研究内容



液体の量子操作




90年代から大きな進展を見せたイオントラップや冷却原子の操作,いわゆる原子気体の量子操作に対し,この15年ほどの量子テクノロジーの活動は固体中の素励起における量子操作を大きな目標の1つとしてきた.その間創生された新研究領域は数多く,共振器マグノニクス,共振器オプトメカニクス,回路電磁気学など,近年特に注目されるこれらの量子系において固体中での量子操作が大きく進展した.その貢献の大きな担い手が共振器を用いた量子電磁気学である.共振器により内部電場(もしくはそれ以外の場)の密度を上げ原子との結合を増強するのと同時に,共振器閉じ込めによる環境からの孤立と量子性の担保がその大きな役割である.一方,量子分野でほぼ未開拓なのが液体相である.形状が固定されておらず容器が必要な液体ではどうしても環境との結合が強くなり量子性の担保が難しい.また原子配列が固定されておらず柔らかな液体では渦や乱流など非線形ダイナミックスの発現が容易でその複雑さは量子操作から程遠く感じられる.
我々は現在生体応用を視野に入れた,共振器オプトフルイディックスの開発を行っている.光と液体にかかる圧力,つまり液中のフォトンとフォノン間の相互作用を共振器を導入することにで飛躍的にその結合強度を上げ,双方向な操作を行うことを目指している.量子エレクトロニクス技術と生体分光の融合により,既存の光生体操作・分光を新たなレベルまで引き上げ,基礎物理および生物応用まで幅広い発展可能性を内包する技術の創出を目指している.




量子オプトメカニクス / 量子トランスデューサの開発




超伝導量子ビットを用いた量子コンピュータの発展は著しく,世界的に活発な研究・開発が行われている.これらの量子コンピュータは,希釈冷凍機 (T=10mK) という極低温環境で数GHzという周波数帯のマイクロ波を用いて操作されている.これらの量子コンピュータ間の通信には,長いマイクロ波用電線を用いればいいと思うかもしれないが,マイクロ波光子のエネルギーは低く,常温ではそこら中から吐き出されるマイクロ波の熱輻射に信号が埋もれてしまう.そのため量子性を保った常温におけるマイクロ波通信というのはほぼ不可能である.その点,我々の生活する常温においてエネルギーの高い光はほぼ輻射されない.さらに既存の光通信のように,長距離における通信が光では容易である.そのため,量子コンピュータで使われているマイクロ波信号と通信用に用いられる光信号を双方向に変換する技術,量子トランスデューサが必要となる.量子トランスデューサの開発は,分散型量子コンピュータや量子インターネットの構築に向けて注目されている他,単一マイクロ波光子測定や,光-光相互作用の間接的増強などが期待できる.
我々はニオブ酸リチウム(LiNbO3)を用いた量子トランスデューサの開発を行っている.LiNbO3はピエゾ効果を有するため,櫛形電極(IDT)にマイクロ波信号を送ることにより弾性波(フォノン)が励起される.この弾性波による歪が光に変調を与えることで,マイクロ波→弾性波→光,というように信号が伝わっていく.この過程を通して,単一光子のマイクロ波信号を単一光子の光信号に変換するのが量子トランスデューサである.我々は様々な形の弾性波共振器と光共振器を組み合わせたオプトメカニクスを用いて量子トランスデューサの開発を行っている.