国際基督教大学

東京都三鷹市

 

プログラム自己点検報告書

米国リベラル教育学会

The American Academy for Liberal Education (AALE)

プログラム認証評価のため提出

2005728

 

目次

1.    自己点検評価委員会と自己点検の経緯

2.    国際基督教大学の歴史とその使命

3.    AALE基準の準拠

4.    ICU学生学習意識調査

5.    ICUの学習と教育の評価:新しい挑戦

6.    短所について:教学改革案

 

参考資料

1.    ICU自己点検・評価報告書 2001年」国際基督教大学, 2001.(大学基準協会提出 2, 和文)

2.    “International Christian University Self-Study External Review Report,” November 14, 2000,「国際基督教大学自己点検・評価 外部評価レポート」「国際基督教大学 自己点検・評価報告書 別冊」国際基督教大学, 2001年に収録.(原文は英語p.1-12, 和訳p.13-24.

3.    Accreditation Report from the Japan University Accreditation Association, 「財団法人 大学基準協会による 国際基督教大学に関する相互評価結果」 国際基督教大学、2002.(英訳)

4.    Kiyoko Takeda, Higher Education for Tomorrow: International Christian University and Postwar Japan, ICU Press, 2003. 260 pp. 武田清子著「未来をきり拓く大学−国際基督教大学五十年の理念と軌跡−」国際基督教大学出版局, 2000.(英訳)

5.    ICU: The Bulletin of the College of Liberal Arts 2005-2006. 「国際基督教大学 教養学部要覧2005-2006」(日英で出版の英文冊子)

6.    Summary of AERA Article: ZENKOKU DAIGAKU MANZOKUDO RANKING (Japan-Wide University Satisfaction Ranking) AERA 200410月号に掲載された「全国大学満足度ランキング」の要旨のランガガー助教授による英訳. 記事は「学生満足度と大学教育の問題点 2004年度版」ベネッセ教育総研に基づく.

7.    「国際基督教大学『21世紀ICUフォーラム』委員会報告書 International Christian University The Twenty-First Century ICU Forum Report)」1995.(日英)

8.    2005 国際基督教大学大学案内 ICU University Guide, 2005)」(日英)

9.    「一般教育科目 講義要目20052005 Outlines of General Education Courses)」(日英)

10. ELP Student Handbook 2005-2006. 2005-2006 英語教育プログラム ハンドブック.(英文)

11. ICU Faculty Manual. (教授会便覧. 英文)

12. “ICU Teaching Effectiveness Survey”Spring, Autumn, Winter, 2004. 国際基督教大学授業効果調査 調査用紙および2004年度春・秋・冬学期の調査結果集計表.  FD主任 鈴木による “ICU Teaching Effectiveness Survey Summary Report, Spring 2004,” January 25, 2005.

13. “ICU Liberal Learning Assessment Survey, 2005” and responses (quantitative and narrative). 専修分野ごとのリベラル学習に関する調査結果.

14.FDハンドブック:ICUにおける教育指導・研究の実用ガイドFD Handbook: A Practical Guide to Teaching and Research at ICU)」2002.(日英)

15. Invitation to Japan Studies, American Studies, Asian Studies, Gender and Sexuality Studies. 学科間専攻・日本研究・アメリカ研究・アジア研究・ジェンダー・セクシュアリティー研究案内の冊子. 冊子タイトルは英文. (日英)

16.「卒業論文ガイドライン(Senior Thessis Guidelines)」(日英)

17.「国際基督教大学 大学案内・データ編2005ICU Guide Fact Book, 2005)」(日英)

18.「国際基督教大学 入学案内」2006年度入学生用.(和文)

19. FD Report on Courses, GPA, and Study Hours for AY2004.” FD主任鈴木による2004年春学期のコース・GPA・学習時間に関する報告書, 2005.(日英)

20. Mission Statement from University Bulletin, 1953-1955. 開学時の国際基督教大学要覧収録の大学の使命.(英文)

21.「行動するリベラル・アーツ 21世紀のICU—課題と展望(Doing Liberal Arts” – ICU in the 21st Century: Tasks and Outlook)」 1999.(日英)

22. Proposal for revised mission statement, June, 2005 (Jacqueline Wasilewski). ワシレウスキー教授による、大学の使命の改訂に関する試案, 2005. (英文)

23.ICU Alumni Open Lecture Seriesリベラル・アーツを通って 講演集」国際基督教大学, 1999-2003各年度版, 5.(和文)

24.4年生卒業時調査 仮集計結果 2005. (和文)

25. Examples of student work relating to improving the University’s mission statement. ICUの学生・卒業生の特徴について, 1953, 1995, 2005.(英文)

26.人権侵害およびセクシュアル・ハラスメント相談窓口について(Sexual Harassment and Other Human Rights Violations Prevention Policy Guidelines」人権委員会に関する小冊子.(日英)

27.「世界人権宣言(Universal Declaration of Human Rights)」, ICU学生宣誓(Student Pledge ,Student Handbook 学生ハンドブック(日英別冊子)に含まれる.ICU教員就任宣誓(Faculty Pledge」(日英).

28.「国際基督教大学 カウンセリング・センター活動報告2003年度」(一部英文を含む)「カウンセリング・センター The University Counseling Center)」FDハンドブック14.(日英)

29.ICUのキリスト教理念検討委員会最終報告と解説(The Final Report and Explications of the Committee for the Study of ICU’s Christian Ideals)」1994.ICUのキリスト教理念 (The Christian Ideals of ICU)」 Issues of ICU, Volume 4, 2002 に収録.(日英)

30. 入学出願書類一式、2006年度9月入学志願者情報を含む.

31.「履修の手引き(Course Offerings and Guide to Academic Regulations AY 2005-2006」(日英)

32.「国際基督教大学 個人情報保護に関する方針について(ICU Policy on the Protection of Personal Privacy)」2005.(日英)

33. ICU – Gateway to the Worlds of Tomorrow. 英語による入学志願者向け案内.

34. International Christian University, Japanese Language Program. 日本語教育プログラムに関する英文の案内.

35.2005-2006年度 国際基督教大学 交換留学/海外留学プログラム 応募の手引き・協定大学の概要・帰国学生の報告書」(和文・一部英文) 2005年度 海外英語研修プログラムStudy English Abroad (SEA) Program」(和文)

36. 試験と成績評価に関するFDニュースレター特集号, 9-2.(日英)

37. 授業効果調査に関するFDニュースレター特集号, 8-1, 9-1.(日英)

38. “Model Senior Thesis Grading Rubric卒業論文成績評価ガイドライン, 現在検討中.(英文)

39. Retention Rate Data, 1990-2004. 1990年度から2004年度までの学生保持率・入学・退学・卒業者数の統計結果. 教務グループによる.

40. “Writing in the ICU Curriculum” 2005. 授業に於けるライティングに関する調査とその応答結果.(英文)

41.「ハンドブック(非常勤教員用)(Handbook for Part-Time Lecturers)」2005.(日英)

42. List of activities sponsored by the Office of Faculty Development, 2003-2005. 2003年度から2004年度までの ファカルティ・ディベロップメント事務室活動項目(学内ホームページに掲載https://w3.icu.ac.jp/fd/activities/.(日英)

43. 2002年度から2005年度春までのFDニュースレターのバックナンバーおよび ファカルティ・ディベロップメントのその他の出版物. (日英)

44.「教育・研究要覧(Report on Academic and Educational Activities 2002-2004」第10. 1976年から編纂.

45. アクティブ・ラーニングに関するFDニュースレター特集号, 8-2.(日英)

46. 一般教育科目開講状況・登録者数一覧, 2000-2004年度.

47. 2004年度, 各コースの学生登録状況のデータ, 教務グループ作成. 開講コース数、2002年度1,3592003年度1,3992004年度1,475.

48. Handbook for Faculty Members: An Essential and Compact guide to Academic Regulations related to Registration Procedures and Student Evaluation 「履修の手引き」抜粋(科目登録、履修に関する留意事項のまとめ).(日英)

49. 国際基督教大学図書館に関する各種データ1 – 9.

50. ICU学生学習意識調査 (ICU Student Engagement Survey (SES)) およびその集計結果2005.

51. Faculty Retreat Report:  Designing the Future of ICU, March 15-16, 2004. ファカルティー・リトリート報告書、学内ホームページにも掲載http://w3.icu.ac.jp/fd/retreat/retreat200403/. 特に、マイケル・シェーファー教授による特別講演Living Up to its Promise: ICU in 2010” 参照の事. (日英)

52.「教学改革委員会最終報告(Committee for Educational Reform Final Report)」 20053.(日英)

53.「アカデミック・インテグリティー(学問的倫理基準)に関する本学の方針(ICU Policy on Academic Integrity)」

54.サービス・ラーニング入門(Introduction to Service Learning2005, サービス・ラーニング・センター.(日英)

 

 

1節 自己点検評価委員会と自己点検の経緯

 

国際基督教大学は、2003年秋に米国リベラル教育学会(The American Academy for Liberal Education, AALEと略)より認証評価を受ける旨を表明した。このプログラム認証評価の申請書(2003125日付)と共に提出した趣意書の中でウィリアム・スティール教養学部長は、1953年に設立されて以来、ICUが日本のリベラル・アーツ教育においてパイオニアとして活躍してきたことを論じている。ICUは、バイリンガル教育を実施している大学としてもユニークであり、日本における教育の国際化におけるリーダー的存在としても広く知られている。 文部科学省の設置認可を受けて設立され、また長期間にわたり大学基準協会の一員であり、2001年には、同協会の認証評価のため、2巻からなる自己点検・評価報告書(資料1、和文)を作成し、同時に大和田康之レッドランズ大学名誉教授による英文の「自己点検・評価 外部評価報告書」(資料2)も編纂している。これに対して、大学基準協会による200333日付最終報告(資料3)で、非常に高い評価を受け、14項目の長所と4項目の改善点が指摘された。 ICUはまず第一に、大学のリベラル・アーツ教育とカリキュラムを強化するために、AALEの認証評価を求めることとしたが、同時に、ICUの教育は世界基準にも適合していることを確認したいとの思いもある。さらには、国際的認証評価を得ることによって、交換留学生や、本科学生として全世界から入学してくる学生にとっても一層魅力的な大学となることを期待している。

 

20031212日付の書面で、AALEの会長ジェフリー・ウォーリンはプログラム認証評価の前段階としての自己点検をICUが始めることを正式に認可した。これを受け、ICUでは教養学部長の指揮のもとAALE申請実行委員会(20042月)が発足した。この委員会の構成員は以下のとおりである。

 

実行委員長:M. ウィリアム スティール教授 教養学部長

委員長補佐:ショウン マラーニー教授    ファカルティ・ディベロプメント主任

             
             
ピーター マッキャグ教授                  国際渉外部長

              富山 真知子教授                                  教養学部副部長*

              岩切 正一郎準教授                                    教養学部副部長

                                          (学部共通プログラム担当)

              鈴木 寛教授                              前ファカルティ・ディベロプメント主任

              森本 あんり教授                                  人文科学科代表

        石生 義人準教授                                  社会科学科代表

     マーク グリーンフィールド教授      理学科代表

     森島 泰則助教授                                  語学科代表

     笹尾 敏明教授                                   教育学科代表**

              ジャクリーヌ ワシレウスキー教授  国際関係学科代表***

     吉田 智行準教授                      英語教育課程代表(前英語教育課程主任)

              日比谷 潤子教授          日本語教育課程代表(前日本語教育課程主任)

        松岡 信之教授                                    保健体育科代表 保健体育科主任

        長野 由紀                                                 図書館長

     円谷 恵                                                     教務部長

 

              *  200541日より古藤友子教養学部副部長と交代

              **   200491日より教育学科デヴィッド ラッカム教授と交代

              *** 20041021日より国際関係学科ジョン マーハ教授と交代

 

この委員会を代表し、森島泰則助教授は、2004628日から29日に開催されたAALEの年次総会に出席、AALE役員と会い、ICUへの事前訪問について先方の意向を打診した。 その結果として、200499日及び10日には、ジェフリー・ウォリン会長とジェフリー・マルティノー氏(ディレクター) のICU訪問が実現し、鈴木典比古学長、 森本光生学務副学長、および実行委員会のメンバー数人と会談した。 この訪問は、自己点検プロセスと提出すべき自己点検評価報告書の内容を明確にするのに非常に有益だった。

 

200410月より、申請実行委員会はICUAALEの基準に準拠しているかを検証するため取り得る自己点検・評価方法を決定していくことに着手した。 2005615日を、学内における各評価項目に関する基準準拠検討報告提出日と定め、6つの小委員会を編成し、自己点検評価の進捗状況を報告する会議のスケジュールを策定した。 ここで、ショウン・マラーニー教授がこの自己点検プロジェクトの責任者で委員会の委員長でもある学部長の補佐に任命された。申請実行委員会のために、認証評価機構や関連機関にリンクをはったWebCTサイトも作られることとなり、委員は電子メールなどを通してより充実した意見交換を行うようになった。

 

さらに、学生の学習意識やICUでのリベラル教育についての教員の認識を点検・評価するためにいくつかの方法が考案された。例えば、教育学科の協力のもと、4年生卒業時調査 が20053月卒業予定者を対象に行われた。さらに、全米学生学習意識調査(the National Survey of Student Engagement, NSSEと略)は日本の大学環境にそぐわない部分もあるため、申請実行委員会独自のICU学生学習意識調査(Student Engagement Survey) を日英両語で考案した。また、インディアナ大学高等教育センター(the Indiana University Center for Post-Secondary Education)と交渉し、調査の結果を提供するという条件のもとで許可をとり、いくつかの質問項目は、NSSE のものを利用することとした。この調査は20054月に第3学年対象に実施された。本プログラム自己点検報告書の後半にはこの学生学習意識調査の詳細を記す。報告書の後半には、前述の2005年度卒業生を対象に行った4年生卒業時調査の結果についても明らかにする。また、20056月には、全カリキュラムを通じてのライティングの質と量を評価するために、全教員を対象にICUの授業におけるライティング調査(Writing in the ICU Curriculum Survey)を実施した。 最後に、各専修分野のカリキュラム委員を通して「ICUにおけるリベラル学習に関する調査」(ICU Liberal Learning Assessment Department Survey)への協力を呼びかけた。日本の教育機関では、「査定(assessment)」という概念になじみが薄いこともあり、効果的な論証(effective reasoning)能力、広く深い学習、そして探究心育成などをどのようにしたら評価・査定できるかについて、教員間に活発な議論を引き起こした。このような調査を通しての評価方法に限界があることは十分承知の上ではあるが、教養学部としてのICUを自己点検・評価するにあたり、我々はベストを尽くしたと自負している。この調査結果に関しても、後半部で論ずる。 

 

 

2節 国際基督教大学の歴史とその使命

 

