始めに
水は、蛇口をひねれば出てくる、私達の生活の中で最も身近に存在する液体です。日本は世界の中でも比較的降水量が多く、川の流れも至る所で目にすることができます。そのため、もしかしたら「水は天から降ってくる、タダで手に入るもの」と無意識に思っている方もいるかもしれません。私も、二ヶ月前まではそのような考え方をしていました。しかし今では、水は特別な物質で、私達人類にとって大変重要なものだと感じています。この手紙を通じて、私が学んだ知識を皆さんと少しでも共有できたら幸いです。
水は「特に注目すべき特徴もない」物質か?
地球は、太陽系で唯一、水をたたえた惑星です。地球が唯一水の惑星となれたのは地球の大きさと、太陽からの距離、という二つの要素が絶妙なバランスで成り立ったからだと言えます。例えば、地球のすぐ内側に位置する金星は太陽が近すぎるため、水はガス状態でしか存在できません。一方、地球の外側にある火星では太陽に遠すぎてほとんどが氷だと言います。また、太陽からの距離が地球とほぼ等しい月は、小さすぎて水分子を引きつけておく引力がないため水が存在しません。このような条件を見事にクリアして、水があるからこそ、地球は緑の草木に覆われ多くの生命を生み出すことができたのです。
そんなことは「高校生にもなれば誰でも知っている」と思うかもしれませんが、あまりに話の規模が大きすぎて、どれほどすごいことなのか想像しにくくはありませんか?今度は自然界や身近に見られる例を取り上げて、水が科学的にも特別な存在であることを説明します。
水を入れたコップに、浮かぶ氷。容易に想像できますね。しかしこの日常の光景は、科学的には実は異常な現象と見ることができます。氷が水に浮かぶことができるのは、水の密度を1とすると氷の密度は約0.92となり、固体の方が液体よりも密度が小さいからです。固体の方が軽い物質としてはアンチモンも挙げられますが、この物質は自然界にはほとんど存在しません。世の中に多くある物質のうち、99%は固体が液体に沈んでしまうのです。またおもしろいことに、水の水温を少しずつ下げていくと、始めは密度が大きくなっていき4℃の時密度が最大となって、もっと温度が低くなると今度は密度がどんどん小さくなっていくことが分かっています。この特性は、自然界では湖の表面に張る氷となってあらわれます。もし湖の水が凍って湖底に氷が沈んでしまったら、湖の水温全体が0℃となり春になっても湖底に太陽光は届かず、魚や湖に生きる生命が全滅してしまうでしょう。しかし実際には表面に氷が張っても冬の間中湖底の水温は4℃付近に保たれているため、魚たちもまた春を迎えられるのです。
水は「地球上どこにでもありふれた」物質か?
今度は自然環境における水を更に大きな視点で捉えてみたいと思います。皆さんが自然界で水を目にする機会が最も多いのは、雨や雪となって天から降ってくるときではないでしょうか。それらの現象は、水の三態(気体/雲・液体/海水や淡水・固体/氷や氷河)が様々な気象現象となって巡り巡っていることを表しています。つまり地球上の水は、止まることなく常に動いているのです。これを「水の大循環」と言います。「水の大循環」は地球の自然環境を生命が生きていくにふさわしい状態を作り出してくれる、地球という大きな生命体の呼吸のようなものです。水は蒸発熱が高く、蒸発の際に多くの熱を奪うので、地球の温度を生命が生きていける範囲に保ってくれます。同時に、海水や汚水を蒸留することで浄化し、人間を含む生命に不可欠な真水をもたらしてくれるのです。
冒頭にも述べましたが、「蛇口をひねれば出てくる水」、「天から降ってくる水」、このように私達は水をありふれたものと捉えがちです。しかし以下に、地球上を様々な形で循環している水がどのように分布しているか教えてくれる驚くべきデータを示しましょう。地球上の水はその97.5%が海水で、淡水はたった2.5%です。しかもそのうち約六割が氷河、約三割が地下水であり、地球の表面にあるたった一割だけを見ても人間が自由に使える水には限りがあります。地下水の利用は19%にまで達成していますが、逆に汲み取りすぎによる地盤沈下が起こるなど悪影響を引き起こしています。このようなデータを総合的に考えてみると、人間利用できる水は、地球上にある水約14億km3の0.01%でしかないのです。
ここまで見てきた「水の大循環」と水利用率の数字をみただけで、私達が目にする水が如何に狭い意味の水であったか気付かされます。蛇口から出てくる水だけを見ていると、まるで人間が水をコントロールしている、できているかのように錯覚してしまいます。しかしその水はまさに氷山の一角に過ぎず、(実は「氷山の一角」と言うのは氷山の十一分の一の容量を指しています。これも、個体の方が液体より体積が大きいと言う水の持つも不思議な性質から割り出せる数字です。今は従来の意味どおり使いましたが。)水はその全貌を見ることが不可能なほど、もっともっと大きな存在なのです。確かに、水は地球上にたくさんある物質かもしれません。しかし量が多いからといって決してありふれた物質であるとは言えません。むしろ水は、地球の営みによりもたらされる貴重な資源なのです。
これからの水を考える
以下に日本水フォーラムwebsiteに挙げられている、世界の飲み水と衛生の問題を抜粋します。
- * 11億人が、1日20リットルの水を手に入れるのに30分以上歩かなければなりません。(出典:WHO (世界保健機関))
- * 26億人が、トイレなどの適切な衛生設備を利用できないでいます。(出典:JMP中間報告書:UNICEF/WHO)
- * 学校に女子用のトイレがないため学校に行けない子供がいます。
- * 水に関連する病気で年間340万人(ほとんどは子供)が死亡しています。(出典:国連世界水発展報告書)
このように、世界には水を必要としている人々が大勢います。そんな世界の状況に反して、日本は世界最大の水資源輸入国だと言われています。それは、カロリーベースにして自給率が40%をきっている日本は大量の穀物や肉類を世界各国から輸入しており、これらの食料を生産するには大量の水を必要としている、そのため日本は他国の水資源を輸入しているのと同じだ、という考え方です。つまり日本は世界中の水の消費者でもあり、その使用量はなんと途上国における年間12億人分の水使用量に匹敵するのです。こうなると、上記に挙げたような世界の水問題は日本と関係ないどころか、日本が一因でもあると言えます。これは人間の生命にも関わる、由々しき問題です。
昨年12月には、日本が中心となって国連に提案していた、2008年を国際衛生年とする決議案が国連総会本会議で採択されました。こういった日本の国際協力の場での活躍と、私達の生活の実態が相反していることに、私達自信が気付くべき時がきているのです。
終わりに
この手紙に書かれたことを知って、どう思いましたか?私はこの二ヶ月で学んだことで、世界がもう一つ広がったような気がしました。日々周囲で起こる自然現象や自分自身の体に起こる生理現象、あるいは新聞を賑わす産業界の記事や少子化問題の記事まで、水問題という視点で考えるだけで違う問題や解決策が浮かび上がってきます。水、なんて不思議で素敵な物質なのでしょう。そう思えるようになった今はもう、水資源の無駄遣いができなくなりました。是非この手紙から学んだことを少しでも自分の周りに広めて下さい。日本に、水の大切さを知る人を増やしましょう、一緒に。
参考資料