【第16回ICU哲学研究会 要旨集】

※要旨の掲載をご希望の方のみ掲載しております。


仮面の孔
──古代ギリシア演劇における役柄と役者をめぐって──

佐藤真理恵

 つとに知られているとおり、ディオニュソス神に捧げられた奉納劇たる古代ギリシア演劇(悲劇・喜劇・サテュロス劇)は、おしなべて仮面劇であった。とはいえ、古典文献を紐解いてみると、仮面劇ならではの役柄の演じ分けを称賛する声もある一方、演劇そのものを欺瞞とみなす向きや、役柄と役者との過度な癒着という比喩を用いた訓戒等々、当時より仮面劇をめぐる言説は一様ではなかったことが窺われる。
 本発表では、「顔」を第一義としつつも「仮面、役柄」といった語義まで内包するプロソポンなる用語、ならびに元来は「役者」を指すものの、後代には「偽善者」との意味へ変容していくヒュポクリテスという用語、このふたつの古典ギリシア語を軸に、役柄と役者の関係について考察する。これらの語の概念の変遷に着目するとともに、主に古代ギリシア陶器画にみられる仮面と役者の表象の差異を比較検討することで、古代ギリシアにおいて役柄と役者がどのように捉えられていたのか、また両者の「距離」がどのように変化したのか、テクストとイメージの両面から探っていきたい。


現代社会におけるプライバシーの諸問題と情報倫理
──SNSを用いたコミュニケーションに関する事例を中心として──

萩原優騎

 情報通信技術が発達し普及した現代社会においては、それらの技術の利用に関わる様々な問題が発生している。情報倫理学は、こうした事態を倫理学的観点から扱う研究領域である。本報告では、最初に情報倫理学の従来の議論の特徴やその変化を確認する。続いて、現代において主たる検討課題の一つとなっているプライバシーの問題に着目する。この問題の具体例としては、SNS(Social Networking Service)を用いたコミュニケーションを取り上げる。主に若者たちがSNSを用いて人間関係を展開する際に生じ得る事態やその論点を、コミュニケーションの文脈という観点からの社会学的研究等を参照して検討する。以上の考察に基づいて、情報倫理学の今後の在り方を問うことを本報告の課題とする。