ICUの創立は第二次大戦直後に遡る。創立者の一人で初代学長の湯浅八郎博士は、日本が軍国主義そして世界大戦へと進んでいった責任の一端は戦前における日本の教育制度にあると考え、日本および北米のキリスト者たちと協働して国際主義、民主主義、個人主義を重んじ、新しい教育様式をとる、アメリカ的な小規模リベラル・アーツ・カレッジを設立したのである。創立者たちの考えによれば、新しい大学は、一流の学問レベルを持ち(academically rigorous)、国際的な学びの場を提供し、人種・文化を超えた男女を受け入れ、キリスト教をその中心軸にすえ、宗教や宗派に関係なく全世界から学生を迎えることとした。当初から湯浅氏は韓国、中国、インド、ロシア、欧州そしてアメリカ諸国の人々との幅広い交流を想定していた。その湯浅氏の夢は1953年に200人あまりの「世界中からの熱意あふれる若者」の一期生を迎えたことによって実現したのである。(ICU史の詳細についてはチャールズ・アイグルハート著「国際基督教大学創立史 明日の大学へのヴィジョン(1945 - 63)−」国際基督教大学、1990年(International Christian University: An Adventure in Christian Higher Education in Japan, Charles W. Iglehart, International Christian University, 1964, の翻訳)および、武田清子著「未来をきり拓く大学 −国際基督教大学五十年の理念と軌跡−」国際基督教大学出版局, 2000年 (英訳は、Higher Education For Tomorrow, International Christian University and Postwar Japan, International Christian University Press, 2003)資料4参照。)

 

1953年の献学以来、ICUはアジアと日本におけるリベラル・アーツ教育の先駆者として歩んできた。創立当初からのモットー「神と人とに奉仕する」は新しい大学の平和に対する熱い願いを裏付けるものであり、ICUの教育は、国際的な相互理解とキリスト教精神の体得を質の高い学術的訓練と研究を通して実現することを目的としている。このためICUの教育は、クリティカル・シンキング(批判的思考)、バイリンガル・コミュニケーション・スキル(日英二言語によるコミュニケーション力)、そして実社会の問題に取り組むことを常に重視している。ICUは、キリスト教理念に基づいた自由にして敬虔なる学風を樹立し、国際的な環境の下で、民主主義社会における、強い市民意識と良心を身につけた者を育成することをその使命としている。(本大学の使命は後述するが「使命」全文は国際基督教大学教養学部要覧(資料5)参照。)

 

ICUは人文科学科、社会科学科、理学科、語学科、教育学科、国際関係学科の6学科で構成される教養学部一学部からなる。日本の教育制度で教育を受けた学生は4月に入学し、英語の集中学習を行う。日本以外の教育を受けた学生は9月に入学し、日本語の集中学習を行う。コースは日英両語で開講されるが、日本語で開講されるコースの方が多い。学生は一般教育科目及び保健体育科目を一定単位履修することを義務付けられ、28の分野から専修分野を選ぶ。また、卒業論文は全学生必須である。(卒業の要件は、教養学部要覧(資料512-14頁参照。)

 

創立以来50年以上経過し、大学の規模は拡大した(2005年現在教養学部には2934人の学生が在籍している)、多様性(教員の3割は外国籍であり、毎年100人を超える外国人留学生が交換留学制度を利用してICUで学び、300人以上のICU生が一年または短期留学で海外に出る)も広がっている。学生の満足度は高く(過去10年ほど全国学生満足度調査で常に一位を保っている)、そのリベラル・アーツ的アプローチによる全人教育が評価され、文部科学省の2003年度「特色ある大学教育支援プログラム(GP)」に採択されている。

 

過去半世紀には様々な変化があったが、ICUの教養学部の使命は、グローバルな社会で「責任ある地球市民を育むリベラル・アーツ」教育(括弧内は、上記2003年度「特色ある大学教育支援プログラム(GP)」に採択された取組の名称)の推進であることに変わりない。ICUは、クリティカルな観点を持ちながら地球規模のあるいはそれぞれの地域における問題を把握し、対処すべき方法を選択し、問題の解決に貢献していく学生を育むことを教育目標としている。1995年の「21世紀ICUフォーラム」委員会報告書(資料7)によれば、「リベラル・アーツ教育の重要な目標の一つは、生きた社会の問題に積極的に関わりを持とうとする責任感と実行力の涵養である。」(8頁より引用)この目標を達成するため、ICUはリベラル・アーツ教育を以下の方法で提供する。

 

1)      複数の学問分野の基礎を徹底して訓練する。

2)      特定の専門分野の学習を通して、個別専門分野を超える学問的精神と真理探究の普遍的方法を会得する。

3)      専門分野の細分化の動向に対して、広く知識の交流と統合を図る。

4)      知の根元を問うことを通じて、囚われたるものの見方を解放し、自由な人格の確立を可能にする。

5)      芸術への理解力と鑑賞力を養い、言語以外に効果的な思想あるいは意思伝達の方法があることを理解し、それらのなかに自己表現の手段を発見する。

(国際基督教大学大学案内(資料84頁より引用)

 

本報告書はICUのリベラル・アーツ教育への取り組みおよびその質の高さを裏づけるものであり、各節においてICUの教育がAALEの認証評価基準を満たすものであることを立証する。日本の高等教育界においては米国で長く親しまれてきた評価方法になじみが薄いため、本報告書においては全米学生学習意識調査(NSSE)に対応するICU独自の学生学習意識調査(SES)、及び、専修分野ごとのリベラル学習に関する調査(Department Level Assessment of Liberal Learning)を作成し実施した結果も紹介する(第4節と第5節)。また、最後の節では、ICUの弱点、改善が必要な箇所、及び将来的な改革案を記す。


3節 AALE基準への準拠

 

基準1:効果的な論証 (Effective Reasoning)

他のすぐれたリベラル・アーツ・カレッジ同様、ICUはクリティカル・シンキング、広さと深さを兼ね備えた学習、及び探究心の育成を中心に据えている。本大学は小人数クラス、良質の指導、クリティカル・シンキングとバイリンガル・コミュニケーション・スキル、及び、責任ある地球市民を育てることを目指している。サービス・ラーニング、他のインターンシップ及び実習中心のクラスを通して、学生は積極的に様々な活動に参加する事を在学中から奨励される。本大学の教育課程、特に学生が入学後すぐに向き合う一般教育プログラムと語学教育プログラムは、特に上記のリベラル・ラーニングの要件に応えるものになっている。

 

ICUの一般教育プログラムは大学のリベラル教育の基礎をなすものである:「第二次世界大戦という悲劇を受け止め、反省し、単に日本だけではなく世界全体を視野に入れた、平和と自由と相互理解と責任の感覚を持つ人間、地球市民を育むことにある。」一般教育プログラムは、日本において、ICUがリベラル・アーツ教育を行う要となるものである。ICUのリベラル教育への取り組みをあらわす部分を一般教育科目の講義要目から引用する。

 

世界には富の偏在やさまざまな対立、貧困、紛争があり続けています。けれどもとくに日本においては、高度成長期そしてとりわけ「バブル」と呼ばれるいびつな価値観に支えられた時期に、そのような問題は一般市民の切実な問題として認識の地平に入ってはきませんでした。(中略)けれどもバブル崩壊のあと、日本でも人と人との信頼や他者理解の感覚にこれまでにない喪失を感じさせる社会状況が見え始め、とりわけ9/11のあと一層顕在化してきた、じつに複合的な要因をはらむ世界規模の民族、宗教、イデオロギー的対立と混迷が深まるなかで、もう一度、生きるとはどういうことか、個人のレベルでも民族、国家のレベルでも幸福や平和が実現しないのはなぜか、そもそも幸福や平和や真理や正義とは何なのか、といった根源的な問いが、われわれの思考の中心にふたたび入ってくるようになったのではないでしょうか。

 

一般教育科目はこういった根源的な問いについて総合的な視野にたって批判的に思考するための基礎を学生が自分のものにするためのものである。コースを担当するのはそれぞれの専門を持つ教員であるが、コースの性格は専門への導入、専門性への深化をもっぱら目指すものではなく、専門性に立脚した方法論によってある事象を分析・解釈したときに何が明らかにされるのか、その方法論がなかったら明らかにならなかったはずの「真実」はどのように認識の地平に姿をあらわすのか、そしてその新しい認識は世界や人間についてどのような一段と深い理解をもたらすかを学生に示し、また考えてもらうことを目的としています。

2005一般教養科目講義要目(資料91頁より引用)

 

一般教育科目の他に全学生は語学の集中学習を行う。(4月に入学した学生は、英語教育プログラム(English Language Program, 以後ELPと略)を、9月に入学した学生は日本語教育プログラム(Japanese Language Program, 以後JLPと略)を履修する。これらの語学教育プログラムは全学生が日英両語でコースを履修するために必要な語学スキルを育成するために不可欠である。しかしELPJLPは、語学教育以上にリベラル教育に不可欠な思考とコミュニケーション・スキル訓練の導入教育の役割を果たしている。ELP学生ハンドブック(資料10)から引用すると「ELPの目的はアカデミックなツールとしての英語学習(English for academic purposes)である。従ってほとんどのELPの授業は正確な読解、講義の正確な聞き取りとノートの取り方、そして、アカデミック・ライティングに関するものである。つまりELPは英語の語学スキルの習得と同時に大学でのその後の学びに不可欠な基礎的なアカデミック・クリティカル・シンキングと学習スキルを養成するためのものである。」

 

ELPのクリティカル・シンキング・スキルの訓練は、読解と論文作法(Academic reading and writing, 以後ARWと略)のコースにおけるクリティカル・リーディングやライティングの授業を通して行われる。入学直後の春学期のARWのリーディングの授業で学生は、著者の主要な論点、それを裏付ける論拠、証拠と結論を見つけ出すことを学ぶ。学生は作者の考え方に対して疑問を持ったり、批判したりしながら自分の意見を述べることを奨励される。このような分析的な読解は学生が自分で論文を書くときの過程に役立つものである。はっきりとした意見を述べ、自身の論点を発展させ、またその根拠を示す訓練を始めるのである。

 

春学期のライティングの最初の課題は簡単な論述型の(argumentative)小論文(essay)である。論述型の小論文を書く訓練は、学生が後に教養学部で履修するコースで必要となる思考スキルを育成するため、有効なものである。このような小論文を書くことによって、最初のリーディングの課題として読んだジョン・メイランドの「College Thinking」(Signet, 1989)に述べられているクリティカル・シンキングの概念を実際に行うことになるのである。こうして、学生はリーディングを通して学ぶことが、ライティングと明確に結びついていることを学ぶのである。

 

論述型の小論文を書くことによって学生は自分がさらに大きな共通の考えを育む共同体(discourse community)の一員であることも学ぶことができる。他人の意見を認識し、受け入れ、吸収する能力は、リベラル・アーツ教育にとって不可欠である。授業でのディスカッションや課題として小論文を書くことで学生はより広い視野から問題を捉えることを学ぶ。初めての小論文課題は「単純」な内容でも秋学期、冬学期とより高度な小論文へと発展する基礎を作る。秋学期、冬学期の課題文献を読むことで学生はクリティカル・リーディング・スキルを学び、他の文献の内容と自分の人生における体験とを結び付けることを学ぶ。

 

リベラル・アーツ・カレッジで要求されるクリティカル・シンキング・スキルは各10週間の学期を3回、もしくは小論文を三つか四つ書くことで身につけられるわけではありません。しかしクリティカル・シンキングをする「習慣」が得られるのです。一年を通じて小論文を書くプロセスによってクリティカル・シンキングが自然とできるようにするわけです。

FD News-N-Things, vol.9, no.3, March 2005(資料43 p.14から引用)

 

社会科学科の1年生セミナーも、効果的な論証力を育むためのプログラムの一つである。これは、新入生を対象とした定員15名のセミナーで、教員の密接な指導の下で学習体験を与えることを目的として、2003年より開講されている。特に一般教育科目は履修する学生数が多いこともあり(定員は150名で、平均100名前後の登録者数で推移している)、1年生セミナーは読解、クリティカル・シンキング、及び記述と口頭での発表の訓練の場として機能している。今年はジョン・ダウワー著「Embracing Defeat: Japan in the Wake of World War II(Norton, 2000) のクリティカル・リーディングを取り上げている。

 

ICUの教員と学生の質はリベラル教育の推進において重要な要素である。ICU教授会便覧(Faculty Manual)によれば、教員採用において最も重要になるのは候補者が大学の使命にどの程度貢献できるかということである。

 

1)  ICUの教員は教えることに熟達していることが期待されていると同時に、学生がその人格、信条と思考スキルを磨き上げる過程を手助けすることに強い関心を持っている者でなければならない。

2)  教員の研究実績も重要であるが、この実績は教育にも反映されなければならない。さらに、グローバル化が進む中で教員は基礎的な課題を多角的な視野から統合することができることが期待されている。

3)  教員は精神的に頑健で、すぐれた知性を持つことが必要である。創造性あふれ、熟達した柔軟な思考で知識を統合していかなければならない。

4)  教員は集団に属する者としての思考(collective thinking)と生活、民族的背景(ethnicity)、グローバリズムにも興味を持ち、人種的偏見を持たず、社会的市民的責任を果たしながら大学がアカデミック・コミュニティとして発展していくことに関心をもち、貢献しなければならない。

資料11参照)

 

ICUの入学選考は毎年2月に行われる一般入学試験が主である。日本の他の大学と異なりこの一般入試では読解とクリティカル・シンキング・スキルが重視されている。更に2004年から、書類審査と面接によるICU特別入学選考で若干名を選抜している。これは、自ら問いを発し、その解決を探っていく様な、積極的で学習意欲旺盛な学生の選抜を目指すものである。このように、ICUは入学志願者選抜において、好奇心旺盛で開かれた心をもち、既存の答えに満足せず、所属する社会のリーダーとしての意義ある変革をもたらす意思がある学生を求めている。

 

以上のようにICUはクリティカル・シンキングの育成をその使命の重要な部分と考えているが、ICUの教育活動によってその教育目標をどの程度達成しているかを査定・評価し、立証した経験はない。日本における大学認証評価の基準は変化しつつあるが、大学が具体的な評価基準を満たしているかどうかを査定・評価することはその認証評価の手続きの中で中心的な部分を占めていない。ICUAALEが課すチャレンジを受けるにあたって、本学の査定・評価方法がまだ発達段階にあることを申し上げなくてはならない。

 

ここで参考にする調査としてはベネッセ教育総研が4年ごとに行っている「学生の満足度と大学教育の問題点」があげられる。これはU.S. News and World Reportの全米大学ランキングと似たものである。この調査は過去3回(1997年、2001年、2004年)実施されているが、ICUはいずれも総合の満足度で一位を獲得している。2004年の調査ではリベラル・アーツ教育の内容、授業内容、学生の授業に参加している実感が一位であった。(資料6参照)

 

ICUはファカルティー・ディベロップメントの分野でも日本における先駆者であり、1995年にはFD事務室を設置した。その主要な活動の一つは、ICUでの授業を改善する目的で授業効果調査(Teaching Effectiveness Survey, TESと略)を実施することである。当初は一般教育科目に限定して実施されていたが、現在すべての授業が調査対象となっている。資料12にリベラル教育に関する質問の2004年度の春、秋、冬学期の結果が掲載されている。下に6つの主要な質問項目に対する学生の肯定回答値をあげる。

 

コースの目標は明確に示された        88.6%が肯定

このコースを受講して触発された       81.5%が肯定

学生の参加機会が十分であった        72.8%が肯定

教員は熱意をもって授業を行った       93.5%が肯定

教員はあなたの理解を助ける授業を行った   82.5%が肯定

教員は質問・提出物に適切に対応した     88.5%が肯定

 

