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色と味覚


Group 11(岡田、今村、守口、浦部、清水、仲渡、南、吉田、佐藤、杉木、井上 11名)
指導教員:岡村秀樹先生

提出日:2016/2/19(Fri)
最終更新:2016/2/20(Sat)


序論

 突然だが,あなたは何味のカキ氷が好きだろうか. レモン味,イチゴ味,メロン味,はたまたブルーハワイ味など,さまざまなフレーバーがあるカキ氷のシロップだが, Webサイト『味博士の研究所』(http://aissy.co.jp/ajihakase/blog/archives/6608)によると,それらのカキ氷の味は同じであるという.

カキ氷シロップの味覚センサー測定結果

引用:味博士の研究所「かき氷のシロップの味は“幻覚”だったのかを味覚センサーで検証してみた!」


このサイトでは,

"人は、味覚だけでなく、食べ物の色や香り、そして「これはイチゴだ」といった思い込みによって、味の感じ方が変わります。 私たちが感じている「○○味」は、味覚の情報に色や香りといった複数の情報が脳によって組み合わせて作られた、ある種の幻覚なのでした。"
であると結論付けている。これはすなわち、色や香りが味の錯覚を及ぼすということである。
香りが味の錯覚を引き起こすことは想像に難くない。しかし、色は本当に人の味覚に影響を与えているのだろうか。私たちは、色と味覚をテーマに実験を行うことにした。

仮説
色によって味覚の錯覚が起こる。

予備実験

1.着色した水の実験(1)2016/1/8

使用したもの
赤、黄色の着色料 ガッキの水 ガッキのシロップ レモン汁
方法
赤、オレンジ、黄色の着色料とシロップ、レモン汁を混ぜてジュースを作り、グループで飲んでみて、味に違いが生じるかを確かめる。
結果
味はとてもまずかったが、オレンジ、レモン、いちごと思い込むとそう感じなくもない。
考察
グループメンバーは”視覚は味覚に影響する、影響してほしい”という思いがあるため味が違うと思い込んでしまったのかもしれない。

2.着色した水の実験(2)2016/1/8

使用したもの
水100ml、塩(ひとつまみ)、レモン汁(小さじ1/2)、砂糖(小さじ1)、色素(赤、黄色を適量)
概要
予備実験1をふまえた上で、寮生3人に赤、オレンジ、黄色の液体を飲んでもらい味をグラフ化してもらった。
結果
味の違いが分からなく、黄色が若干すっぱく感じたと言っていた。やはり味が美味しくない

3.着色したカキ氷とゼリーの実験 2016/1/29

使用したもの
赤、黄色の着色料 シロップ100ml、水400ml、かんてんクック一袋(5g) 
概要
かき氷にシロップをかけるようにしてしまうと、ちゃんとシロップがかかっているところとかかっていないところで味にムラが出てしまい、結果に影響を及ぼしてしまうことがわかった。よって味にムラが出ないように、かき氷状にするのではなくゼリー状にして実験を行うことにした。また、視覚による味覚への影響を調べるために、色を見て味を判断する場合と、目を瞑って味を判断する場合の2通りの実験をグループ内で行った。
結果
一番すっぱいと感じた色は?(目隠しなし) 赤、黄色(1人) 全部一緒(3人) 赤(3人) 一番すっぱいと感じた色は?(目隠しあり) 赤、黄色(1人) 全部一緒(1人) 赤(4人)
その他
ライチ、サクランボ、アセロラ、レモンの味と感じる人がいる
考察
色を見る人によって感じる味や酸っぱさに違いがある。やはり視覚は味覚に影響しているのだろうか。

4.着色料の味の実験 2016/1/15

使用したもの
みぞれシロップ 赤、黄色の着色料 ガッキの氷
概要
着色料の食べ物の味に与える影響を調べるため、以下に述べる方法で実験を行った。 3つのコップにそれぞれ赤着色料を入れた水、黄色着色料を入れた水、普通の水を用意し、グループメンバーが目を閉じて他のメンバーからランダムな順番で渡されたそれぞれのコップの中身を飲み、味に違いが無いかを感じ取る。
結果
味には明確な違いがあった。

