質問・コメント あれこれコーナー 2/16更新 |
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質問・コメントは吉野輝雄までyoshino@icu.ac.jpまで
(このコーナーはNSIII「自然の化学的基礎」のクラスのために開いています)。
33. 富士山頂で水を100℃にすることが可能ですか?
できます。圧力を高めて温めればよいのです。圧力鍋があれば簡単に実現できます。簡単な方法としては、鍋に重しをのせて加熱すれば内部の圧力があがって100℃になります。飯ごうの上に石をのせてご飯を炊くと生煮えを防ぐことができます。
34. アイススケートでは、氷を蹴って勢いをつけジャンプしたり、空中で3回転ができますがなぜですか?普通の床ではできないと思うのですが。
普通の床では滑り難いので、勢いをつけ(その慣性で)ジャンプすることができませんね。空中ブランコで回転が可能であることも、振りの勢いを利用しているからです。要は、摩擦の小さな氷上でスピードを出し、その勢いを利用して華麗なジャンプやダンスに仕上げているのがアイススケートというスポーツであり芸術ではないでしょうか。
35. 沸点があるということと分子間に引力があるということはどういう関係にあってそう言えるのですか?
沸点よりも高い温度になると物質は気体となって自由に空間を運動するようになります。つまり、それまで分子間引力によって集合していた(液体状態)分子が、その引力以上の熱エネルギーを加えられると気体に変化するのです。逆に言えば、気体を冷やすと分子間引力によって集合し液体状態になります。液体と気体の間にエネルギーの差がない時の温度を沸点と言います。
ミクロの世界でも引力があるということです。ニュートンは惑星間に万有引力を発見しました。分子間にも引力があります。分子間に引力が存在するからこそ分子は液体となり固体となるのです。分子間力が大きな分子は室温(25℃付近)で固体となり、小さな分子は気体として存在します。最も固体になり難い分子はヘリウム(He)で次ぎが水素分子(H2)です。つまり、分子間引力が最小の分子です。
なぜ引力が存在するのかが問題ですが、簡潔明瞭に説明するのはたやすくありません。しかし、試みてみましょう。プラス電気とマイナス電気の間に引力が働くことを前提にすれば説明が可能です。まず、プラスイオンとマイナスイオンの間には大きな引力が働きますので、食塩(Na+とCl-)は固体として存在し、気体にするには1000℃以上に加熱しなければなりません。水のような極性分子は、部分的にプラス電気とマイナス電気をもった分子(双極分子)なので、分子間にやはり電気的な引力が働きます。水分子ではその上に水素結合という引力(HO-H・・・OH2 )も加わるので、大きな分子間力が存在します。
室温で液体のベンゼンは無極性分子ですが分子間に引力が存在します。それは、ベンゼン分子内のC-H間に部分的にプラス電気とマイナス電気をもった個所ができ(部分双極子)、それが分子間で引力として働くからです。メタン(CH4)も室温では気体ですが液体・固体になることから分子間引力が存在することが分かります。このように異なる原子が結合してできる分子(異原子分子)には分子間力が存在することが分かりましたが、水素分子のように同種の原子が2個結合した分子間にも、そして一原子分子であるヘリウム分子間にも引力が働くのはどうしてなのでしょう?この問題に答えを出したのがLondonという科学者です。彼は、どんな原子も原子核と電子を持っていることに注目し、核というプラス電気の中心と電子というマイナス電気によって一瞬生じる双極子間に微弱な引力が働くのだと説明しました。これで全ての物質間に引力が働く理由説明ができました。
37. 宇宙は真空状態で熱が伝わらないのにどうして太陽熱が地球が届くのですか?
太陽から地球に届く赤外線で地表(土、石や空気、草木)が温められます。赤外線は熱線とも呼ばれます。赤外線コタツや赤外線ランプは熱線を出す装置です。赤外線には水をはじめ全ての分子の振動運動を引き起こす力があります。
38. 水が蒸発するときどこからそのためのエネルギーを得ているのですか?
室温(25℃)で空気中を飛来している窒素や酸素分子がもっている運動エネルギーです。水を蒸発させるために使われた運動エネルギーのだけ周囲の空気の温度が下がります。打ち水は見た目だけでなく、実際にいくらか涼しくなります。
冷たい水を放置しておくと室温になるのも同じ原理です。
39. 空気中に粒子(気体分子)がたくさん飛び交っているはずなのになぜ目に見えないのですか?
あまりにも小さいからです。数Å(10-8cm)というサイズですから。しかし、存在することは空気圧があることから確かめられます。平均地上では一気圧(真空の水銀柱を76cmも押し上げる力)、上空では低くなることは経験的に知っている通りです。
40. 粒子と粒子の間には「何も存在していない」状態があるのですか?
粒子と粒子の間は真空です。だから動けるのです。宇宙空間は気体すら希薄で真空に近い状態です。
41. 皮膚が暑い、寒いと感じるのは、空気中の粒子(気体分子)が皮膚にぶつかる時の速度に関係しているのですか?