AALE申請実行委員会は全米学生学習意識調査(the National Survey of Student Engagement, NSSEと略)の質問事項に基づいた独自のICU学生学習意識調査(詳細は本報告書の第4節)を実施した。調査は20054月に3年次の全学生対象に実施され、結果としてICUの学習環境で学生の学習意識が高いことが判明した。学生学習意識調査の結果は資料50に概要が掲載されている。学生が授業で活発に討論に参加し、口頭でのプレゼンテーション、グループ・プロジェクトに参加している様子が浮き彫りになった。しかし残念ながら71.9%の学生が授業中たまに寝ると回答している。回答した3年生の合計80.6%がICUは学生を責任ある地球市民に育てているとした。効果的な論証力(effective reasoning skill)については、94.7%の学生がICUでの教育が批判的・分析的な思考能力を高め、定量的な問題についても分析力が高まったとした。

 

AALE申請実行委員会はまた独自のリベラル学習に関する調査(詳細は本報告書の第5節)を実施し、各専修分野のカリキュラム委員を通して専修分野で効果的な論証、幅広く深い学習、探究心の育成について議論するよう求めた。初めてICUにおけるリベラル・アーツ教育の評価を試みたものである。教員の一部は質問の意味がよくわからなかったり、非科学的として(AALE基準を満たしているか10点法で評価することは可能か?)そのアプローチに疑問を呈したりしたが、評価プロセスの意識を向上させることには成功し、また暫定的ではあるが調査結果も出すことができた。効果的な論証力について各専修分野から10点法(最もよく満たしているが10)で次の平均値を報告してきている。

 

1.     カリキュラムは効果的な論証力を奨励し育成しているか 8.1

2.     教育課程(program)と授業内容(course descriptions)は、各専修分野の主要目的として学生の論証能力向上をうたうものであるか 6.7

3.     課題図書などの授業における課題は、これらの能力を育てるために機能するよう十分考えられたものになっているか 7.6

4.     カリキュラムは全体として学生が必要な効果的な論証力の基礎を身につけることが出来る仕組みになっているか 8.0

 

効果的な論証能力を高める教育方法としてはコメントシートの活用をあげた専修分野が多かった。これはICUの授業でよく使われるものである。学生は授業中に質問をすることを奨励されるが、同時に毎回の授業でこのコメントシートに質問を書き込んで提出することを要求される。教員はこのコメントシートに応答を書きこんで返却する場合もあるし、次の授業で解説を加えたり、ディスカッションの課題として取り上げることもある。プロジェクトに取り組む学習法もよく使われる手法として報告された。リベラル学習に関する調査(Liberal Learning Assessment Survey)の回答は閲覧可能である。(資料13参照)

 

クリティカル・シンキングに加えて、基礎的な論理的、数学的、科学的な論証能力も重要である。この領域でのICUのカリキュラムは特に理系以外を専攻する学生に対しては十分とは言えない。現在では、自然科学系の一般教育科目が9コースあり、学生はこのうち最低2コース(6単位)を履修することが求められているのみである。一般教育プログラムでは一般教育が学部教育の4年間全体に関わるものであるという考えから第4学年総合演習も開講されている。(近年は理学科のみ開講。)第4学年総合演習は異なる自然科学・数学分野の相互関連とその他の学問分野との関係を示す目的で設置されており、(ある既修条件のもとで)所属学科にかかわりなく受講することができるが、理学科の学生は4年次に必修である。数学の演習や実験科目を中心に数学的・科学的論証能力は育成されている。しかしリベラル・アーツ教育の理想を満たすためには、理系以外の学生にもこれらの授業の履修を奨励しなければならない。

 

すべてのコース・シラバスは学内ウエブで公開されており、いつでも調べることができるようになっている。教員はコースの目的、内容、課題、指導・評価方針をシラバスに明示することが求められている。FD事務室では定期的に教育改善に関するセミナーを開催し、効果的なシラバス策定についても取り上げている。シラバス策定については「FDハンドブック:ICUにおける教育指導・研究の実用ガイド」(資料14)96-98頁参照。

 

基準2:幅広く深い学習

ICUの学生は幅広く深い学習をもたらす非常に厳格(rigorous)で中味が濃く(solid)一貫した(coherant)教育課程(academic program)の下で学ぶ。上述した一般教育プログラムと語学教育プログラム以外に、人文科学科、社会科学科、理学科、語学科、教育学科、国際関係学科が提供する合計28の専修分野がある。ICUは自然科学を含む全専門分野が一つの教養学部の傘下に編成されているという点で日本の大学においてユニークな存在である。伝統的な分野ごとの専修分野に加えて日本研究、アメリカ研究、アジア研究、及びジェンダー・セクシュアリティー研究を含む学科間専攻がある。(資料15参照)また新たな学科間専攻として平和研究及び環境問題研究も計画されている。これら既存の専修分野および学科間専攻に加え、学生は自身の学究的興味に沿った授業計画を決めることも奨励されている。この選択の広さはICUの学生の満足度が高いことの大きな理由の一つとなっている。

 

効果的な論証能力の育成に関して述べたことの中には、リベラル・アーツ教育の他の面を浮き彫りにするためにもそのまま引用できるものがある。ICUの一般教育科目の学際的な性格はすでに述べたとおりである。現在全学生は、一般教育科目を最低27単位履修することが義務付けられている。これにはキリスト教概論3単位と、人文科学、社会科学、自然科学の各分野から最低6単位ずつが含まれなければならない。このキリスト教概論は日本語と英語で様々な教員が担当しており、キリスト教の伝統が現代の問題やものの見方にどう影響しているかを概観する。(資料9参照)

 

ICUは学生に専修分野の科目とともに所属する学科の基礎科目を履修することを義務付けている。各学生は所属学科で基礎科目を18単位(理学科では20単位)、専修に関する科目を15単位履修しなければならない。例えば、社会科学科で政治学を専修する学生は、歴史、経済、社会統計学、社会学、人類学、心理学、法学、政治学の基礎科目を広範囲に18単位履修する。6学科の基礎科目の履修要件については2005-2006教養学部要覧(資料5)を参照のこと。

 

専修分野に関する卒業要件を満たすことは、独立し、豊富な知識を持ち、精力的でかつ独創的に物事を考える人を育てるという目標を達成する上で不可欠である。ICUはこれを実現するため学生に最低1分野を深く探求することを求める。専修分野の要求基準を満たすことで学生は知識の編成、研究方法、質問の方法、また議論の幅を拡げることを身につける。特定分野の専門的な知識よりも、ICUでの専修は幅広い教養を身につけ、精力的、独創的な発想ができる学生を育成することを目標とする。同時にICUは専修分野の要求基準を満たすことで学生が課題をこえて好奇心の赴くままに探究を続けることを期待する。このような学習が、将来の職業選択の道しるべともなり、生産的で創造的な人生へと導くことを期待している。すべての専修では15単位の履修が義務付けられている。各専修の履修要件と全コースについては「国際基督教大学教養学部要覧2005-2006」(資料5)を参照のこと。これに加えて、全学生は専修する分野に関する卒業論文を提出しなければならない。この最後の仕上げとして学生は一年間継続的に一人の教員の指導下で研究を行う。卒業論文の詳細については「卒業論文ガイドライン」(資料16)参照。

 

ICUのカリキュラムの幅広さと学習環境は、専門化や職業訓練に重きを置く日本の主だった大学の中で魅力ある選択肢となっている。ICU学生学習意識調査では93.3%の学生がICUでの学習が幅広く全般的な知識習得に役立ったと述べている。対照的に就職関連では32%がICUの教育が役立ったとしている。AALE基準の幅広く深い学習に関する結果としては、以下のものが上げられる。

 

●コンピューターや情報技術が向上した(63.4%が肯定)

●他者と協力する能力が向上した(88.3%が肯定)

●市民責任の意識が向上した(69.3%が肯定)

●実社会の問題について知る意欲が向上した(83.0%が肯定)

●実社会の問題を分析・理解する能力が向上した(80.3%が肯定)

●実社会の問題解決に参加する意欲が向上した(79.2%が肯定)

●異なる立場の人の理解が向上した(95.2%が肯定)

4節 参照

 

教員も、ICUの教育と学習に対するアプローチは、学生に価値ある知識を豊かに提供し、多分野にわたる広汎な知識を統合する能力を育むことに寄与していると考えている。専修分野ごとのリベラル学習に関する調査(Liberal Learning Assessment Survey)の結果(平均値、10点法で10が最もよく満たしている)は以下のごとくである。

 

1      専修分野のカリキュラムは異なる部分で得られた知識と学習・分析方法を統合するように組み立てられていますか。8.3

2      専修分野のコースとプログラムは異なる学習分野を比較しまたは共同でするプロジェクトを容易にするような組み立てになっていますか。7.8

3      専修分野のカリキュラムは学際的コース、プログラム、履修要件を持っていますか。7.6

4      異なる専修分野の教員間の具体的な協力関係により異なる分野間の協力がもたらす豊かさを体現していますか。7.2

5      異なる専修分野の知識を関連付け、比較し、統合することを学生に奨励していますか。8.3

 

理学科の教員の一人が一般教育科目の「コンピューターと人間」に触れ、「本コースは人工知能、データ収集、知識探求と情報処理の方法論を用いて人文科学とコンピューター科学の仲立ちをする。このコースの主要な目的は、情報科学の紹介をしながら機械の世界と開かれた社会を築き上げる過程で生じる倫理的問題に焦点をあてることである。」と述べている。教育学科のある教員は心理学で幅広い研究が必要であることを次のように述べている。「心理学のコースの一部は他の専修分野のコースとして掲載されている。心理学は心理学そのものだけでなく、哲学、神学、生物学、物理学、そして化学が関係している。最近のヒトゲノムの研究と新しい脳内画像化技術は他の分野からの専門家を巻き込み、心理学としての現象の探究を進めている。重要なのは『心理学の哲学』の感覚を奨励することであある。加えて心理学の理論と方法論を社会的な問題(環境問題、健康、疾病、平和と紛争、人間工学)に応用している。心理学専攻の学生はその専攻科目の複雑さから心理学と他分野、他職業との関連を認識することが重要である。」(資料13参照)

 

基準3:探究心

他のリベラル・アーツ・カレッジや大学同様ICUも学生が単なる単位取得や卒業要件を満たすだけの学習に終始しないことを期待している。さらに責任ある地球市民を育成する目的から学生が4年間で学んだことを実社会の問題解決に役立てることを期待している。ICUのリベラル・アーツ教育の目標は「明日の世界についての疑問を投げかけ、真実を追究し、現実的で歴史的な観点から人間社会の仕組と関連現象を把握し、教養ある市民として経済・社会・政治問題を解決する努力をすることである。」(資料1476頁より引用)

 

ICUのカリキュラムはリベラルな教育によって育まれるべき知的枠組と能力として国際主義とバイリンガリズムを強調する。平和研究への取組は卒業生の職業やその人生に大きな影響を及ぼしている。ICUの卒業生は国連、世界保健機構、NGOなどの国際機関での活躍がめざましい。国際ビジネスやジャーナリズムでも大きな役割を果たしている。また研究者の道を選ぶものも多く、米国のリベラル・アーツ・カレッジ同様博士課程まで進む学生が格段に多い。例えば2004年の卒業生637名のうち147人が大学院へ進学、107名がJICAなどの団体その他のサービス、68名が製造、45名が卸・小売、29名がマスコミ、45名が金融・保険業に就職した。(資料1724より引用)。「その他」とある116名の卒業生には資格試験や国内外の大学院入試に備え、もしくは出願中の者も多く含まれる。2006年版の「国際基督教大学入学案内」(資料18)には代表的な卒業生のプロフィールを加えリベラル・アーツが各人にどう影響したかの証言を添えている。学ぶことを好み、社会をよりよくするために学んだ知識とスキルを用いることを願う卒業生像が読み取れる。

 

上述したようにベネッセ教育総研が行った全国学生満足度調査とICU学生学習意識調査ではICU生が大学での経験にいかに満足しているかがわかる。学生学習意識調査では77%の生徒がICUの教育に満足し、将来の職業への準備をしてくれていると答え、80.6%の学生が責任ある地球市民になるための準備をする事ができたとしている。学習成果でいえば、学生はICUでの教育が以下の特定分野で役立ったとしている。

 

●明確かつ効果的に書く力が身についた 89.3%が肯定

●明確かつ効果的に話す力が身についた  80.3%が肯定

●自学自習する能力が向上した 85.7%が肯定

●自分自身をよりよく理解することが出来るようになった 86.2

●自分の倫理観や価値観を理解し成長させる助けになった 88

宗教に対する認識を深めたり、自分の精神的感性を成長させることが出来た 77.6

4節参照

 

リベラル学習に関する調査(Liberal learning assessment survey)の結果は、学生の大学における学習活動をモニターし評価する大学としての仕組みがないなど弱点を強化する必要も指摘しているものの、ICUでの教育と学習が探究心を育成していることを裏付けるものとなっている。統計様式で調査する問題点も把握した上で、研究意欲についての結果(10点法の平均値、10が完全に満足)は以下のごとくである。

 

1.     専修分野のカリキュラムは個人またはグループでの探求を奨励するものになっていますか 8.3

2.     専修分野のコースとプログラムは学生に積極的な研究者や知的探求活動への参加を奨励するものになっていますか 8.5

3.     知的研究を追究するのに充分な体制・カリキュラム上の支えが整っていますか。 7.4

4.     教員は学生の知的探究心を刺激するような教授法やスタイルをとっていますか。8.3

5.     教員は知的探究心を満足させるこの充実感と自身と社会へ貢献する人生として学生の模範となるような生活を送っていますか。8.2

 

教員は、オフィス・アワーの活用、アドバイジーとの面談、及びオープンハウス(ICU教員の3分の1は学内に住む)、チャペルでの大学礼拝など、クラス外での学生との日常的な交流が、学生の知的好奇心向上のためも重要であると述べている。教員の一人は端的に「私たちは常に知的好奇心と学問に対する情熱をもって教えています」といい、他の教員は卒業論文や他の個人もしくはグループでのプロジェクトの重要性を説いた。「個人もしくはグループでするプロジェクトは、学生が自ら知識や思考を探求することを奨励する。卒業論文はその中でも最も良い例である。学生は特定の課題をみつけ、文献をしらべ、研究すべき問題点を割り出し、これらの問題に対する研究方法を定め、研究計画を立て、データを収集し、それを分析し、結果を最初の疑問にてらして論ずる。さらにこの結果を、卒業研究の一部としてそれぞれの専修分野の公式な場で発表するのである。」(資料13参照)

 

ある教員はICUの学生の学習をモニターし評価する主要な手段として授業効果調査(TES)の重要性を強調した。授業効果調査では、基準1で述べたコースの内容と教授法に関する質問以外に、学生にそれぞれのコースでの学習方法について質問している。2004年度の結果はICUが学生の学習意欲について改善が必要な点を浮き彫りにしている。

 

一つのコースにつき授業以外で一週間にどのくらい勉強しますか。

6時間以上               3.1

46時間                 5.4

24時間                 19.3

1時間                    29.1

30分以下              39.1

 

●遅刻せずにこの授業に出たのは?