本実験

グループのメンバーだけではなく、何も知らない多くの人々にゼリーを食べてもらい、視覚は味覚に影響しているのかを確かめる。

被験者
ICUの食堂内にいた学生及び教職員(約73名)
実験日時
2016年2月17日13:00から1時間程度
準備したもの
  • 黄色の着色料入りゼリー×2(一つは倍の酸味)
  • 赤色の着色料入りゼリー×2(一つは倍の酸味)
  • つまようじ 約300本
  • 紙コップ 12個
  • ステンレス製のトレー 4枚
  • 木製のおぼん 4枚
  • 回答の集計用紙 4枚
ゼリーについて
水1200 ml、シロップ300 ml、粉末寒天10 gを混ぜ2分ほど煮立たせた後、レモン汁20 ml(40 ml)と食用色素(黄または赤)を加え、冷蔵庫で固まるまで冷やした。 着色料を使ったゼリーを2セット計4種類用意した。1セット目は赤色の着色料で着色し、レモン汁を入れたゼリー(ゼリー①と呼ぶ)、黄色の着色料で着色し、レモン汁を入れ、赤色のゼリーよりも酸っぱくしたゼリー(ゼリー②)の2種類からなる。2セット目は黄色の着色料で着色し、レモン汁を入れたゼリー(ゼリー③)、赤色の着色料で着色しレモン汁を入れ黄色のゼリーよりも酸っぱくしたゼリー(ゼリー④)から成る。いずれのゼリーも賽の目状に切り、一口でサイズにした。実験でゼリーを使ったのは着色されてあることに関する違和感を減らし、食べやすくし、被験者に実験の趣旨が分かりづらく、より直感での判断ができるようにする為、また食べる部分による味ムラを無くし、どの被験者も同じ状況で実験に参加できるようにする為である。
実験の流れ
グループ内で二手に分かれ、グループAはゼリー③④のセットを、グループBはゼリー①②のセットを使い実験を行った。 まず、赤と黄色のゼリーをそれぞれ1かけらずつ被験者に食べてもらい、味の評価をしてもらう。(評価方法は下記参照) その後目を瞑ってもらい、グループメンバーが初めに赤色、次に黄色の順番でゼリーを渡し、試食してもらう。その後、1番目に食べたゼリー、2番目に食べたゼリーの味の評価をしてもらう。
評価方法
中身が見えないように紙ナプキンで覆いをした投票箱を12個紙コップで作った。投票箱は 【黄色】【赤色】【同じ】(目隠し無し状態) 【1番目】【2番目】【同じ】(目隠し状態) の6種類のラベルを貼ったものをそれぞれのセット用に2対用意した。覆いをして中身が見えないようにしたのは、投票箱に既に入っている票に影響を受け、率直な印象による判断が出来なくなるのを避けるためである。 被験者には一番酸っぱいと思ったゼリーのところに目隠しあり、無しの時について1本ずつつまようじを入れてもらった。 また、実験の意図が気づかれないよう、ゼリーを食べた時の味の印象、何味だと思ったかを口頭でも聞き、グループメンバーが集計した。

結果

1.味の評価

(図1)
Aセット
ゼリー③(黄)では寒天・甘いと答えた人が各4名、レモンが3名、ライム・パイナップル・オレンジ・シロップが各2名がいた。 (その他、スイカ・りんご・ウィダー・マスカット・バナナ) ゼリー④(赤)では、サクランボが4名、イチゴ・柑橘系が各3名がいた。 (その他、りんご・ライム・ゼラチン・キウイ・グレープフルーツ・アセロラ・ブラットオレンジ・絵の具・スポドリ・ラズベリー・炭酸水・洗剤・失敗イチゴ・イチゴパインのなりそこない)
Bセット
ゼリー②(黄)では、レモンが24名いた。 (みかん・スイカの皮・さくらんぼ・炭酸・木) ゼリー①(赤)では、イチゴが12名、アセロラが4名、スイカが3名がいた。 (その他、さくらんぼ・りんご・梅・レモン・薬・すっぱい・杏仁・爪楊枝・海藻・あんず・レモン)

2.酸味の評価

その結果を以下の表に示す。
Aセット(実際は赤の方が酸味が強い)
ゼリー④(赤)ゼリー③(黄)同じ
目隠し無し(視認可能)25名8名0名
目隠し有り(視認不可)28名2名3名
Bセット(実際は黄色の方が酸味が強い)
ゼリー①(赤)ゼリー②(黄)同じ
目隠し無し(視認可能)4名30名6名
目隠し有り(視認不可)2名32名6名


図2:酸味の結果

議論

統計学的解析

解析法
T分布を用いて、変数を以下のように定義し、Linear Regression Analysis(線形回帰分析)を行う。

黄色
X10
レモンいちごその他
Y1005

もし、色と味覚に関係があるのなら、ある数 a,b において
Y=a+bX
で表されるLinear Regression(線形回帰)が成り立つこととなる。

ここで、
帰無仮説:
色と味覚との間には関係がない
をたて、この仮説が統計学的に棄却されれば、「色と味覚の関係性」が証明できることとなる。
(統計学上、P-levellevel of significance(5%)より小さければ仮説が棄却される)

使用したアプリケーション
StatPlus for Mac
解析結果
Total number of observations106

Y=a+bX
0 = 7.5472 - 3.8679 * 1
d.f.SSMSFp-level
Regression1.396.46226396.4622670.041670.