気体分子が高速で皮膚にぶつかると(=運動エネルギーの大きな気体分子が衝突し、熱エネルギーを伝えるということ)、暑く感じます。しかし、暑い・寒いは熱エネルギーの出入りを感じているわけで、その原因は気体分子の衝突だけとは限りません。赤外線があたれば暖かく/場合によっては暑く感じます。気温の低い所では皮膚から熱エネルギーが逃げて行き寒く感じます。乾燥している時と湿気のある時では寒さの感じ方が違うという経験をしたことがありますか?湿気があるときは、底冷えします。つまり、運動エネルギーの低い水分子に体が囲まれると、体温下にある皮膚から熱が奪われ(しかも水の比熱が大きいのでかなりの熱量が奪われる)、底冷するのです。
42. 水の高い伝導率は実生活の中でどのように活かされていますか?
やけどをした時にはすぐ水につけることが大事なことを知っていますか。空気中に放置していてもやがて冷えますが、その間に高温になった皮膚細胞が死んで治るのに時間がかかります。
寒い日にしもやけができることがありますが、それでも温められた血液から熱がすばやく伝わるのでひどくならないで済んでいるのです。
43. 水が温まりにくく冷めにくいという性質は人間の生活の中で役に立つ場合があるのですか?
・比熱が大きい(熱容量が大きい)という性質:冷却に水が使われている(比較的少量で冷却できる)。とはいえ、水以外の安価で安全な液体がないので水を使っているとも言えますが、他の液体がふんだんに使えたとしても水が選ばれるでしょう。
・水の中につけておいたり、周囲を水で囲っておけば、温度変化が少ないので温度変化で変質しやすいものの保存ができる。
・草木の80%以上は水なので、太陽熱でオーバーヒート(過熱)しないで済んでいる。
・人間の身体もも2/3は水なので、体温の急激な変化が起こらない。運動をして体温が上がった時は、汗を出して(蒸発熱の分だけ)体温を下げる仕組みが備わっている。
・地球の平均気温が15℃であるのは、水の比熱が大きいことによる(説明は自分で考えてみよ)。宇宙の平均気温が-270℃、恒星の温度が1千万度であることを考えると、地球は何と狭い温度範囲に存在していることかと思いませんか?水が液体として存在できるのは273から373°Kです。これも宇宙的視点からすればとても狭い範囲です。
役に立つというよりも水が奇跡をもたらしているように感じませんか?
44. プールや海、川の水温が外気温と違うのはなぜですか?
上の説明の応用問題ですね。比熱と蒸発熱で説明を試みてください。
45. 昇華の時には、やはり固体→気体の時に熱を奪い、気体→固体の時に熱を放出するのですか?
その通りです。
46. 無人島でのどが渇いても海水を飲めないのはなぜですか?
体液よりも濃いものを飲むと、体内(細胞内)の水が外に出てかえって渇いた状態になってしまうのです。しかし、極限状態では身体から出る水分(尿)を飲んで水分補給をしたという体験記があります。また、海水を飲んでしのいだという話しも聞いたことがあります。どうしてそれが可能なのか、私には分かりません。
*問題:無人島でも朝露が出る場合があります。また、土の中に水分があってわずかに蒸発していることも(夜、海水をまけば湿気が増す)。そこで、それを集める工夫をすればよいはずですが、いかにすれば可能か?
47. 水以外の液体をバケツに入れて氷結させると底から凍るのですか?
その通りです。
水以外の液体(アンチモン金属も水と同じと言われています)は、固体になると密度が大きくなるので底に沈みます。ベンゼン、酢酸の例をクラスで見せました。また、VTRで蝋(パラフィン)、硫酸、アルコールの例を見ました。これが自然の姿です。その意味で、水は”不自然な”物質なのです。
48. なぜ水は氷になると規則正しく並び、すき間のある構造になるのですか?
全ての分子は、分子間の引力が最大になるように並びます。それが最も安定な構造であるからです。その結果、多くの分子は規則正しく配列した結晶構造となります。中には、規則正しく並ぶ前に冷えてしまい無定型形の固体となるものもあります(ガラスがその典型例)。水分子も分子間引力が最大となるよう並ぼうとします。それは、(HO-H・・・OH2 )とO-H・・Oが直線上に配置した場合で、この時に水素結合が最大となります。結果的には、ダイヤモンド様の構造となります(配布プリント中の図を参照)。その図から、氷になると液体状態よりもかえって隙間の多い構造となっているのがわかりますか。11/10だけ隙間が大きくなります(氷が水に浮くことから確認できますね)。密度の方は小さくなります。こんな性質をもつのは、自然界で水だけです。
49. 鍋でお湯を沸かすと、沸騰しているときは出ていないのに、火を止めたとたんに蒸気が出るのはなぜですか?