100-90%          57.3

8980%         19.8% 

7970%         9.7

6960%         5.1

59%以下         4.1

 

●学期末に期待する成績

A                            35.5

B                             41.5

C                            14.8

D                            3.0

E                             0.2

        (資料12および資料19参照)

 

最後に、明るい見通しを一つ。探究心を測る方法として学生が一年間に図書館から借りる本の冊数があげられるが、ICUの平均は際立っている。2004年の調査ではICUの学生が平均66.1冊借りていたのに対し、全国平均は8.1冊であった。この統計結果はICUキャンパスで行われている教育と学習の質を反映するものである。

 

基準4:使命

ICUはその使命としてキリスト教精神に基づいた自由にして敬虔なる学風を樹立し、個人の良心、国際的な教養と民主主義社会の市民感覚を育成する。ICU使命については教養学部要覧の冒頭で述べている。また使命はICU大学案内(資料8参照)にも掲載され、ICUの三つの使命—キリスト教への使命、国際性への使命及びリベラル・アーツ(学問)への使命—の概略を述べている。

 

使命は書き加えられてきたが、最初は19496月に大学設立を決議した御殿場会議で採択された。当初の使命は国際基督教大学要覧の第1号(1953-55)に掲載された。(資料20, 14-19) 使命は過去50年で数回にわたって書き直されたが定期的な見直し作業が行われてきたわけではない。1960年代の学生運動の時期、また1970年代1980年代の学生数増加、そして1990年代の経済状況の変化、日本における学生人口の減少、はすべて内省へとつながっている。1995年には新しい世紀の幕開けと創立50周年行事が近づくと、ICUの使命、カリキュラムと運営機構の大掛かりな見直しが行われた。その結果、新しい建物が建設され、新しい教育プログラムと方針が立案された。21世紀ICUフォーラムの報告書として新世紀に向けての総合的なビジョンを発表した。(資料7参照)この報告書は、教育と研究におけるリベラル・アーツの重要性とキリスト教の理想を再確認し、行動と責任の観点を追加した。「リベラル・アーツ教育の重要な目標の一つは、生きた社会の問題に積極的に関わりを持とうする責任感と実行力の涵養である。」(資料78頁より引用)その後、教育は授業での学習と平行して卒業後の社会への積極的な貢献に関ることであるとの観点から、1999年には新しいモットーとして「行動するリベラル・アーツ」を掲げた。さらに、21世紀のICUの課題と展望を述べた冊子「行動するリベラル・アーツ」を作成し、50周年記念プロジェクト事業の概観を述べている。

 

1)           国際学生寮であるグローバルハウスの建設

2)           21世紀の知識の中心となる新しいメディア・ライブラリーであるオスマー図書館の建設

3)           平和・人権研究プログラム新設

4)           サービスラーニング・プログラム新設:ICUの学生は国内外の様々なコミュニティーで実社会の課題に取り組む人や機関とふれあうことができるようになる。

 

ICUの使命が掲げる目標をどの程度実現できているかを大学自身が評価する試みはいまだにない。私たちはAALEに対し使命を批判的に検討する機会を与えてくれたことに感謝する。使命はいくつか多少異なったものがあり、本委員会は教授会そして理事会に正式の使命を決定し、定期的な見直し作業を行うことを勧める。委員の一人が使命宣言の改訂版を提案している(資料22)。新しい学生、教職員のオリエンテーションの一環として使命に親しむことも必要であると考える。最後に、AALEが与えてくれた課題として使命が設定する目標を本大学が実現できている証拠を提示できるようにしなければならない。

 

使命に要約されているICUの目標がどの程度達成されているかは、使命の実践度合いを把握すること自体が容易でないために評価するのが難しい。上述したように、学内外の調査では学生の在学中及び卒業後を通じて大学生活への高い満足度が出ている。ICU同窓会員、ニューヨークのICU財団や他の同窓生ネットワークからの証言でも明らかなようにICUはその使命である責任ある地球市民を育んでいるといえる。(際立った活躍をする同窓生については資料23ICU アラムナイ・オープン・レクチャー・シリーズとして公開されている。)

 

栗山容子教授をはじめとする教育学科教員は4年生卒業時調査(Senior Exit Survey)を実施した。20053月に卒業した526名の学生に配られ、194名の回答を得た。回収率はあまり高くなかったものの、貴重な情報と将来の調査を行う基礎が得られた。調査用紙(日本語)と結果の概要は資料24にある。調査は4部からなる。1)将来の経験、 2)大学での経験、 3)授業料、 4) 在学中の活動 である。将来の体験では35.6%の学生が大学院で研究を続け、52.6%が正社員として就職すると回答した。大学での経験では78.3%がICUでの学習体験に満足していたと回答し、89.9%が高校生にICUへの入学を勧めるとした。以下は教育機会に関する質的量的満足度である。

 

1)  専修分野を決める前の学術的なアドバイス  35.1%が満足

2)  専修分野における学術的なアドバイス            63.4%が満足

3)  授業時間外に教員と会える度合い                       79.9%が満足

4)  教員と共に調査に参加する機会                           56.7%が満足

5)  個別指導又は支援                                          75.7%が満足

6)  留学の機会                                       64.2%が満足

7)  希望のコースを履修できる度合い                       69.1%が満足

8)  クラスの規模                                   85.5%が満足

9)  英語学習プログラム                                88.6%が満足

10)    専攻分野のコース                                       66.7%が満足

11)    コンピューターサビースやサポート体制        67.0%が満足

12)    図書館設備や蔵書                                          81.4%が満足

13)    スポーツ施設                                                  70.6%が満足

14)    学生食堂サービス                                                29.4%が満足

15)    学内のセキュリティ                                            83.2%が満足

資料24満足度の分析が掲載されている。

 

他の質問ではICU4年間で学習目標をどの程度達成できたかを問うた。質問はまず特定のスキルの重要度(14のスケールで)を聞き、ICUで実際にその知識またはスキルがどう変化したか(14のスケールで、「弱くなった」から「非常に強くなった」)を聞いた。以下に177の有効回答の結果を平均値であげる。

 

学習目標

重要度

変化

1ライティング能力

2.95

3.22

2口頭によるコミュニケーション

2.79

3.55

3自ら新たなスキルや知識を修得する

2.92

3.33

4 弁論能力

2.65

3.10

5 批判的に思考する

3.03

3.19

6 分析的論理的に思考する

2.95

3.34

7 独自性や創造性

2.61

3.25

8 行動の選択肢を評価し決定する

2.68

3.14

9リーダーとしてのスキル

2.53

2.75

10異人種、異文化に関する知識

2.88

3.03

11異なる人種、国籍、宗教の人たちと協調する

2.77

2.96

12グループの一員としての役割を果たす

2.70

3.12

13数量的な手段を用いる

2.48

2.74

14コンピュータースキル

2.92

3.23

15時事問題の理解

2.66

2.78

16自国が直面する社会問題への理解

2.74

3.08

17地球規模の問題についての理解

2.66

2.94

18道徳的倫理的問題を認識する

2.65

2.94

19自分自身への理解

2.95

3.23

20指示がなくても自発的に作業する

2.78

3.27

21複雑なプロジェクトを計画・遂行する

2.53

2.85

22特定分野の深い知識の修得

2.75

3.03

23語学力(英語)

3.00

3.24

24語学力(英語以外の外国語)

2.47

2.59

25芸術を鑑賞する

2.72

2.68

26芸術や科学に関する幅広い知識を得る

2.66

2.79

27 社会問題への意識

2.84

3.04

28 自尊心や自信を高める

2.51

2.84

29 宗教的信念や確信                   

2.19

2.10

30科学的知識                         

2.41

2.54

31社会における科学技術の役割を評価する

2.46

2.61

32アイディアや情報を総合的に扱い統合する

2.70

3.02

資料24質問9への回答一覧表を掲載している。

 

4年生卒業時調査結果から明らかなように、学生はICUの使命に適う学習効果が現れていると評価している。学生がクリティカル・シンキング・スキル、英語能力、分析力、異文化間スキル習得を高く評価する一方で、科学的知識や社会における科学技術の役割と芸術と宗教信念をあまり評価していないのは注目すべきであろう。大学の使命におけるキリスト教精神の重要性を考えると宗教や精神性と親しむ機会を増やすべきであろう。同時に調査はICUの教養学部カリキュラムにおける自然科学と数量的評価能力の基本的な弱点を顕在化させている。

 

4年生卒業時調査(改定して毎年行う予定である)以外にも本委員会は評価のためのデータをどう収集するかについて話し合った。一つの方法としては、学生に1953年版の要覧と1995年改革案で目標とされた知識や能力と2005年現在重要と評価するものとを比較させることが考えられる。(1953年、1995年、2005年のICU出版物にみる学生側からみた「理想の学生像」については資料24参照。資料25ではAALE申請実行委員会の委員が基礎科目の異文化間コミュニケーション・コースで課題として出されたICU使命の改定の提案を紹介している。この中でICU紹介サイト(Orientation to ICU website)の立ち上げなどが提案されている。)これらの取組は1995年に21世紀ICUフォーラムが到達した結論と合致する。

 

優れた構想は、現実の分析からは生まれ難い。(中略)。21世紀において本学が果たすべき使命は、自由な発想を通じて全く新しい理想を追求し、それを現実社会の中で形成し担うことのできる若者を養成することにあると考える。(資料7, 2ぺージより引用)

 

基準5:思想と言論の自由

ICUの教育理念に思想と言論の自由は不可欠である。使命は「ICUはその名前から見ても明らかなように、キリスト教精神によって立つ学園である。その使命は宗教をも含めて、人間存在のあらゆる次元の問題を探求し、考究を深めゆく道を開くことである。」(資料5参照)ICUの公的な出版物には「国際基督教大学は、教育方針、入学選考、財政支援、雇用もしくはその他の大学プログラムまたは諸活動の運営にあたって、人種、肌の色または国籍等による差別をいたしません。」とある。更に人権委員会が人権相談員を任命し、セクハラや他の人権侵害を防ぐ手助けをしている。(資料26参照)しかしICUの人権擁護と思想・言論の自由への傾倒を表す主たる手段は、入学する全学生が1948年に国連で採択された世界人権宣言に立つ事を誓う学生宣誓に署名することである。(資料27参照)この習慣は1953年に一期生が入学したときから今日まで続いている。ICUは世界人権宣言の理念が、この事に関する基本的な考え方をなすとしている。同様に教員も就任式における教員就任宣誓(資料27)で世界人権宣言を重んじることを誓う。

 

ICUには長い学問の自由の伝統がある。不幸にして問題も存在するが、そのうちのいくつかは原因が学外にある場合もある。セクハラ事件に関しては厳罰を持って処すが、大学は先輩によるいじめを含む個人の独立性の侵害を監視しなければならない。個人的な問題が起きたとき、学生はそのアカデミック・アドバイザーおよび大学カウンセリング・センターに相談することができる(資料28参照)が、心のふれあいを可能にする場と機会を増やすべきである。

 

他のリベラル・アーツ・カレッジ同様ICUも人間性を育むことをその教育使命の一部としている。自由な討論と批判ができる知的で開放的な空間を用意し、また社交の場 (学生寮、クラブ、コモンスペースおよび教室) が大学の3つの使命とあいまって相互の交流の場を提供している。

 

真実と自由に傾倒する教育機関として本大学の運営が民主的で透明性があり、包括的で参加型であることを理想とする。特に世界的なリーダーを育成しようとする機関としての弱点は包括的な学生組織の欠如である。学生がICUでの学生生活や学習環境について討論する共通の場がないのである。

 

最後に基準5.2は特定の宗教上の理念もしくは信条によって言論の自由に制限を加える場合は、明確に述べて広く一般に公表しなければならないとする。特に学生、教職員に対する募集要項や広報手段ではっきりと述べる必要があるとする。ICUではすべての専任教員はキリスト教信者でなければならないが、例外は多数認められている。(ICUのキリスト教理念検討委員会最終報告書参照、資料29)この要件は教員募集広告に明示されていない場合があり、大学は改善すべきである。

 

基準6:入学要件

ICUは競争力のある大学である。日本の教育を経て入学する日本人の学生と国際社会から様々な学生が海外から入学できるように、本大学では入学選抜手続きを4月と9月の入学にあわせて行っている。入学志願者のためにその手続きと入学要件は大学出版物に明記されている。これらの印刷物は4月入学志願者のための日本語のものと9月入学志願者のために英語のものがある。(資料30参照)

 

4月入学の志願者は4種類の方法の一つもしくは複数の選考に出願することができる。一般入試、指定されたキリスト教高等学校出身者の推薦入試、国際基督教大学高校出身者の推薦入試、さらに、内申書、推薦書及び個人的な体験に基づく小論文による書類選考と面接による入試(AO型)がある。2006年度の入学志願者からは、大学入試センター試験結果による選考も行われる。9月入学の志願者は、米国のリベラル・アーツ・カレッジでとられているような書類選考で入学を志願することができる。

 

入学志願者は大学の教養学部長下にある入学選考委員会(ADC)で選考される。本委員会は教養学部の6学科それぞれから選出された2名づつの委員で構成される。

 

推薦入試及び社会人特別入試では、受験者は複数の教員による面接を受ける。受験者が書いた小論文と推薦書は他の教員によって審査され、すべての結果を総合的に入学選考委員会で検討する。

 

4月と9月の入学志願者に対する書類選考による選抜で提出を求めるものは、願書、学習・将来設計の小論文、出身高校もしくは直前に在学した教育機関からの成績証明書、卒業見込証明書(もしくは卒業証書)、標準テストの成績(海外からの9月入学志願者)である。受験が必要な標準テストは高等学校教育を受ける国によって異なる。詳細は9月生の募集要項1113頁参照。(資料30参照)9月入学を希望するものは英語能力を証明する書類を提出しなければならない。また、書類選考で志願するものは3通の推薦書が必要となる。各学科の代表者がすべての願書に目を通す。検討した教員のコメントと推薦理由は最終選考のために入学選考委員会に送られる。

 

教養学部要覧と履修の手引きは履修に関する諸規則の詳細とともに、成績不良による除籍勧告、退学、停学、再入学に関して(資料531参照)述べている。

 

個人情報保護法に基づきICUは学生の成績の扱いと保管について明確で詳細な規定がある。(資料32参照)不服申し立て、嘆願、請願は教養学部長宛に提出する。

 

ICUのリベラル・アーツ環境に適した学生を募集するため、大学は入学試験小委員会(Subcommittee on Admissions, SCA)を設置している。この委員会は定期的に大学の入試手続きを見直し、改善事項を検討する。この委員会の検討と決定によって大学は書類選考による入試(AO型)の4月生への導入を2005年度入学志願者から、センター試験を利用した入試を2006年度から実施することで優秀な志願者をさらにひきつけることとした。

 

ICUの入学試験問題は毎年試験の専門家が分析し、報告書に分析項目と意見が付されて翌年の問題作成者に渡される。試験問題作成責任者にはテスト作成マニュアルが渡される。さらにICUは定期的な調査で様々な国の教育制度を研究し、それらの国の学力評価方法を理解した上で海外からの入学志願者がICUの入学要件に見合う学力を備えているかを判定している。

 

ICU入学事務グループ、広報センター、国際教育交流グループの職員、国際渉外部長は熱心に学生募集にかかわる。これらの職員は定期的に会合を開き、将来学生になる可能性のある生徒とその教師と進路指導担当者(または進路担当カウンセラー)に対してプレゼンを行う場合、ICUでのアカデミックな機会や要件が正確に伝わるよう配慮する。