したがって
P-level = 0.00 < 5%(level of significance)
であるから、帰無仮説は棄却され、統計的有意差があることが示された。


  • 目隠しをすることで、酸味に関する誤判断が減った。故に、色は酸味の判断に影響を与えているのではないか。(図2)
  • どんな味かという質問に対しては、赤いゼリーはレモン味であるのに、サクランボ・イチゴ・アセロラ・スイカといった赤い果物の味を答える人が多く、レモンと答える人はほとんど見られなかったことから、色は味覚に影響を与えていると思われる。
  • 酸っぱい黄色はレモンが多いが、酸っぱくない黄色はほかの味が多い。逆に、酸っぱくない赤はイチゴと答えた人が多いのに対し、酸っぱい赤はほかの味を答えた人が多い。

 続いて、以下に正答率及び視覚による影響を受けた割合をまとめた表を記す(表3)。なお、「正答率」とは、それぞれのセットで実験に参加した被験者の内、より酸味が強いほうの色のゼリーを挙げることができた被験者の割合を、「視覚の影響を受けた割合」とは被験者の内、酸味の強いものとして挙げたゼリーの色が目隠しの有無によって異なっていた被験者の割合をそれぞれ算出したものである。

Aセット(赤の方が強い酸味)Bセット(黄色の方が強い酸味
目隠し無しの時の正答率(視認可能)75%75%
目隠しをした時の正答率(視認不可)85%80%
視覚の影響を受けた割合18%5%
(表3)各場合の正答率及び視覚の影響を受けた割合

 これらからまず始めにいえることは、目隠しをつけた状態の方が目隠し無しの状態よりも、より正確に酸味の判断が行えているということである。この正答率の変化の仕方はAセット、Bセットに共通であるため、視覚情報はその内容によらず、それ自体を遮断することにより味覚情報をより正確に判断できるようになるものであるといえるであろう。また、このことから視覚情報が味の感じ方に多少なりとも何らかの影響を及ぼしているということができると思われる。
その味の感じ方であるが、目隠し無しの状態であっても75%の被験者が酸味の強い方のゼリーを正確に判断できていることから、味の判断に対する寄与の度合いは(少なくとも酸味に関しては)視覚情報よりも味覚情報の方がやはり高いと思われる。では、視覚情報はどのようにして味の感じ方に影響を及ぼしているのだろうか。
それに関してはまず、被験者の中で視覚の影響を受けた者の割合に注目したい。
正答率がAセットとBセットの間でほぼ違いがなかった一方、こちらはAセットでの値がBセットでの値の約四倍となっている。この違いはどこから来たのだろうか。そこで、それぞれのセットにおける被験者の「赤色ゼリーと黄色ゼリーがそれぞれ何味であると思ったか」の質問に対する回答に注目すると、Aセットでは最大でも3,4人の被験者しか同じ味を挙げることがなかったものの、Bセットになると黄色ゼリーも赤色ゼリーもまとまった数の被験者が同じ種類の味を挙げるようになっている。
このことから、味覚情報と視覚情報により想起されるイメージはある程度の指向性を持つと考えられるのではないだろうか。すなわち、これから食べるものを見た時に生まれる視覚情報によるイメージが、その後食べる時に得られる味覚情報に沿うものであった場合、その人物の中で生まれるイメージはより強固かつステレオタイプ的なものとなり、味の感じ方もそこで生まれたイメージに引きずられるということが考えられる。
 また、逆に味覚情報が視覚情報にそぐわぬものであった場合、二つの情報を統合した結果生まれるイメージは焦点の合わぬ不鮮明なものとなり個々人での味の判断の間にブレが出てきてしまうのではないだろうか。
この考えを今回の実験のケースに当てはめて考えると、赤色ゼリーの方が酸味が強いAセットにおいて、例えば黄色ゼリーと赤色ゼリーを見た時に被験者の頭の中でそれぞれレモンとイチゴのイメージが想起されていたとする。その後実際にこの二つのゼリーを食べ、赤色ゼリーの方が酸味が強いという味覚情報が脳におくられることとなる。これはイチゴはレモンよりも酸味が弱い(とおそらく多くの人がそう考えていると思われる)という知識と矛盾するため、被験者の脳がある種の混乱状態に陥り、これを解消するために黄色ゼリーをレモンより酸味の弱い味(例えばパイナップル味)と、赤色ゼリーをイチゴよりも酸味の強い味(同じく、例えば柑橘系の味)と判断するという結果となる。
 一方、Bセットの場合は黄色ゼリーのほうが赤色ゼリーよりも酸味が強いという、被験者の視覚情報によるイメージと親和性の高い味覚情報が脳に送られるため、そのイメージがより強調される結果となる。
なお、Bセットで赤色ゼリーと黄色ゼリーの味がそれぞれイチゴ味とレモン味に偏った理由として、黄色ゼリーに関しては酸味の素として使われたレモン果汁とその色の影響があると思われ、赤色ゼリーに関しては赤く甘く適度な酸味がある食物のなかで最も身近にあるものがイチゴであったためだと思われる。

