水についての質問に答える
K君へ
メールでの質問をはじめて受けました。大歓迎です。水について調べると環境問題が身近な問題であると同時に地球規模の問題であることが分かって来て、調べれば調べるほどおもしろくなると思います。私が教えている大学生がそのことを体験として話してくれています。君が環境レポートとして水に注目したのは大正解だと思いますヨ。
さっそく質問に答えましょう。
>僕は中学3年生なんですが、3学期の環境レポートで水について調べようと思ってい ます。そこでできたら下について教えてください。
>水の不思議さと貴重さって何ですか?
どんな生物も水がなければ生きていけないということがまずあげられると思います。人間は一日に2.5リットルの水を身体に取り入れなければ生命活動に異常がきます。のどが渇くことはその警報で、飲まずにいると血液が濃くなっていろいろな臓器が<悲鳴>をあげます。考えるのもつらくなるでしょう。身体の60%は水で、全ての生命活動が水の中で行われているからです。私たちの生活の中でも水なしでは困ることがたくさんあります(ちょっと考えてみて下さい)。農業に水が必要なのはすぐ分かりますね。実は、工業製品(車も電気製品も)の製造過程にも水が必要で、大都市化、工業化が進めば進むほど水の需要が多くなります。液体の水は地球にしかないという事実とその理由を知っていますか?(私のHPのhttp://subsites.icu.ac.jp/people/yoshino/waterstage.htmlを読んで下さい)。水(海)がなければ生命は発生しなかったでしょう。34億年前に海の中で単細胞生物が出来き、海の中で長ーい時間をかけて段々複雑な生き物になっていき、ついに陸で生活する生物が現れたのですが、やはり水なしでは一日たりとも生きていけないという点では同じです。
地球の表面積の70%が海であることは知っていますね。しかし、45億年前地球ができて以来水の総量は変わっていないません。増やそうとしても増やせないのです。水が貴重であることがこれだけからも言えます。水は液体、気体、固体と姿(状態)を変えながらたえず地球上を循環しています。これを水の大循環と言います。水の大循環が、地球の平均気温を15℃付近に保ち、人間をはじめとする生物が生きていける環境をつくっています(これは、水が蒸発するときに大きな熱エネルギーを必要とするので、太陽熱で灼熱化されるのを防いでいるのです)。また、海水が蒸発して雨となって落ちてくると真水になりますね。不思議に思ったことがありませんか?もしも、海水から純水をつくるとしたら(実際、石油が水よりも安い?<というよりも必要に迫られて>中近東では行われていますが)、エネルギーと財源がすぐにパンクしてしまうでしょう。さらに、水の大循環のもつ意味については、http://subsites.icu.ac.jp/people/yoshino/WaterinEnv.html かhttp://subsites.icu.ac.jp/people/yoshino/MonographWaterCirculationYoshino.pdfを参考にして下さい。
水は、H20という分子式で表される単純な分子ですが、性質と重要性は他の分子との違いが際だっています。正に個性的/ユニークなヤツです。例えば、蒸発する時に必要な熱エネルギーが非常に大きいこと(熱しにくく冷めにくい)、また、氷るときと解ける時に出入りする熱エネルギーも大きい(氷りにくく解けにくい)ことが<異常な>性質としてあげられます。しかし、中学生の場合は、それを単なる知識として覚えるのではなく、日常生活や自然環境の中でどのような意味をもっているかを同時に考えるようにしながら学んでほしいと思います(詳しくは、やはり私のHPを見て下さい)。
水が異常な性質を持つ根本の理由は、水分子間にはたらく引力(水素結合)が大きいことにあります。質問にもある水素結合というのは、O・・・H-Oという位置に分子が並んだ時に生じる引力で、O酸素が部分的に負(-)電荷を、H水素が部分的に負(+)電荷をもつために・・・の間に電気的な引力がはたらくことが根本原因です。分子間力としてはとても大きな力です(実感する方法:2枚の厚手のガラス板の間に水をたらして広げ、垂直方向に引っ張ってはがしてみる。ガラス板の面積によって違うが、かなりの力が必要です。)分子間力が大きいと、蒸発し難い、沸点が高くなる、固体の氷が解けにくい、融点が高くなる、表面張力が大きくなって大きな液滴をつくる/毛細管の隅々まで行きわたる、といった性質が現れます。まだまだ不思議と重要さがありますが、自分で本やインターネットで調べてみて下さい。分かった時の興奮を自分で味わって見て下さい。
>水の融点が-100度、沸点が-80度だと地球上ではどのようなことがおきるのですか?
水が<異常な物質ではなく>普通の分子ような融点、沸点であったらどんなことになるかという質問ですね。
太陽熱でたちまち海の水が蒸発し、上空で温度が下がってもなかなか液体とならないために1万メートル以上の高さまで上がって行くでしょう。そうすると、地球からの引力が小さく、地上に雨(液体となって)落ちてくることができなくなると思います。水分子が宇宙空間に飛散してしまうと、地球は月と同じになり、太陽熱を受けている面は100℃以上に、裏側は-100℃以下となって生物は絶滅して、正に死んだ惑星になるでしょう。
この予想は、水の分子間力が大きいために地球の引力圏内にとどまっており、太陽熱で蒸発ー凝縮(雨、雪)を繰り返している(大循環)という事実に基づいて、逆さに考えたものです。あなたはどのようなことがおきると思いますか?仮定のこととして考えてみてください。
>もし水が正常な物質で、凍りが液体の水に沈むとしたら地球上ではどのようなことが起こるのですか?
よい質問です。水の不思議を知る最もよい例だと思います。
水以外の物質は液体が固体になると密度が大きくなって下に沈みます。なぜ水だけが? それは氷は液体の水よりも1/11ほど密度が小さいからです。氷の結晶構造を見ると、分子間力を最大にするためにO・・・H-Oと直線的に水素結合をつくります。その結果、液体状態よりも分子間のすきまが大きくなるためなのです。この氷構造は、1-4℃の間にも残っているために、水の密度は4℃の時に最大となります。これが、基本の知識です。
そこで質問に対する答えです。もしも冬に寒い日が長く続くとやがて水温が0℃となり湖や海に氷ができて底に沈みます。この時、水温全体が0℃になりますからほとんどの魚や海の生物は死ぬでしょう。植物も同様です。やがて春になって外気温が0℃以上となり、太陽光が射してきても底のたまった氷には熱も光もとどかず冷たいままです。つまり、冬を迎える度に水の中の生物は死んでいき、無機物質だけが溶けている死んだ水たまりとなるでしょう。珊瑚も死滅し、空気中の二酸化炭素は増え続け、地球温暖化は急速に進むことになるでしょう。海の生物が死ねば地上の生物も貧しい食物連鎖の中で急速に衰えてやがて滅びていくと思われます。要するに、「もし水が正常な物質であったら」地球上の生物には死が待っているだけです。
>水素結合についてくわしく教えてください。
上の説明でよろしいですか?
詳しくは、http://subsites.icu.ac.jp/people/yoshino/waterchara.html を見て下さい。
よいレポートが書けるとよいですね。
これからも環境のことをはじめ多くの事に興味をもって勉強をしていってください。
学んで知ることは楽しいことです。生きる力となります。