 

ICUの広報出版物(資料1833参照)は明確かつ正確に入学要件と入学後の履修要件について述べている。入学、保持率及び卒業に関するデータは学期ごとに教員間で共有する。学外の者も請求により閲覧可能である。大学院入学と就職に関する情報は教員間で詳細が共有され、日英両語でかかれた国際基督教大学大学案内・データ編に掲載されている。(資料17参照) ICU就職相談グループは上級生に求人情報とその傾向の詳細を提供している。

 

基準7:一般教育要件

ICUでの一般教育は3つの構成要素からなる。14月生向けの英語教育プログラム(ELP)と9月生向けの日本語学習プログラム(JLP)、2)保健体育科目、3)一般教育科目(上述)

 

それぞれの履修要件は以下のようになっている。

 

ELP 22単位(9月生のJLP履修要件は45単位)

保健体育4単位(9月生は2単位)

一般教育科目 27単位 (9月生は15単位)

4月生合計53単位 (卒業履修要件136単位中で38%)

9月生合計62単位(卒業履修要件140単位中で44%)

 

注:学生の入学時の語学力で卒業要件は変更される。9月生はある程度の日本語力を習得している場合が多いので、学力テストの結果によってはJLPの大部分を免除される。

 

英語教育プログラム(ELP

4月に入学する全学生は、英語の能力に応じて英語学習プログラムを2022単位履修することが求められる。英語の高い能力を持つ者のみELPの一部分を免除される。これらの規定と大学の方針は学生に配布される教養学部要覧(資料5)とELP学生ハンドブック(資料10参照)に詳細が記されている。成績の評価方法もELP教員ハンドブックに掲載されている。

 

日本語教育プログラム(JLP

9月入学生で日本語の知識がない学生は45単位分JLPを履修しなければならない。日本語が母国語であるが読み書きの能力に欠ける者は「日本語特別教育(Special Japanese)」(最高19単位)をとることで日本語履修要件を満たさなければならない。日本語の能力が高い場合はJLPの履修要件の一部が免除される。これらの規定と大学の方針は国際基督教大学日本語学習プログラム(資料34参照)と日本語教育プログラムのホームページ(http://subsite.icu.ac.jp/jlp/index.eng.html)を参照。

 

保健体育

全学生は体育実技を2単位、保健体育の講義を2単位とることが義務付けられる。9月生は保健体育の講義は免除される。この規定と方針は教養学部要覧に詳しい。(資料5参照)

 

一般教育科目

全学生は27単位の一般教育科目を履修しなければならない。9月生で日本語教育プログラムを履修しているものについては最低履修要件が15単位である。語学教育プログラムの一部が免除になる学生については一般教育科目の履修要件が異なる。これらの規定と大学の方針は教養学部要覧(資料5)に詳細が記されている。

 

一般教育科目の単位の編入に関する規定は教養学部要覧(資料5)にある。主要な点を以下に述べる。

 

ELP

他の日本の機関からの単位編入は認めない。英語能力が高いことを証明した者のみELPの一部または全部が免除される。

 

JLP

日本語の知識がある9月生は学力テストを受けコースを決めなければならない。初級(集中日本語1もしくは日本語1)以外のコースに決まった場合は免除されるコースがある。

 

保健体育

単位の編入は保健体育で4単位認められる。

 

一般教育科目

単位の編入は18単位まで認められる。

海外の大学もしくは科目等履修生として他の大学で得た単位の編入は30単位をこえることができない。

 

基準8:基礎的な知識要件

上記のようなICUの一般教育プログラムは学生が4つの分野—人文科学、社会科学、自然科学、総合科目—からコースを履修することを求める。全学生が履修しなければならないのは「キリスト教概論」である。学生はカリキュラムから満遍なくコースをとることが要求される:人文科学、社会科学と自然科学である。バイリンガルな大学としては全学生が日本語と英語に堪能になることを要求する。多くの学生が第2外国語として韓国語、中国語、フランス語、ドイツ語、スペイン語、ロシア語を習得する。自然科学の科目をリベラル・アーツ・カリキュラムの一部として位置づけていると言う点は、ICUは日本の教育界においては、特筆に値する。

 

一般教育プログラムの多様性についてはすでに述べた。一般教育科目には西洋と東洋の古典、情報技術、音楽と社会、平和研究、科学技術と社会、文化、ジェンダー、数学の世界、科学哲学など多様なものがある。

 

一般教育プログラム以外でも、英語教育プログラム及び日本語教育プログラムを履修する学生は様々な分野の教材に接する機会が与えられる。語学教育プログラムは単純な語学教育の範疇を超えている。例えば2005年度の2年次英語教育プログラムには以下のコースがあった:若者の文化:1950年代アメリカの恐怖と憎悪、よりよい世界を夢見て:歴史に見るユートピアン・シンカーズ、何がおかしいの?:ユーモアとその社会での役割、定量的研究方法入門、私は誰:現代及びポストモダンにおけるアイデンティティの概念、探偵小説:新しいアメリカのヒーロー、映画研究:入門編、今日のビジネス問題、ハリウッドのアイドル女優などである。http://subsite.icu.ac.jp/elp/ELP_SE_List.html

 

上述したようにICUでは最低一つの専修分野を決め15単位履修することを求めている。加えて学生は各学科の基礎科目を18単位分履修しなければならない。歴史を専攻する学生は歴史のコースを最低3単位とり、各3単位の基礎科目を経済、政治学、社会学、人類学から5コースとることになる。また学生は一般教育科目の履修要件を満たすために人文科学、社会科学、自然科学から幅広くコースをとる。最後に学生は必ずしも専攻と関係しない選択科目を26単位分履修する。このように学生は一生価値あるものとなる幅広い教育を保障される。

 

最後に学生は、大学の海外英語研修(SEA)プログラム、カルフォルニア大学バークリーとロスアンジェルス校のサマー・スクール、3年次に50の提携大学に留学することが出来る交換留学制度を含む海外留学プログラムに参加することを奨励される。例えば2005年度には300人以上の学生がこれらの海外研修プログラムに参加した。ICUの海外留学プログラムの詳細は資料835参照。

 

ICUの教養学部要覧とその他の冊子にはICUにおけるこれらの幅広く多様な知的探求の営みについて詳細かつ明確に記述されている。カリキュラム関連した提案は6学科の科長を中心とした会合で忌憚なく議論された後、最終的には教授会の了承を得て決定される。

 

基準9:評価

評価はICUの弱点である。一般教育を含むすべてのコースは厳格な評価プロセスの対象となる。各学期に教養学部長が教員に成績結果を報告し、評価が甘くなる傾向を避けるよう警告する。

 

試験制度、成績評価制度、GPAの算定は教養学部要覧とFDハンドブックに掲載されている。(資料514参照)ICUは米国の大学で一般的に使われている平均点数制(GPA)をとっている。3.75以上の評価を受けた学生は教養学部長のリストに掲載され成績優秀者として推挙される。3学期続けてもしくは4学期にわたって1.0未満の評価を受けた学生は除籍となる。FD事務室は教員に評価の推奨方法を提示する。(資料1436参照)

 

学生の一般教育科目での成績は試験、レポートと他の課題で評価される。課題は、多くの場合成績とコメントが付されて返却される。教員はシラバスに成績評価の基準を明確にすることが求められる。すべてのシラバスは学内ネットに掲載され、閲覧可能である。

 

各科や学部プログラムの評価は全体としてまだ改善の余地がある。上述したようにICU1994年から教育と学習を改善する目的で授業効果調査(TES)を実施している。授業効果調査結果は学内ネットに掲載されまた各コースの改善に貢献している。FD事務室は授業効果調査結果の重要性に関していくつかの報告書を出している。(資料37参照)

 

学生の学業成績の質的量的評価をする必要性の認識から、AALE申請実行委員会は今年全米学生学習意識調査(NSSE)に基づいて独自に開発したICU学生学習意識調査を策定した。4月に第一回の調査が3年生を対象に実施され、第1節から第3節で取り上げられており、また閲覧可能である。(第4節参照)4年生卒業時調査が策定され、3月に卒業する学生を対象に実施された。調査結果は閲覧可能である。(資料24参照)この調査は毎年行う予定で、その結果を用いて本大学が学生にもたらす教育体験を改善していく予定である。授業内で行われるライティングの質的量的評価を行うため、すべての教員に20056月にICU授業におけるライティング(Writing in the ICU Curriculum)調査への回答を求めた。この調査の結果は基準11で述べる。最後に学生の記述能力の評価が、卒業論文のサンプルを検討することをはじめとして予定されている。全学生は卒業要件として卒業研究を企画し、その課題を研究し、論文にまとめる。すべてのカリキュラムでの卒業論文の評価を行うため、卒業論文ガイドラインと成績評価ガイドライン(model grading rubric) が策定されている。(資料38参照)教員2名がライティング・ポートフォリオ・プロジェクト(writing portfolio project)を見学・参加するためにワシントン州立大学に派遣された。2006年度では本学独自のライティング・ポートフォリオ・プロジェクト(writing portfolio project)を策定する予定である。

 

最後にICU90%以上の高い保持率を誇り、また学生の満足度も統計上も各調査結果でも高い。(1990から2000に入学した学生の保持率についてのデータについては資料39参照。)

 

基準10:階層型カリキュラム(Orderly Progression of Courses

ICUの学部教育カリキュラムは伝統的に一般教育の00番台コース、基礎科目の100番台コース、中級の多くは講義中心の200番台コース、上級の多くはセミナー形式のコースに分かれる。3年次以上の学生は担当教員の許可があれば大学院の400番台のコースを履修できる。カリキュラムの構造は教養学部要覧(資料5)で説明されている。

 

ICUのカリキュラムは学部共通科目(語学教育科目:英語教育プログラム(ELP)と日本語教育プログラム(JLP)、一般教育科目、保健体育科目、スペシャル・トピック:地域研究、基礎購読、特別講義と教職共通科目)と各学科(人文科学、社会科学、理学、語学、教育学、国際関係学)のコースがある。全学生はすべての学科のコースが履修できるが、6学科の一つに所属し、各学科と各専修分野の要件に従って履修しなければならない。学生は専攻学科の変更を申請することができる。

 

教授言語は各コースについて明示されている。約70%が日本語で約30%が英語である。(日英両語で指導する場合もあるので単純な算定は難しい。)すべての4月生は英語で指導される最低3コース9単位分を履修しなければならない。9月生は日本語で指導される最低3コース9単位分を履修しなければならない。語学履修要件は教養学部要覧(資料5)に掲載されている。

 

基本的には各コースの単位数は週何回その授業が行われているかをあらわす。ICU10週間の授業期間を含む、それぞれ11週からなる3学期(春、秋、冬)制である。授業時間は70分である。演習と実験は140から280分である。各学生は授業時間1時間に対し、2時間の準備・復習時間をとることが期待される。3単位のコースは週3回の70分授業が10週間あり、2単位のコースは週2回の70分授業が10週間ある。指導言語と授業の時間割については「教養学部要覧」(資料5)と「履修の手引き」(資料31)参照。

 

「教養学部要覧」は専修分野毎の履修要件を記す。各学科は専修分野の要件とモデル・カリキュラムを見直す義務がある。学生は所属する学科で最低30単位分の専攻科目を履修しなければならない。この30単位中15単位は一専修分野で履修する必要がある。多くの場合、専修分野の要件を満たすのに他の学科のCo-listされたコースから選ぶこともできる。15単位分のコース履修に加えて各専修分野は学生に特定のコースの履修をコース強く勧めたり、一定の順序でコースを履修することを勧めている。

 

自己点検報告書に関連してすべてのカリキュラム委員は、可能な専修分野履修要件(concentration requirement)の見直しのために内容と学習目標を見直すことを指示されている。「教養学部要覧」には各専修分野の履修要件は掲載されているが、専修分野自体の解説とその専修分野における学習目標はかかげていない。このような専修分野に関する基本的な情報は将来的には要覧に掲載し、常に(例えば大学のホームページで)閲覧可能にされるべきである。

 

専修分野によっては専用ホームページでその専修分野の教育内容、学習目標、履修要件、教員及び学習方法について掲載しているところもある。例えば歴史学専修分野についてはhttp://subsite.icu.ac.jp/ss/history/index.html 参照。ICUは現在、すべての情報が正確にかつ分かりやすく表現されているか、学内および学外向けホームページの情報を見直している最中である。

 

基準11:学生の記述力

基準11は「学生が学部の各学習段階で英語の能力を証明するような小論文を書いているか」を問う。バイリンガルな大学としてICUの教員はそれぞれのコースの教授言語によって日本語か英語で課題を提出することを要求する。学部では多くの学生が日英両語で課題を提出する事実も重要である。これらを念頭にここでは学生がどの程度の記述力を習得すればよいかという問題を掘り下げる。

 

ICUの学部教育は記述能力の育成を3段階で行う。まず一年次で4月生は英語、9月生は日本語の学力試験を受ける。その結果、読解力の主だったスキル、アカデミック・リスニング、ノートのとり方、アカデミック・ライティング・スキルを身につけるためにどのレベルのコースを受講するか決める。ICUの学生の大半が4月に入学し、英語教育プログラム(ELP)のコースを履修する。日本以外の教育システムで高校生活を送った9月入学生は、日本語の能力を日本語教育プログラム(JLP)で証明する必要がある。いわゆる帰国子女(国籍は日本人であるが外国で教育を受けた者)は、特に漢字能力と日本語でのライティングに重きを置く「日本語特別教育」を履修する。これらのプログラムの終了要件として、学生はプロジェクト研究に基づいた小論文をそれぞれ学習すべき言語で書かなければならない。この傾向は記述力とクリティカル・シンキング・スキルを養うコースを中心に構成されるELPカリキュラムで顕著で、2年次の論文作成法のコースで1015枚の論述型の小論文を書いて仕上げることになる。ELPJLP双方とも標準化されたカリキュラムがあり、同様の履修要件を課す。

 

ICUの記述力強化の第二段階は教養学部で開講されている様々な授業における記述課題(レポート)である。学内での記述課題の傾向を調査するため「授業におけるラインティング調査(Writing in the ICU Curriculum Survey)」(資料40)を策定し専任教員に配布し、記述課題の内容、長さ、及び頻度を報告するよう求めた。調査の回収率は217コースについて59名と残念ながら低く、また数名の教員が誤った回答をした。しかし、結果からICU教員が様々な記述課題を学生に課していることが判明した。よく出される課題としてはある特定の問題に関する意見を問うもの、感想文、 短い論述型の小論文、 長い研究論文、または日記形式、読書感想文、グループ報告書、実験レポート、授業後に配るコメントシートやネット上で送れるものもあった。理学科の教員は本調査が人文科学科及び社会科学科に重点をおきすぎ、理学専攻の学生に求められる特有の記述力を考慮していないとした。

 

ICUカリキュラムでの記述力育成の最終段階としては卒業要件の卒業論文があげられる。卒業論文は仕上げのコースとして学生が特定の課題を探し、独自で研究し、研究で収集したデータを分析し、平均して50ページに上る論文にまとめる。この論文は英語か日本語で執筆する。「卒業論文ガイドライン」(資料16)参照。学生は卒業論文指導教員と一年かけて一つの課題に取り組む。この間アドバイザーは課題を決める段階から、草稿が卒業要件に満たす水準になり提出されるまで指導を続ける。クリティカル・ライティング・スキルが要求され、この力がどのように発揮されたかが成績評価の重要な基準となる。「卒業論文成績評価ガイドライン」(資料38)参照。

