2. 温度を変えると何が起きるか

2a. 物質の状態変化

三態変化では、まず水を例にしながら2つの状態が共存する融点、沸点の意味を説明する(氷→水→水蒸気に変わる過程を温度と時間のグラフに表す実験)[7]

つぎに物質の三態変化の要因について考える:ここでは、常温で気体の沸点(気体が液体になる温度)、融点(液体が固体になる温度)に注目し、分子間力と状態変化の関係について考察する。データ(表1)を見ると、どんな分子も液体、固体に変化することが分かる。すなわち、ヘリウムのように球形の単原子分子間にも引力が働いている。分子間力についての説明が学生から求められた場合に備えて無極性分子間に働く引力の本質について調べておく必要がある。

  表1 常圧で気体の物質の沸点、融点

       T(K)= t (℃) + 273.15

気 体
沸点(bp)K(℃)
 融点(mp)K(℃)
酸素(O2
90(−183)
54(−219)
窒素(N2
75(−198 )
63 (−210 )
空気
81.5(−191.5)
60-48(−213−225)
水素(H2
20(−253)
14(-259)
ヘリウム(He)
3(−270)
1(-272)at 25.3 atm

このデータから絶対零度ではあらゆる物質の熱運動が止み(K=0)、固体となることを説明する。固体では原子の位置が自由に変化することができないが、不確定性原理により一定位置を中心とした振動運動は残る。これが絶対零度の世界である。

  気体の冷却法(気体膨張による熱効果/Joule-Thomson効果の利用、断熱消磁法)についても調べておく。

 水を沸点以上に加熱していくとどうなるか?水蒸気になるというのが常識であるが、その実態はあまり知られていない。そこで簡単な実験(沸騰中の水から発生している水蒸気をスクリュウ状に巻いた細い銅管に導き、途中をアルコールランプで加熱。銅管の先から出るガスでマッチ軸に引火するかを予想させる。)[8]で学ぶ。銅管の先に温度計を近づけると300℃近い水蒸気(加熱水蒸気 super heated vapor)が出ている事がわかる。水蒸気は湯気とは違って肉眼では見えないが、冷たい容器を近づけると水滴がつく。この温度では水は分解してない事を、水上置換法で気体を集めようとしても気体が集まらない事によって確認する。加熱水蒸気は、例えば、タービンや蒸気機関車に利用されている。

 

2b. 化学変化(化学結合の切断と再結合)

  水を加熱していくと何度で分解するか?

2000℃以上で

2H20 -----> 2H2 + O2

2500℃以上で

H20 ----> 2H + O

熱エネルギーによってOH化学結合が切断される。2000℃では水は一度分解した後に、水素と酸素が再結合してより安定な水素分子と酸素分子になるが、2500℃以上では、再結合によるエネルギーの安定化よりも熱エネルギーの方が大きいために原子状気体のままである。

水の電気分解は中学の理科にも出で来るほどよく知られているが、水の化学結合はかなり強固であることをここで説明する。

ほとんどの有機化合物は2000℃以上では二酸化炭素と水に熱分解すると考えられる。

それでは、自然界にある無機化合物を加熱していくとどうなるか?

そこで融点と沸点のデータを見る(表2)。融点の最高値は炭素、沸点の最高値はタングステンである。すなわち、自然界の全ての物質は6000℃以上では気体となる。

 

表2 常圧で固体の物質の融点、沸点 
固 体
融点(mp)℃
沸点(bp)℃
食塩(NaCl)
804
1440
鉄(Fe)
1530
2735
金(Au)
1063
2700
ウラン(U)
1132
3818
炭素(C)
3570
4000
タングステン(W)
3400
5700

温度と状態変化のまとめ: 自然界のあらゆる物質が温度変化に応じて固体となり、液体、気体となる、という自然認識をもつ。

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c. プラズマ生成(原子核と電子の解離)[9]

6000℃(太陽表面温度)以上 では、水素分子以外の全ての原子・原子間の結合(化学結合)が切れて原子状気体となる。

  ---------> 2H   7,000 ℃ 

  水素分子       水素原子

 

原子状の気体となった物質を10万℃以上に加熱していくと、熱エネルギーは原子核と電子間に働く引力を凌駕し、原子核と電子は解離して独立に運動する。このような状態をプラズマ状態という。太陽はプラズマの塊である。

 H  -------> H  +  e-  50,000 ℃

水素原子     陽子    電子  

          (水素原子核)

 

d. 核反応(核融合、核分裂)

 107(千万)K以上では :核融合(nuclear fusion)が始まる[9]

 
  D  +  D  --------> He   +  n + 3.23 MeV

 重水素        \    ヘリウム   中性子  放出されるエネルギー 

         同時に\

  D  +  D -------->  T  +   H  + 4.03MeV

               トリチウム   陽子(水素原子核)

       ただし、D = 2H 、 T = 3H (質量数の異なる水素の同位体)

        発火温度=3.5x108 (億)K

一度発火すると、莫大なエネルギー放出により連続的に核融合が続く。これが太陽エネルギーの源である。

 

1012(兆)K以上では :核分裂(nuclear fission)が起こる[10]
 
235U  --------> 様々な放射性元素に核分裂する

    ウラン

 核反応の特徴:

1) 元素が変換するという意味では現代の”練金術”。

2) 莫大なエネルギーを放出する。

3) 放射性物質を生成する。

     *核融合は恒星の輝きの源、核分裂は超新星の爆発。

 

温度の上限はない。宇宙の誕生時は1020度以上であったと言われている。

 

e. 核反応の地上における応用[10]

 応用 その1: 核爆弾

 

◆ 水素爆弾(Hydrogen bomb)

   D  +  T  --------->  He  +  n  +  17.6MeV

  重水素 トリチウム     ヘリウム  中性子

         (4x107 Kで点火)

 

 

◆ 原子爆弾(Atomic bomb):

235U  +  n  ---------->  140Xe  +  94Sr  + 2n + energy

ウラン(濃縮)            キセノン   ストロンチウム  (200MeV/g)

           広島型原爆    

 

239Pu  +  n  ----------->  核分裂物質  + energy

プルトニウム    

           長崎型原爆  

応用 その2 : 原子力発電

 原子炉:核反応を低濃度ウランと制御棒によりゆるやかに行なわせる装置

 ウラン238からプルトニウム239をつくることができる。

238U + n  ------>  239U  ------->  ----->  239Pu

 ウラン238         ウラン239   (電子:b線を放出) プルトニウム

応用 その3 : 核融合発電

水素爆弾と同じ核反応をゆっくりと持続させることが必須だが、超高温のプラズマ状態を保つ技術が未開発。

原料の重水素、トリチウムとも入手は容易。放射性廃棄物を出さない。暴走の危険性なしと言われる[9]

 

問題提起:

●原子炉は現代の”練金術”工場か?

●原子力/核融合発電は人類のエネルギー問題解決の切り札か?

●放射性廃棄物により致命的な地球汚染原因 とならないか?

 

f. 人間が達成した最低、最高温度

最低温度: 液体ヘリウム 2x10-5 K (1950)

最高温度: 原爆の中心部では106 K

 

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