I. 導 入
筆者は、本務校(国際基督教大学教養学部)において過去15年余り、一般教育科目NS III「自然の化学的基礎」を担当して来た。テーマとして「水」(最近では「水と人間の共生」)をかかげ、水を通して自然を総合的視点から考えることにねらいをおき、様々な授業展開法を取り入れて来た[1-4]。本学で行っている「学生による授業評価表」の集計結果によると、受講生たちから概ね好評をもって受け止められている[5]。この講義の中の温度に関わる部分を中心軸として内容を再構築するとどうなるか。これが本稿を書き始めた発端である。
そこで、まず現行の一般教育科目(NS-III)の中の温度に関わる部分を要約をする。
「水の自然科学」の章の中には「水を冷却する」、「水を加熱する」という2つの節が設けられており、水という最も身近な物質に注目しながら温度と物質の状態変化、化学変化とは何かを考え、水との関連の中で他の物質にも目を向けさせる。冷却の限界点である絶対零度ではどんな物質も固体となり、熱運動が完全に停止する最低温度が存在することを示す。また、すべての物質は加熱していくと液体、気体となり、水も100℃以上では加熱水蒸気となり、2500℃以上になると水素と酸素に分解する。太陽の表面温度以上の超高温条件ではすべての化合物が分解して原子状の気体となり、10万℃以上に温度を上げていくと、プラズマ状態になる。さらに、1000万℃以上の温度では核融合、核分裂反応を引き起こすことを説明する。核反応は水爆、原爆として人類の生存を脅かす力をもっているが、人類の生存を支えるエネルギー問題の解決手段ともなっており、ここに人間の英知と選択が問われているという問題提起をする。一方、核反応は太陽エネルギーの源泉であり、宇宙(星)の誕生と活動の源泉でもあることを示し、地球人の運命に目を向けさせる。
こうして、自然と人間を見る「温度ものさし」を学生に持たせた後、地球環境を維持し生物の生存を可能にしている温度条件が、太陽系の中で地球が特異な位置とサイズによることをデータによって確認する。また、生命誕生と生命活動が可能な温度条件について考えさせる。
このように、私の一般教育科目では、自然を総合的にとらえることを究極の目標としてきた。このような授業展開は、非理科系の学生に対しても自然に対する理解を一歩深める教育効果をもつ方法であることが彼らの感想文からも分かった。しかし、「温度」に関わる部分は講義全体の20%以下に過ぎない。もしも、「温度」をテーマとして講義を構成するとしたら自然の別の側面も見えてくるはずである。その可能性をさぐるために新しい講義の概要を考案したものを以下に示す。