思ったとしても、諸君は彼らを理解することができるようになるだろうし、彼らもすぐ に諸君を理解することができるようになる。また、諸君がこのような発音に対しておかしいと思うような考え方も乗り越えられるであろう。
むしろ諸君らが手こずるのは地方の方言であろう。た だ、コーンウォールの村人や農民はよくヨークシャーやランカシャーの村人や農民の言葉が分からないのだ、ということを知れば、諸君も少しは気が楽になるだ ろう。しかし諸君は学び、−また彼らも−、諸君を理解するために学んでいくのである。
英語を理解するためのいくつかの手がかり
英国における俗語は諸君が自ら学び取らなければなら ないことの一つである。しかし、俗語以外にも我々が普段使うのとは違う意味を持つ単語はたくさんあり、たくさんの物が違う呼ばれ方をする。例えば、鉄道(Railroads)、自動車(automobiles)、 ラジオ(radios)は英国ではそれぞれRailways、motorcars、wireless setsと呼 ばれている。他にも枕木レールロードタイ(Railroad tie)と呼ばれているものはスリー パー(Sleeper)、貨車(Freight Car) と呼ばれているものはグッズワゴン(Goods Wagon)。路盤、鉄道のレールの下に敷いてあ る砂利などを彼らはナビー(Navvy)と呼ぶ。路面電車(streetcar) はトラム(tram)である。自動車関連の専門用語は、このように異なっていることが多い。彼らは 小さなトラックの事をローリー(lorry)と呼ぶ。車の天板は(hood)と呼ぶ。我々がエンジンフード(hood) と呼ぶものはボンネット(bonnet)と呼ばれている。また、フェンダー(fenders)はウィングス(wings)である。 レンチ(wrench)はスパナー(spanner) である。ガス(Gas)はペトロール(petrol)− ただし、もしあればの話だが−。
諸君は最初の休暇では、言語の違いから少し困ること も出てくるだろう。もしも靴下留め,ガーター(garters) が必要ならば諸君は代わりにソックサスペンダー(sock suspenders)、サスペンダーすなわちズボン吊り(suspenders) が必要なら、ブレース(Braces)と言わなければならない。もし、諸君が列に並んで、列車のチ ケットを買う時、米国でいう買う(buy)はブックする(book) であるし、米国でいう映画(movie)、英国ではシネマ(cinema)で、 チケットを買おうとしている時に発券所の前に並ぶことを英国ではキューイング(queuing; 'cueing'と同じ発音である)と呼ぶ。もし諸君がビールを早く飲みたいと思うのであれば、最も近くのパブ(pub)はどこかを聞くと良いであろう。諸君は薬をケミスト(chemist) の店で、タバコはタバコニスト(tobacconist)で、金属製品はアイアンモンジャー(ironmonger)の店で買う。もし諸君の誰かがアパートに招待されたなら、彼らはその建物をフラット(flat)と呼ぶであろう。
諸君が時折良いとされる店で、後出の表に掲載されて いない貨幣の単位「Guinea」(ギニーと発音される)がある。これの価値は21シリング、他の通貨では、1ポンドと1シリングである。この通貨を表すコインも紙幣も実際にはない。つまり、価格の呼び表し方の一つにすぎない。
後出の表に書かれていないコインには、1ポンドの価値を持ったゴールドソブリン(Gold Sovereign)というものがある。諸君はこの貨幣について英国文学の中などで目にするであろうが、おそらく実際に目にする事もないで あろうし、気にする必要もない。
重量とその単位
長さや重量を量る尺度は米国のものとあまり変わらな い。英国人はインチやフィートやヤード、パイントやクゥオートやガロン等の単位を用いる。しかし、諸君は(帝国)ガロンは米国ガロンより20%ほど多くの液体を示すことについてよく覚えておかなければならない。
− い くつかの「べし」と「べからず」 −
友好的に接する事 −ただし、諸君が欲せられていな いと思われるところについては立ち入らないこと。
諸君は英国の通貨体系が思ったより分かりやすいこと に気がつくであろう。船上で少しでも勉強しておけばより楽になるはずだ。