 

ICUの記述力養成プログラムには多数の長所がある。最大の長所は学部のカリキュラムがELP/JLPで始まり卒業論文で終わるようになっていることである。これらのコースを履修することで、学生は記述力を高めることを奨励される。ICUの記述力養成プログラムのもう一つの長所はその多様性と時代の要求に即していることである。調査結果にみられるのは学部教員がそれぞれの専門に応じた記述能力に敏感で、ネット上に掲載されている資料やIT時代が要求する記述スタイルにもふれ、教育目標を達成するために新しいアプローチを採用していることである。加えてほとんどの教員がレポートに成績とコメントを書いて返却している。全般的に学部全体としてリベラル・アーツ教育における記述力の重要性を認識している。理学科では、正確な実験レポートや数学の証明を学生に書かせることによる訓練を重視している。更に、ICUはアカデミック・インテグリティー協会(Center for Academic Integrity)の会員として学問的倫理基準(アカデミック・インテグリティー)に関して明白な方針(資料53参照)があることは特筆に価する。すべての教員は学問的倫理基準に関する大学の方針をそのシラバス作成の参考にすることが奨励される。

 

ICUの記述力養成プログラムにはいくつかの弱点もある。一つは文化的な問題として日本で教育を受けた教員が論述型の小論文を一定の形式で書く経験が少なく、課題として学生に課すことがより少ないことである。第二は、調査結果にもあるようにICUでは教養学部教育でELP/JLPと卒業論文が強調されているが、他のコースでの記述力養成への配慮にばらつきがある点である。担当する全コースで記述課題を出す教員もいれば、数回しか出さないか全く出さない教員もある。課題の長さにも差がある。もう一つの問題としては課題ごとの平均要求ページ数である。人文科学科と国際関係学科を比べるとコースレベルに顕著な差があった(資料40参照)。一例をあげれば、限られたデータではあるが、国際関係学科での300番台コースでは平均13ページの課題が出ているのに対して人文科学科では5.3ページであった。更に、これらの記述課題では実質的に小論文といえない感想文が多く、論述型の小論文が少いという点である。最後に、記述課題のカリキュラム全体における役割の認識が、各専修分野、学科、そして教養学部全体で定まっておらず、またどのような記述課題が本質的に重要であるか(the definition of a “substantial essay”)が未定義で、それらをどのように定めていくかのシステムも無いことである。従って、学生が書いた物をある共通の評価基準によってはかり学生の学習レベルを組織的に評価することもできない。

 

解決方法は簡単である。すべてのコースの記述課題を検討することから始めればよい。「授業におけるラインティング調査(Writing in the ICU Curriculum Survey)」にわかりやすい説明をつけて再度実施し、フォローアップも行う。各専修分野と学科は他の学科でどのように行われているか情報を共有し、共通の基準を設定していく。「卒業論文成績評価ガイドライン」と同様に大学内で共通に利用できる「クリティカル・ライティング指導ガイドライン(critical writing rubric)」を策定することも可能であろう。その場合は全カリキュラムレベルで、どのような小論文を主要な小論文(substantial essay)として学生に求めるか、どのような質のものを求めるかについて共通の認識を作ることが必要である。更にライティング・ポートフォリオ・プロジェクト(writing portfolio project)を卒業論文の代表的な例を調べることから実施する予定である。過去にも(日本語と英語両方の記述課題に関する)ライティング・センター設立の必要性を求める声があったが、調査結果はこの重要性を裏付けるものとなっている。

 

基準12:積極的な学習(Active learning)とFD

他のリベラル・アーツ・カレッジ同様ICUにおいて教員の主たる役割は教育である。研究はもちろん奨励されるが、よい研究がよい教育につながるという前提のもとでのことである。ICUには小規模な大学院があり、教員の多くは通常の18単位の指導割当のうち3単位分を大学院で教える。しかし教員の最も重要な責任は学部教育にある。

 

教員は(20055月現在)151名の専任教員(教授65名、準教授23名、助教授19名、専任講師41名、客員教授8名、大学院教授(学部授業科目を兼担)3名)である。「国際基督教大学教養学部要覧20052006」の184190頁に専任教員とその学歴が掲載されている。大学は、教授法、成績評価法、及び全学にわたる教育方針を書いた「ハンドブック(非常勤教員用)」(Handbook for Part-time Instructors)を配布している。(資料41参照)大学院の学生と助手は単独でコースを教えることはできない。

 

教授会便覧(Faculty Manual)(資料11)によれば、専任教員の要件は

 

 1. ICUの設立目的とプログラムに対する積極的な関心と確信

 2. 学術的訓練と実績

 3. キリスト者としての品性と精神

            a. キリスト教信仰に根ざし個人および家族との生活を送っていること

            b. キリスト教信仰が社会的市民的生活態度に表れていること

    c. リベラルな人生哲学をもち、寛大で、人間的価値はキリスト教的アプローチで評価する

 4. 教育者としての適性

            a. 教員として質が高く、学生一人ひとりの人格と信念の発達に配慮し、学生のクリティカル・シンキング能力を育てる能力をもつ

            b. 学生の知識とスキルを習得する手助けをする能力

            c. 教育法改善への関心

            d. 学生を個人として手助けすることへの関心

  5. 研究能力

            a. 研究と学生の研究の指導を行う能力

            b. 複雑で重要な問題の解決に学際的に協働して行う研究への関心

  6. 精神面

            a. 健全で独創的な発想ができること

            b. 思考と興味に関する成熟した柔軟性

            c. 知識の相互関連に関する関心と能力

            d. 集団的な思考(group thinking)と共生(corporate living)への関心

            e. 日本とその国民の国内および国際的な必要性に敏感であること

            f. 新たな時代に見合った教育プログラムを作る先駆的な営みへ積極的に参加する意思

            g. 民族の序列なく国際社会に参加し、洋の東西を問わず文化の粋を保存する意思

            h. 人種的偏見からの解放

            i. 英語、日本語もしくは両国語に堪能であること

  7. 社会的市民的能力

            a. 同僚、学生、地域社会構成員と健全な関係を築けること

            b. 地域の精神的、文化的、経済的生活に啓蒙的で建設的な責任ある市民として参加するための幅広い興味と理解

 

ICUではリベラル・アーツ教員の重要性に鑑み教員の新規採用には細心の注意を払う。採用の必要が出た場合、学務副学長が委員長を務め、教養学部長と6学科長からなる特別委員会が全学的な見地から採用要件を検討する。任用枠の決定は教授会に報告され、当該学科長は教員候補者選考のための教員候補者審査委員会(Candidacy Committee)の委員長となる。原則として公開及び世界的な規模での公募となる。全世界から候補者を募り最適任者を選ぶ。

 

教員候補者審査委員会は採用対象学科から3名と他の学科から2名の5名からなる。この2名は大学の理念であるリベラル・アーツ教育にいかに貢献でき、また専門分野の教育と研究を担う候補者を検討する役割がある。

 

候補者のリスト作成後、各候補は大学に招聘され学生向けに講義をして教授能力を試される。講義だけでなく学生の質問への対応も委員会審査の対象となる。最終選考に残った候補者は次の課題を提出することが求められる。

 

1.          リベラル・アーツ教育について

2.          研究と教育の適正な関係について

3.          クリスチャンとしてICUにどのように貢献できるとお考えですか

 

ICUは授業効果を調査することには先駆的な役割を担ってきた。上述したように(基準2)、FD事務室が1995年に設立された。その主要な活動は授業効果調査である。

 

授業効果調査(Teaching Effectiveness Survey, TESと略)は各学期の終わりに実施され、各授業を3方向から調査するものである。コース自体の評価、担当教員の教育方法評価、及び学生の学習を評価である。TESの質問項目には選択肢形式の部分と自由記述の部分がある。選択肢形式のものは例えば授業外で何時間勉強したか学生に問い、回答記入方式の質問は「このコースからあながた触発されたことは何ですか」「この授業の改善点は何ですか」などである。

 

統計結果と学生のコメントは学内ネットで学生と教員に公開されている。教員のコメントも付すことができる。授業効果調査結果は教員のコースの構成・教授法に関する意識向上につながっているが、結果を最大限に利用する全学的な取り組みは十分ではない。また当該コースがカリキュラムにおいて妥当かどうか、リベラル教育の目標を達成するのに妥当かは検討されていない。この分野で改善必要があるものについては後で述べる。

 

FD事務室はシンポジウム、セミナー、公開講義を開催したり、昼食持参で集まり授業方法を分かち合ったりもしている。(過去3年間に開かれた催しについては資料42参照)FD事務室は年3回ニュースレターを発行している。(過去3年間のFDニュースレターについては資料43参照。)FD事務室は「FDハンドブック: ICUにおける教育指導・研究の実用ガイド」(資料14)を発行し、また様々な教授法や高等教育についての文献を集めた図書コーナーも管理している。FDのホームページも教授法を改善するための有用な情報と関連リンクを提供している。(http://w3.icu.ac.jp/fd/

 

上述したように新規採用、任命、専任教員の昇進は、学期中月に一回開かれる、教授、準教授、助教授が参加する教授会で検討決定される。この場合、教育と学者としての質(excellence in teaching and scholarship)が尊重される。教授会便覧(Faculty Manual)は教員の昇進用件を次のように述べる。「昇進の要件としては、下記に挙げるいくつかの分野における新たな業績と、質の高い教育が双方が必要である:専門分野の出版物、学位、専門分野の学会における評価、大学への貢献、地域への貢献」(資料11参照)昇進の詳細は教授会便覧(Faculty Manual)にある。

 

更に昇進のプロセスとして各候補は履歴書の改訂と共に、教育活動、研究活動、大学運営への貢献及び市民活動に関する自己記述を求められる。

 

非常勤の教員については履歴が各学科と学科長会議で検討される。その手続きは常任教員に比べて簡単なものとなる。非常勤教員の授業効果調査結果は検討されるが、契約更新の資料として参考にすることはあまりない。

 

常勤と非常勤の教員は地位と履歴を含めて教養学部要覧(資料5)やその他の出版物に掲載される。加えて大学は「研究教育要覧」を隔年で出版している(資料44)。この報告書は全専任教員に関する教育活動に関するものも含め研究活動と出版物が掲載される。非常勤教員に関してはその限りではない。

 

基準13:適正なクラス規模

ICUは広大なキャンパス(東京ドーム13個分)だけでなく、少人数のクラス編成と学生と教員との緊密な関係を誇りとしている。大学はコース内容に適正なクラスの規模を維持するよう心がける。大人数のクラスが不可避の場合でも活発な学習が行われるよう配慮している。(資料45参照)

 

大学はいくつかの教育課程(プログラム)では定員を設けている。一般教育科目は150名に設定している。英語教育プログラム(ELP)は一年次で定員25名、JLP15名である。体育科目と実験、もしくは演習のあるコースには定員が設けられているものもある。一般教育科目において、150名以上の履修希望者があった場合、抽選により再配分を行う。(抽選制度については資料31参照)100名を越える履修希望がある一般教育科目に関しては一般教育委員会がこの問題の対処法を検討中である。

 

過去5年の履修と一般教育科目の平均規模である。

 

年度       コース数   平均受講者数

2004        73     104.1

2003        65     110.5

2002        66     108.4

2001        63     102.8

2000        63     102.7

 

資料46参照

 

英語教育プログラム(ELP)、日本語教育プログラム(JLP)、保健体育科目(PE)の実技を除く2004年度のクラス規模は、40%が20人以下、66%が40以下、87%が80以下である。(資料12、結果概要)資料47では教養学部の2004年度全1474コース(保健体育コース科目を含む)について受講者数を掲載している。

 

100名以上の受講者があるコースは授業効果調査の結果概要に明示されているが、この情報はクラス規模と科目登録に関する検討に活かされていない。基礎科目の受講者が200人以上になる場合は暗黙の了解として同じコースが年に何回か開講される。同様に受講者数を管理可能な水準に抑える努力がみられるが系統的な仕組みはない。

 

基準14:専任教員による指導とカウンセリング

上述したようにICUでのコースは常勤もしくは非常勤(その殆どは他の大学で常勤教員)のICU教員によって担当される。米国でみられるような助手が単独で担当するコースはない。ICU の教員は最低一つの一般教育科目か学部共通科目を教えることを強く求められており、2001年度以降は、採用時の要件とした。ICUの一般教育科目は原則として専任のICU教員が担当する。2004年度では例えば一般教育73コース中1コース(ジェンダーの問題と聖書)のみ非常勤の教員が担当した。教員はその専門で基礎科目を毎年1コース担当するよう強く推奨されている。教養学部長を含む役職者(行政職員)も定期的に一般教育科目を担当する。更に毎年一般教育科目の開講を増やすよう各専修分野に要望している。

 

ICUのリベラル・アーツ教育において学生に対する助言・指導(advising)は中心に位置するものである。ICUはその学生のクリティカル・シンキング・スキルを伸ばすため、一方で様々な分野へ挑戦してほしいと望み、また最低でも一つの分野で専門性を育んでいくことを望む。アドバイザーは、学生が過度に専門性にはしらず、かつ興味の分野が発散しないように、それぞれの学生の学習目的にみあった一貫性のあるアカデミック・プログラムを計画できるように指導する。さらに精神的なストレスの兆候をキャッチし必要ならカウンセリング・センターへ紹介する。「FDハンドブック」(資料48)には教員のアカデミック・アドバイザーとしての心得が掲載されている。

 

すべての新入生には履修計画を手助けするアカデミック・アドバイザー(以後アドバイザーと略)が割り当てられる。アドバイザーは個人的な問題の相談にも応じ、問題が深刻な場合はカウンセラーを紹介する。学生はどの教職員にも必要に応じて相談できる環境にある。履修登録日には学生は前の学期の成績表とアドバイザーからの履修登録承認をもらう。2004年度には各教員は平均して34名の学生のアドバイザーをつとめた。すべての教員は毎週最低でも2時間のオフィス・アワーを設ける。これらの定められた機会以外にも教員は授業の中でも外でも、自宅への招待を含めて学生と交流することを促される。

 

大学カウンセラーは定期的な会合を開き学生部長、学生サービス部長、大学牧師、英語教育課程及び日本語教育課程主任、国際渉外部長やその他定期的に学生と関る部署と協力して学生の精神的身体的な問題に対する手助けをする。大学カウンセラーは毎年報告書を作成し、教員に配布し、ストレスを抱えた学生といかに関るかのアドバイスをする。FDハンドブック(資料14参照)は学生カウンセリング・センターに関する基礎的な情報を掲載している。FDニュースレターにある大学カウンセリング・センター長、苫米地憲昭教授による「学生との相談のコツ  カウンセラーの視点から」(英文タイトルは The Basics of Student Counseling)参照。

 

FD主任は新任教員に対し、その着任学期に新任教員セミナーを開催している。このセミナーの主な課題は学生の履修指導など学業に関する相談への対応である。専任教員に対しても学生の相談にのったり学業に関する指導をすることの重要性を定期的に再確認することは、重要である。

 