よく観察していましたね。鍋がガスコンロで加熱され、沸騰している状態をまず考えましょう。この時、鍋の中の水には大きな熱エネルギーが加えられています。そこで、沸騰により液体から気体に変化した水分子は水面から空中に勢いよく飛び出していきます。少し湯気が見えるかも知れませんが大部分の水蒸気(気体)は肉眼では見えません。加熱を止めると、水面から飛び出す水分子の勢いが急速に衰えます。水面上10cm当たりをうろうろしている間に後から飛び出してきた水分子と出会い、集合体となり湯気として見えるのです。
50. 四塩化炭素などの炭素は炭疽菌と関係あるのですか?
ありません。漢字をご覧下さい。炭素は元素名で、Cで表します。
炭疽菌については、次のWeb-siteを参照:
http://idsc.nih.go.jp/kansen/k99-g52/k99_46/k99_46.html
51. 木の蒸散で、葉から水が蒸散されるまでに水の中の不要物質は木に蓄積されるのですか?また、それは木を枯らす原因になりうるのですか?
木が根から吸い上げる水の中には様々なミネラルや水溶性の無機・有機化合物が溶けています。これらは不要物質であるというよりも木が成長し、生命活動を維持するのに必要な成分です。尤も、酸性雨が大量に降ると、酸性物質は水溶性なので木が他の成分と同時に吸収し枯れる原因となります。
52. 水の中のカルシウムなども、食塩と同じように氷の結合を邪魔するのですか?
その通りです。カルシウムイオン(Ca2+)は氷の結晶構造には入り込めないので、ゆっくり氷ができる時には弾き出されてしまいます。
色のついた透明な氷が造れないのも同じ理由からです。
53. 透明な氷を作ることはできるのですか?
ゆっくり冷やせばできます。秩父・長瀞で切り出される天然氷は透明度が高いので有名です。因みに、氷の中の白い部分は空気です。急激に冷やすと空気が抜けない中に凍結し、白い部分が多くなります。
54. 水は球体で落ちますが、表面張力が水より弱いhexaneや四塩化炭素はどんな形で落ちるのですか?
他の液体の落ちる時には球体(下がやや押しつぶされた形の液滴)になります。液体の表面張力が大きいほどサイズが大きくなります。
55. 球体で落ちる液体も真空状態ではどうなるのですか?
液体の沸点によりますが、真空状態におくと液体は気化しやすくなります。球体に保つ力も弱くなります。
無重力状態では、液体は大きな液滴になります。宇宙船の中で水がぶよぶよな球体(水ボール)として空中に浮かんでいる映像を見たことがありませんか?
次のWeb-siteがおもしろいですよ。
宇宙でくらす/つくる http://jem.tksc.nasda.go.jp/iss_faq/go_space/step_3_2.html
- Q: 宇宙船内で「水のまりつき」はできるのだろうか?
- Q: 宇宙飛行士は、歯みがきのあと、口をゆすいだ水をどうするのだろうか?
- という質問に対する答えが書かれています。
56. 若い人の肌が水をはじくのはなぜのですか?
「歳をとることは水を失うことなのです」というライアル・ワトソン博士の言葉とも関連していますね。
赤ん坊の体内細胞は生命力に溢れており80%以上の水をもっています。若い人の場合、細胞内の水分割合も高く、細胞内の生命活動が活発で細胞膜がはち切れるような状態(弾みのある組織を形成し、周囲の細胞とも敏感な相互作用/関係を持っている状態)にあると考えられます。皮膚細胞(組織)も同様です。「若い人の肌が水をはじく」と言っても全くぬれないというわけではなく、張りがある皮膚表面に長い時間残らないといった意味だと思います。年寄りの皮膚はシワがあって水が付いた後、長く残るという違いがあります。
年寄りが水を飲めば若い人と同じようにぴちぴちとした細胞になる、ということではありません。要するに、細胞内の水分量が問題なのです。
57. タンパク質は何でできているのですか。タンパク質はHとOを含んでいますが、結合水と関係があるのですか。
天然に存在する約20種のアミノ酸がペプチド結合によって高分子になった物質がタンパク質です。動物の筋肉がその典型例ですが、生命維持に不可欠な酵素や免疫グロブリン、赤血球内にあって酸素運搬の機能をもつヘモグロビンもタンパク質です。HとOだけでなくN, Sも含まれています。タンパク質は一定の立体構造をもつことが機能を発揮する上での基本条件です。そこではタンパク質と分子間結合する水の存在が重要な働きをします。結合水はタンパク質と水素結合して立体構造を形成するのに直接関係する水分子です。いわば、タンパク質の一部であると考えてもよいでしょう。結合水は、凍結乾燥で失われることがありません。
因みに、そうしてできたタンパク質の立体構造のすぐ外側を覆っている水を弾力水(セミ結合水)と呼び、その他の水を自由水と呼んでいます。
つづく・・・・・