諸君は英国の英兵より多くの給料を受け取っている。 ただし、その事をしつこくひけらかしてはならない。彼らとはフェアに接しなければならない。彼らは必要なときに助けてくれる、よい仲間にもなりうるのであ る。
見せびらかしたり、自慢したり、威張り散らしたりし てはならない −英国人はそのような人をスワンク(swank)、気取り屋と呼ぶ。もし誰かが諸君 のうちの誰かの方を向いて「あいつは威張り散らしてストレスの発散でもしてるんだ。( “He’s chucking his weight about”)」と言っていたらその人はひどい間違いを犯してい ると思ってよい。その時は気を引き締めるべきである。
もし諸君のうちの誰かがどこかの家族に招待されて共 に食事をすることになったとしても、食べ過ぎてはならない。さもないと、その家族の一週間分の配給を食べ尽くしてしまうことになるからである。
英国の言語やアクセントについて、馬鹿にするような 発言をしてはならない。彼らにとっては諸君も同じ位おかしく聞こえているのであるが、彼らは礼儀を保ち、そのような素振りを見せていないだけなのだから。
英国の政府や政治に対するコメントは、避けなくては ならない。
英国人に米国が先の大戦で勝利を収めたことを言おう としたり、戦争の負債についての知ったかぶりをしたり、今回の戦争での英国の敗戦について語ってはならない。
絶対に、英国国王や王妃を批判してはならない。
英国の食料やビール、タバコについて批判をしてはな らない。そして彼らが、1939年以来戦争状態にある事を忘れてはならない。
いかなる状況においても良識を忘れないこと。諸君は 努力次第で、戦後の米英両国の間により深い理解をもたらす大きな鍵を握っているのである。
すぐに諸君は、優しく、静かで勤勉だが、世界中でも 珍しいくらい厳しい状態の中で暮らしてきた人々の中に入って生活する事になる。彼らと接するにあたって、以下を諸君のスローガンとしよう。
諸君へのホストを務めてくれる相手を批判するの は、いかなる状況においても無礼である、
そして盟友を批判することは、軍事的に愚かなこ とである。
英国の通貨体系 |
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記号 |
名前 |
英国での価値 |
米国での価値
(概算) |
銅貨 |
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1/4d. |
farthing
(ファージング;ま
れ) |
1/4ペニー |
1/2セント |
1/2d. |
halfpenny
(半ペニー、ヘイペ
ニーと発音) |
1/2ペニー |
1セント |
1d. |
penny
(ペニー) |
1ペニー |
2セント |
3d. |
threepence
(3ペンス)まれにthruppence(スルッペンス)とも |
3ペンス |
5セント |
|
|
|
|
銀貨 |
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|
|
3d.
|
threepence
(3ペンス)まれにthruppence(スルッペンス)とも |
3ペンス |
5セント |
|
|
|
|
6d. |
sixpence
(6ペンス) |
6ペンス |
10セント |
1s. |
shilling
(シリング)またはbob
(ボブ) |
12ペンス |
20セント |
2s.
|
florin
(フロリン) |
2シリング |
40セント |
2s.
6d. |
half
crown
(ハーフクラウン)
(または
“two
and
six”
(ツーアンドシック
ス) |
2シリング |
50セント |
|
|
|
|
5s. |
crown
(クラウン) |
5シリング |
1ドル |
紙幣 |
|
|
|
10s. |
10-shilling
note
(10シリング ノー
ト) |
10シリング または1/2ポンド |
2ドル |
|
|
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|
GBP1 |
pond
note
(ポンド ノート) |
20シリング |
4ドル |
GBP5 |
5 pond
note |
5
ポンド |
20ドル |