基準15:図書館

ICU図書館は、1960年設立の本館と、創立50周年記念事業の一環として2000年に建築した電子情報サービスを提供するミルドレッド・トップ・オスマー図書館から成る。二つの館は各階のブリッジで結ばれ、図書館として最新の設備を備えている。図書館の概要はホームページhttp://www-lib.icu.ac.jpで提供している。

 

ミルドレッド・トップ・オスマー図書館建築の目的は蔵書の収容能力を増すこと、最新の電子情報サービスを提供することであった。新図書館構想委員会は、新図書館が学生のコンピューター利用の中心となり、総合学習センターは授業のサポートをすること、新図書館が21世紀の学習をサポートする場となることを強調した。

 

オスマー図書館のスタディエリアにはインターネット接続PC120台が学生の自習用に設置され、自由に使えるようになっている。図書館内には、マルチメディア・ルーム、グループ学習室(3室)、インフォーメーション・サービス・カウンター、レファレンス・デスク、視聴覚資料用の席がある。マルチメディア・ルームには、大スクリーンが2画面、演台、PC50台がおかれている。図1はこの部屋を利用した授業の一覧を示す。(資料49参照)グループ学習室は授業、セミナー、発表に使われ、図書館の機能を拡張し、一層充実した学習支援サービスを行うようになっている。

 

図書館本館では図書と雑誌が利用でき、レファレンスルーム、書庫、閲覧席、特別展示室と図書館事務室がおかれている。書架は開架式で30万冊の収容能力がある。新着図書と頻繁に貸出される図書は開架書庫で提供され、雑誌のバックナンバーとその他の資料はオスマー図書館の地階にある50万冊収納可能な自動化書庫に収納されている。23はスタディエリアの座席数を示し、混雑時でも充分な収容能力があることを示している。(資料49参照)

 

図書館を利用した教育はICUのリベラル・アーツ・カリキュラムの中核をなす。全学生に図書館の活発な利用を奨励するために、日英両言語の蔵書、日英両語の図書館目録とサービス、開架書庫、リザーブブック・システム、学生と教職員の貸出冊数無制限、など日本では特徴あるサービスを行っている。

 

2000年の新館開館で図書館利用率は30%上昇し、年間のべ35万人が入館する。学期中の一日あたりの平均利用者数は1,400人でこれは全学生の半分にあたる。120台のPCで検索も可能になったため、貸出件数も30%上昇した。利用可能なソフト、ネットワーク・アクセス、設備は常に最新のものを提供している。総合学習センターとの連携による技術的サポートは、伝統的な図書館サービスと電子情報サービスを統合する鍵となっている。

 

現在の蔵書は約64万冊で毎年平均13千冊増加している。(資料49図4)図書購入予算は資料費の56%を占め、雑誌が31%、電子資料が12%である。CD-ROM、ビデオ、DVDも図書予算で購入している。本学の学生一人当たりの図書予算は全国約700余の国公私立大学の中で最も上位の中に位置する。

 

1999年に資料収集方針を改定し、資料を最も適した形態で収集する方針を明確にし、そのために電子形態の資料が増加している。(資料495)選書は教員が教育と研究用図書、図書館員がレファレンス、一般図書、学部共通プログラムを担当する。本学のバイリンガリズムは、洋書48%、和書52%の図書館蔵書の構成にも反映されている。(資料496

 

資料493は、蔵書の区分を日本十進分類法(NDC)で示したものである。目録は日英両語のOPACが提供されている。

 

ICUはリベラル・アーツ・カレッジとして幅広い分野を扱うので、学術雑誌は各分野のバランスをはかる必要がある。和書と洋書のバランスも重要である。有料の学術雑誌の継続受入は1,259タイトルで(資料498)、年間1,400タイトルの寄贈を受ける。日本語の学術雑誌が33%、予算の20%を占める。各分野の蔵書数は資料497にある。

 

日本の学術雑誌は現在はまだほとんどが印刷体である。洋雑誌のデジタル化が進む中、コスト面から雑誌の構成について現在、検討中である。雑誌によっては印刷体の購読を中止し、資料データベース、もしくは全文データベースに代替している。総合的な見直し案が2005年末に提示される予定である。

 

電子雑誌はアグリゲーターに講読料を支払い、パッケージで電子的に提供される。現在本学は7,417タイトルの電子雑誌を購読しており、印刷体雑誌を大幅に上回る。図書館のHPに欧文の雑誌タイトル一覧がアルファベット順に掲載されている。

 

電子資料(E-resources)は、ネット上で公開されている様々な分野の学術的に重要なデータベースで、有料の場合もある。選択された電子資料はデータベース・リストにのせ、図書館のHPに掲載されている。有料のデータベースは資料499参照。

 

学生の貸出冊数に制限がないため、図書館建設当時からの貸出冊数は極めて多い。2004年には学生一人当たりの貸出は年間平均66.1冊に達した(資料49、図3参照)。この貸出冊数の要因は 1)新館のPC 120台、 2)開架式書架 、3)オフィスアワー以後の自動貸出機の利用があげられる。

 

データベースの利用度も高く、特にLexis-nexisProQuest 及び日本の雑誌と新聞などのデータベースへのアクセスが多い。学生は英語のデータベースを容易に利用している。

 

図書館は、学期中の平日午前8時半に開館し午後10時半に閉館する。土曜日は午前9時開館、午後4時半閉館である。定期試験期間中と休暇中は別の日程で開館する。他の建物が閉館した後の夜間開館によって、学内に住む約300名の学生に学習とコンピューター利用の場を提供している。開館時間延長希望は常にあるが、大学は通学生のために公共交通機関の運行時間にあわせて開館時間を設定する方針を明らかにしている。

 

レファレンス・カウンター・サービスはオスマー図書館開館以来常に改善を続けている。新館開館でインターネットを通じて大量の情報へアクセスが可能となったことから、利用者の行動に変化が見られている。レファレンス・サービス・センターは5名の図書館員で学生の支援をしている。図書館員はグループあるいは個人に技術的なアドバイスをし、資料・データベースに関する質問に答え、授業課題の支援をし、図書館オリエンテーションを計画し、図書館HPを管理する。プレゼンテーション準備のためのPC、スキャナー、カラー・プリンターも用意されており、図書館員のサポートも受けられる。

 

図書館オリエンテーションはELP授業の一環として行われる。一年次で2時間、2年次で1時間である。資料49の図92004年に行われたオリエンテーション一覧を示す。これらオリエンテーションの目的は第一に資料を探すためのガイダンス、第二にOPACや他のサーチエンジンを使った検索の指導、第三に資料の説明および、より高度な資料収集方法を指導することである。また、教員の要請により心理学、経済学及び化学などの授業でより高度なオリエンテーションを行っている。

 

日本の大学図書館は欧米諸国と異なり、図書館長は在職年数の多い教員から選ばれ、図書館員は一般職員が一定期間図書館に配置される場合が多い。これに対し、ICUでは図書館長は学則により図書館情報学を専門にするものを任命している。図書館員は司書として、その専門知識は図書館サービスに必要なものとしてとらえられ、そのような図書館員によって、ICU図書館は高いレベルのサービスを提供し、リベラル・アーツ教育を支えている。図書館は、図書館長、13名の常勤職員、22名の非常勤職員、及び5名の夜間担当員で構成される。夜間職員も含む非常勤職員の勤務時間は10名の常勤職員に相当する。年間でのべ7,600時間が学生アルバイトの日常的な配架作業、貸出業務に費やされ、このうち3分の1がオフィスアワー以降の技術的サポートである。

 

13名の常勤職員のうち11名は司書の資格を持つ。図書館長は図書館情報学の修士号をもつ。現在、ICUの自己啓発プログラムとして3名の図書館員が大学院の図書館情報学科 に在籍している。図書館員の研修のために、頻繁なセミナー、グループ学習、見学が行われている。図書館員は他の図書館セミナーで講演することも多い。

 

ICU図書館は東京西地区図書館協議会の設立の中心となった。最近では近隣の4大学とコンソーシアムを設立している。4大学図書館の蔵書を自由に借り、また自館で返却ができ、活発に利用されている。ICUは図書館利用の機会を拡大するためにこれらの協力活動に積極的に参加している。

 

アジアの図書館との相互理解と協力を促進する目的で、アジアの図書館員を招いたワークショップ がニューヨークのICU財団の助成を得て、2002年と2004年に開催された。6カ国から12名の司書が招待された。ワークショップは情報技術を使って新しい協力の可能性を探る機会として、主催者・参加者双方に有益であった。

 

2000年にオスマー図書館が完成し、ICU図書館は最新の設備と施設を提供することで学生・教員・外部利用者から高い評価を受けている。伝統的な図書館サービスから情報技術を取り入れたハイブリッドなサービス体制への移行に成功している。ICU図書館は、利用者のニーズに応え、リベラル・アーツ教育にを支えるため、つねに見直しをはかり、最新の技術とサービスを提供している。

 

 

4節 ICU学生学習意識調査

 

ICU学生学習意識調査2004年春学期4月に配布された。このような調査が行われるのは初めてのことであり、以後毎年行われることになった。教育プログラムが国際水準を満たすことを目標とする中で、既存の学習意識調査を数例検討した後、調査を策定した。ICUは全米学生学習意識調査(the National Survey of Student Engagement, 以下NSSEと略)を策定したインディアナ大学の担当者と接触し、全米の数百の大学で使われているNSSEICUの必要にあわせたものにし、結果をNSSEのものと比較検討する許可を求めた。NSSEのスタッフは協力的(amenable)で、最終案を点検し調査がNSSEに基づくものであることを調査用紙に明記することで承諾を得た。2ヶ国語の最終調査用紙は88問で構成され、20053月にNSSEの責任者によって承認された。

 

調査用紙は640名の新3年(4月生)及び2年次の最終学期にある学生(9月生)のメールボックスに配布された。このグループを選んだのは調査結果分析上の技術的な理由とともに、ICUの学部教育プログラムを充分受けた学生の調査をするためでもあった。回答者数は273名と期待より低く、ほとんどの回答が2003年に4月に入学した日本人で海外経験が1年未満、GPA3.0以上の女子学生からであった。また、男子学生からの回答率は低かった。ICUで他の調査を実施した経験のある教員によると、これは正常の回答率・範囲とのことである。学生学習意識調査の結果は基準1, 2, 3ですでに述べられているが、結果の全容については資料50を参照のこと。

 

ICUリベラル・アーツ教育の長所

学生学習意識調査の分析結果はICUのリベラル・アーツ教育プログラムの長所を浮き彫りにしている。全般的には調査結果第8節にみられるように学生は受けている教育に肯定的であった。(8.1, 8.2)さらに学生はICUの教育が将来のキャリアに対する備えができたと感じ、また大学の使命である「責任ある地球市民」を育んでいると感じていた。ICUでのリベラル・アーツ教育を定義するとも言うべき点関しては、分析(1.2.2)、統合(1.2.3)、批評 (1.2.4)は強調されているが、実世界への適用はあまり強調されていないとした(1.2.5)日本の教育へのよくある批判として暗記の過度な活用があげられるが、暗記はICUでの教育で強調されていないと感じていた。(1.2.1

 

ICUの教育環境は授業でのディスカッション(1.3)、授業中のディベート(1.4)、発表(1.5)、に学生が積極的に参加し、また異なる授業課題をこなすために他のコースで得た発想と概念の統合をしているとした(1.8)。学生は授業に参加する努力をし、また発言することに躊躇していない様子である。学習成果に関しては、ほとんどの学生はICUでの教育が幅広く全般的な知識を提供してくれ、記述力(3.4)、クリティカル・シンキング・スキル(3.6)、また自身と文化的背景を異にする者をよりよく理解し、個人的な倫理観を育てているとした(3.1)。他者と協働する能力が身につき(3.9)、自習が身につき(3.10)、実社会の問題を学び分析する能力が身につき(3.12)、その解決に貢献する意欲が増した(3.14)。調査で学生は大学が提供する留学機会(第二節)、特に海外英語研修 (SEA)プログラム(2.2)を高く評価している。大半の学生がクラブ活動に参加し(6.1)、アルバイトをしている(6.5)。ICUでのクラブ活動を通して対人関係などこれからの人生で価値のある経験や技能を身につけることができたとした。(6.2, 6.6

 

ICUリベラル・アーツ教育の短所

調査結果は短所を浮き彫りにした。授業にはあまり大きな問題がなかったが、課題文献に関してはもっと学生側から質問する必要があり、講義のポイントに関してもっと説明を求めるべきで、授業中の発言がもっと気楽にできることが理想である。しかしこの最後の点は、コメントシートの活用で解決していると思われる(1.9)。調査結果でみられた授業の欠席、遅刻、予習不足、居眠りは、残念である(1.10-1.14)。

 

教員との交流にも問題がみられた。学生は学術面での指導に関して概ね満足しているようだが(4.10)、もっとオフィスアワーを活用すること(4.1)と課題(4.2)、成績(4.3)、コースのテーマ(4.4)、学習および職業(4.54.6)に関しての指導を求めて教員との密接な関わり方ができるのが望ましい。

 

学生同士の関係にも問題がある。全般的には良好であるが(7.17.27.47.8)、異なった文化的背景を持った学生同士の交流の機会が、最大限に活用されていない。4月生と9月生の間の交流もあまりない(7.67.7)。ボランティア活動とコミュニティーサービス活動にはほとんど参加していない(6.6)。これは構造的な問題が原因となっている。最後に、ICUは学生に社会人として責任意識を向上させる活動を充分に行なっていない。また定量的問題を分析する能力を向上させる活動と、コンピューター情報教育も充分でない。

 

改革提案

これらの弱点をふまえ、ICUはそのリベラル・アーツ・プログラム推進のために改革をおこなうべきである。(第6節参照)特に、大学は授業がより活発になるために学生が躊躇せずに参加できるような環境を整えるべきである。教員は、学生が知的及び専門的な成長を遂げられるようサポートする方法を模索するべきで、これはFD事務室の最重要課題である。更に学生部長は学生同士の交流を促進するプログラムを開発すべきである。またITプログラムの改善が必要である。

 

 

5  ICUの学習と教育の評価:新しい挑戦

 

リベラル・アーツ・カレッジでの評価は非常に難しい。思考スキルや学生が他者と共感し、知的探究心を育て責任ある地球市民に育ったとどう評価するのか。自己点検報告書で我々はICUの教育と学習を評価する調査を策定した。4年生卒業時調査、学生学習意識調査、専修分野ごとのリベラル学習に関する調査(Liberal Learning Assessment Survey)、授業に於けるライティングに関する調査(Writing in the Curriculum Survey)である。これらの調査は改定し毎年行う予定である。またライティング・ポートフォリオ調査(Writing Portfolio Survey)を策定し、卒業論文の検討から始める。これらの調査の限界をふまえつつ、評価の必要性から挑戦し続ける。AALEからの認定につながるという理由のみならず、学生によりよい教育を提供することに貢献できると信じるからである。

 

全学の教育と学習双方からの評価を行ったのが資料13のリベラル学習に関する調査(Liberal Learning Assessment Survey)である。日本の大学でこのような試みはみられないのでその実行可能性については不安があった。(アメリカの大学で評価はよく行われるが、日本では稀である。ICUは他の大学に比べて入学選考、成績評価法、カリキュラムの仕組とコースの評価を含むFDが極めてアメリカの大学に近いことから有利である。しかしICU教員の大半は評価の用語や組織的慣習になじみがない。)本委員会はこのような評価で、長所と短所を浮き彫りにすることで、学生の学習を覗く一端になればと思っている。各授業ごとの学習の評価と異なり、リベラル学習に関する調査は専修分野単位でのリベラル学習の質を評価する目的で行われた。同時に調査がもたらす数量的結果は学習の一部分しかあらわさないことを認識すべきであろう。定量的結果を質的あるいは聞き取り情報で補わなければならない。