また、Bセットに注目すると、実際には黄色ゼリーの方が酸味が強いにもかかわらず、目隠しがない状態で赤色ゼリーの方が酸味が強いと回答した被験者がいる。この結果をさきの考え方に沿って見た場合、この被験者らにとっては黄色よりもむしろ赤色の方が酸味と関連性の高いイメージを想起させる色であるということになるのではないだろうか。
特にBセットにおいて、目隠しをしていない時には赤色ゼリーを選び、目隠しがある状態において黄色ゼリーを選んだものについては特にその傾向が強いといえることになる。

最後に、目隠しをした場合の正答率についてであるが、これはAセットとBセット、双方合わせて82%となった。これは言い換えれば18%の被験者が味覚だけに頼った場合でも味を(少なくとも酸味に関しては)正確に判断できていなかったということになる。
また、実際には酸味の違いの判断ができていなかったものの、あてずっぽうで選んだ選択肢がたまたま正解であったという被験者の存在を考慮すると、およそ20%前後の被験者が酸味の違いを判別できていないということになるであろう。
このことから、視覚情報の有無によらず人間の味覚というものは、無論個人差はあるものの、そこまで精確であるとは言い切れない可能性があるということを付け加えておく。

結論

Aセット(赤色ゼリーの方が酸味が強い)に関して目隠しをしてもらわずにゼリーを食べてもらい、酸味の強い方はどちらかと聞いた時、それぞれ赤色が25人、黄色が8人、同じと答えた被験者が0人であったが、目隠しをして食べてもらった時は、それぞれ赤色が28人(3人増)、黄色が2人(6人減)、同じと答えた被験者がが3人(3人増)であった。

また、Bセット(黄色ゼリーの方が酸味が強い)に関してAセットと同様の質問をすると、目隠しをしない状態ではそれぞれ赤色が4人、黄色が30人、同じがと答えた被験者6人であったが、目隠しをした状態では赤色が2人(2人減)、黄色が32人(2人増)、同じと答えた被験者が6人(変化なし)であった(図2参照)。Aグループでは目隠しをすると赤色が酸っぱいと答える人が増え、黄色が酸っぱいと答える人が減った。また、Bグループでも同様に目隠しをすると黄色が酸っぱいと答える人が増え、赤色が酸っぱいと答える人が減った(図2参照)。

これにより目隠しをすると視覚が影響を味覚に及ぼすことがなくなり、誤判断が減るということが確認された。このことから視覚に頼らないことで人間は正しい味覚情報の判断ができるようになるといえるであろう。

これらの実験結果の数値を統計学的に解析した場合にも、視覚が味覚に影響を及ぼしていると十分言い得るとする結果を得ることができた。

また味の感じ方の調査の結果から、味の感じ方への視覚情報の影響というのは直接的な味覚情報の強度の増減なのではなく、視覚情報から想起されるイメージによるものなのではないかという推測がなされた。この説に関しては更なる検証が求められるものの、今回の調査で得られた結果を説明できる説のひとつとしてここに挙げておく。

以上の事柄から、視覚は味覚に影響を及ぼしているといえると結論付けることができるのではないだろうか。

参考

参考URL

以上

実験に参加してくれた皆さん、 意見をくれた授業の皆さん、そして岡村先生、ご協力ありがとうございました。