 

リベラル学習に関する調査

AALEの冒頭の3基準(効果的な論証力、広く深い学習、探究心の育成)にあわせて、英語で38項目の質問事項がまとめられ教養学部の28専修分野に配布された。資料13にはこの調査の質問項目と回答が掲載されている。各項目は上記3分野に関してまとめてある。調査は各科で項目によっては自己評価して10点法で回答するよう求めた。資料13の表1に、この結果の概要がある。リベラル学習に関する調査結果はすでに基準1, 2, 3の部分で述べた。記述式の回答に関しては資料13の表2に掲載されている。

 

ICUの教育評価の問題点

毎年調査を改定し実行する都合上、ここでは方法論の問題も述べなければならない。まず英語で調査が行われたことで、調査目的やいくつかの質問事項に関する細かいニュアンスが十分に理解されたとは言えないのではないかと恐れる。使用言語の問題は、特にそれぞれの調査項目の理解の問題でもあり、今後の課題となろう。来年は2ヶ国語で配布する予定である。英語で調査を配布したことは回答方法の説明不足をも引き起こしてしまった。カリキュラム委員に評価してもらったのは今回が初めてであったため、多少混乱を招いたかもしれない。例えば、ある専修分野ではすべての教員に配布し、一人ひとりが個別に回答を寄せたところもあった。実際に委員会で意図したのは、専修分野で議論し分野としての回答を求めることであった。短時間での回収(1ヶ月)についても専修分野によっては不満を表明し、提出の延期を申し出て認められた。定量的な回答に疑問をなげかけた専修分野もあった(定量的に評価することは不可能との意見)。しかし、個別により丁寧に説明すると、非常によい回答が返却された場合もあった。専修分野によっては再三の催促にも拘らず回答しなかったところもあり、またカリキュラム委員によっては、専修分野の意見をまとめるのではなく自身の意見で回答をまとめたところもあった。各専修分野で回答の質が異なり、これは来年の課題である。心理学教室の回答は将来の参考資料として有益である。

 

第二にリベラル学習に関する調査はAALEの認証要件にある基準に沿って策定されている。その結果、項目によっては、日本特有の状況にそぐわず、調査内容と意図に誤解が生じたと思われる。来年実施のリベラル学習に関する調査については用語や内容は各専修分野の代表のみならず、教育評価の専門家による点検が望ましい。調査の実施と結果分析を精神測定の専門家の指導を仰ぎながら専用の部署で行うことが望ましい。FD事務室はこの役割を担当するために拡張されるべきかもしれない。

 

 

6節 短所について:教学改革案

 

私たちは困難な時代に生きている。常に変化が起こっており、これに大胆に対応しなければならない。21世紀初頭に世界中の人々を取り巻く問題は何か。まず第一に、911のテロ以降の社会不安がある。グローバルリゼーションが進む中で新国家主義、宗教的原理主義が台頭し、 民族対立が激化している。第二に地球の自然環境の絶え間ない破壊があげられる。第三に、人間の「空洞化」で身体的・精神的健康が失われている。21世紀に人間的であり人間性を追求するということは何を意味するのか。第4に、技術革新にも拘らず、人が互いに会話し集う場がない。コミュニケーションの危機で参加、連帯、責任を育む場がない。これらの状況下では、距離、文化、不信による亀裂を超越するために、地球市民の認識を育み、他者と共感でき、知的探求心旺盛な学生を育てる教育が不可欠である。学生をサービスや大きな問題に立ち向かう準備をするのがリベラル・アーツ・カレッジの特質である。この理想を推進することが教育者としての緊急課題である。

 

2002年全米大学連盟(American Association of Colleges and Universities)が緊急に、将来の職場、多様な民主主義、グローバリゼーションが進む中での学部教育の改革を促した。『より大きな期待』(Greater Expectations)報告書は、成功する改革の鍵が、より複雑な世界に立ち向っていく学生に必要な学習であり、実社会に根ざしたリベラル教育が21世紀の諸問題を扱うために非常に有効とされた。報告書は、学生が様々な専門分野を追及する中で高等教育での学習を通じて新しい環境に適応し、様々な情報を統合し生涯学習し続ける基礎を提供することを願っている。これがICUの求める教育モデルである。

 

ICUは教学改革を常に行っている。1996年からは教学改革実行委員会(Working Committee for Academic Reform)が学部教育の改善を目指していくつかの改革を試みている。20043月のファカルティ・リトリートは「明日のICUをデザインする」(資料51)と題して開催され、今までの改革を参考にしつつ、2010年のICU像について議論した。マイケル・シェーファー教授(米国ラトガース大学からのJICUF客員教授)がICUのリベラル・アーツ教育について示唆に富む講演をし、改革に必要な方向性を述べた(Living Up to its Promise: ICU in 2010)。その直後からICU理事会は改革の基礎的な枠組みを整備する委員会を設立し、一年かけてデータを収集し、報告書を20053月提出した(資料52参照)。その後、学内に教学改革委員会(University Academic Reform Committee, ARCと略)が設立され、定期的に会合を開いている。改革の討議で教養学部長はAALE認証申請を強く提案した。認証によって国外からの学生をひきつけるだけでなく、世界水準に見合う教育と学習慣習が評価されることに意味があるとした。

 

この自己点検報告書作成作業は、別の面から現在進行中のICU改革実行の緊急性を提示した。大学は本当に使命を果たしているだろうか。カリキュラムと組織を改革することでICUのスローガン「明日の大学」をよりよく実現し、21世紀に求められるリベラル学習を提供できる大学になれるだろうか。ICUは日本の私立大学の中では非常に高い評価を得ているが、更に上を目指した教育を提供するための重要なステップとして、AALE認証でカリキュラム・組織の改定をするのである。

 

自己点検報告書でカリキュラムと組織に早急な改革が必要なことが判明した。特に自己点検プロジェクトの結論として学術的卓越性(academic excellence)、サービスおよび実際の活動を通して学ぶ(service and “active” learning)機会の増大、国際性を強化し、学習効果の厳格な評価を通じて教育の「品質管理」を徹底することが必要である。

 

A 教育改革

1.          協同学習(Cooperative learning)の強化

リベラル・アーツ教育は小人数の授業と学生—教員の密な相互作用で成り立つ。ICUは少人数教育及び学生と教員との緊密な関係を誇りとしている。しかし一年次の体験としては一般教育の100名以上のクラスが主である。更に、学生指導には十分行われているが、登録日に教員一名が6時間で平均35名の学生を指導する状況は改善の余地がある。リベラル・アーツ教育は活発な協同学習(active and cooperative learning)が不可欠であり、学生と教員との間の緊密な関係こそが質の高いリベラル・アーツ教育の鍵であると認識している。多くの高いレベルを誇るリベラル・アーツ・カレッジでは教員と学生の比が110もしくは112である。ICUでは120で、日本の大学としては優れているが、世界水準を満たしていない。ICUはクラス規模をおさえ、定期的な接触を可能にするようアドバイザー・アドバイジー・システムを改善し、また教員が教室外で学生と接触する機会を増やす努力をしなければならない。教養学部長室は新たな学生指導・助言マニュアルを用意し、学生指導の指針を提供する。教養学部長は学期末に次の学期のオンライン・コース登録準備のための会合を提案し、教員が登録日に学生の問題解決指導に専念できるようにする。

 

2.          学際的学習の奨励

上述のようにICUでは幅広くコースをとることが求められ、一般教育プログラムも充実しており、独自の学科間専攻もあり(日本研究、アジア研究、アメリカ研究、ジェンダー・セクシュアリティー研究)、学生が各自で学際的な専攻をデザインすることを奨励する。しかし学際専攻に登録する学生は少なく、わずかながら減少している。更に理系・文系間の学際交流が乏しい。既存の学際的専攻を再編成し新たな分野(例えば平和研究、環境問題研究、科学・技術と社会)を加えることを検討すべきである。専修分野を基礎に編成されている組織も再編した上で、強化すべき重点分野(enhancement areas)を下記で述べる。

 

3.          国際性の強化

ICUは国際的な大学として、英語で教えることが出来る教員、英語で開講するコース数、日本人以外の学生数、を増やすべきである。バイリンガルな大学としているが、英語で開講しているコースは全体の30%で、また日本以外の出身の本科生は全体の6%しか在籍していない。例えば40%のコースを英語で提供し、また学生の20%以上を外国出身者とするなど具体的な目標を設定する必要がある。英語で履修すべき単位数を卒業要件で増やすことも検討すべきである。

 

4.          言語能力と記述力強化

現行の制度では4月に入学する学生は英語の集中プログラム、9月に入学する学生は日本語の集中プログラムを履修する。ELPJLPの各プログラムは大変優れており、学生に外国語での読解、記述、及びクリティカル・シンキング・スキルを身につけさせる。しかしカリキュラムは母国語でこれらの能力を養成するようにはできていない。ライティング・センター(Writing Center)を設置して全学生の日英両語での記述力強化をはかることを提案する。ライティング・ポートフォリオ・プロジェクト(Writing Portfolio Project)で学生の記述力を把握することにつとめ、理系・文系の別なく記述力を高め、学生全体に明確でかつ理論的な記述能力の重要性を印象付ける努力が必要である。

 

5.          サービスおよび活動を通した学習(Service/active learning)の強化

教育はもはや教室だけで行われるものではない。ICUの「行動するリベラル・アーツ」は積極的な学習戦略を重視する:授業中の作文、グループ・プロジェクト、協同記述(collaborative writing, 問題対応学習(problem-based learning, ケース・スタディ(case methods), ロールプレイ、シミュレーション、学生同士の研究活動(peer teaching, その他の活動でクリティカル・シンキングによる学習傾向を高める工夫をしている。特にリベラル・アーツ・カレッジではサービス・ラーニングをカリキュラムの一貫として教室外で行う。ICUのサービス・ラーニングは優れているが、コースを更に魅力的にして全学生が参加するようなものにする人的経済的資源に欠ける。(資料54「サービス・ラーニング入門(Introduction to Service Learning)」 特にフローレンス・マッカシーの小論文「充実したサービス・ラーニング体験の要素(Elements of a Successful Service Learning Experience」参照。)

 

6.          教育結果の評価を強化

ICUは(他の高等教育機関同様)学生が実際に学習成果をあげていることを示す必要がある。自己点検報告書の主な結論として導かれたものである。ICUの使命は、教員がクリティカル・シンキング・スキル、記述及び口頭でのコミュニケーション・スキル、高い倫理観と、地球市民としての責任感を提供することである。しかしこれらのスキルと価値を植えつけているという証拠はあるか。これが評価の役割である。AALE基準をどの程度満たしているかを評価するためにICUは学習と教育の質を持続的に改善するプロセスを始めている。学生学習意識調査(SES)と専修分野ごとのリベラル学習に関する調査(Department Liberal Learning Assessment Survey)を毎年行っていく。加えて上述したようにライティング・センター(Writing Center)を設置し、ライティング・ポートフォリオ・プロジェクト(Writing Portfolio Project)によって理系を含む各専修分野で学生がどの程度力をつけているかの情報を得ることで、助けを必要とする学生と向き合う方法を模索することができる。

 

もちろん、これらの調査を行わなくても教員と学生の実績を評価する方法はいくつかある。授業効果調査は情報の宝庫である。また各科の学期ごとのGPAデータが学部全体で集計されている。学生個人が完成させる卒業論文もある。加えて卒業生の教育的もしくは専門的キャリアから学ぶことも出来る。情報は豊富にあるがすべて活用してきたわけではない。これが最大の弱点かもしれない。

 

B 構造改革

これらの一般的な学務改革に加えて自己点検報告書は構造改革が必要な分野を指摘している。

 

1.          専修・複数専修(double major)・副専修 minor)の一貫した制度の構築

専修分野の要件は独立した、知識のある、熱心で独創的な思考をする者の教育には不可欠である。本委員会のリベラル学習に関する調査(Liberal Learning Survey)と各専修分野のカリキュラム委員との議論で専修をどう定義するか、各専修分野の学習目標、主な履修要件とコース履修の順序に関する指導の弱点が浮き彫りになった。現在学生は3年次が終了するまで専修分野を登録せず、また専修分野によっては共通の学術的興味を持った集団に属したという意識しかない。言い換えれば、自然科学分野などのいくつかの例外を除き、専修分野は学生同士の学習コミュニティーを形作っていない。さらに履修要件の構造は学生が複数の専修分野(double major)に登録することを難しくしており、副専攻(minor)に関しては公的な制度自体存在しない。ICUカリキュラムでの専攻を明白にするためには教養学部長が以下の改革を提案する。

 

a. 専修分野を決定する時期

ICUの学生は最初の2年間は幅広い分野を探求することが奨励されるが、2年次の2学期の末から3年次の2学期目の終了前までに専修分野を登録する。特定の分野に絞る気持ちが強く、専修分野を早く決める学生もいるが、選択するのにもっと時間がかかる学生もいる。幅広い分野を探求し知的好奇心旺盛に大いに迷うことも奨励されている。しかし3年次の2学期終了時には全学生が専修分野を決め、履修計画を提出しなければならない。

 

b. 明白に定義され、しかし柔軟な履修要件

ICUでは現在日本研究、アメリカ研究、アジア研究、ジェンダー・セクシュアリティー研究の学科間専攻を含む28の専修分野がある。すべての専修では最低でも15単位を専修分野のコースから履修しなければならない。15単位の当該専修分野のコースの履修と卒業論文が9単位である。コース履修要件と履修順序は各専修分野で異なる。二つの分野を同時に学習計画に盛り込むための複数分野専修(double major)では履修要件の緩和も必要かもしれない。副専攻(minor)の制度も考慮されなければならない。

 

全学科のすべての専修分野は見直され、また必要なら専修分野の要件を満たすための履修要件の構造を見直す。これらの要件はできるだけ少なく設定し柔軟な対応が可能でなければならない。教養学部長室はすべての専修分野と副専修分野(minor)に関してわかりやすくはっきりした履修要件を配布する必要がある。

 

c. 学習目標の明確化

各専修分野はその教育内容と学習目標が述べられなければならない。評価でこれは特に重要である。学習目標が明白に定義されていれば、どの程度達成できているか評価することも容易になる。カリキュラム委員は各専修分野の使命を再検討しまた必要なら目的、組織、履修用件と学習目標を述べた文章を提出する。

 

d. モデルカリキュラム

各専修分野はコース履修のモデル・スケジュールを提供する。履修を強く勧めるコースとコースをとる順序が明記されなければならない。

 

2.          一年生セミナー

教養学部長は、現在社会科学科で行われている一年生セミナー(FYS)と同様な一年生セミナーを新入生が履修する機会を全学に広げることを提案する。これらのセミナーは記述と基本的な研究方法と知的探求について指導する。批判的分析(critical analysis)、理論の構築、効果的な文章(prose)の書き方を中心に指導する。各セミナーの履修は定員15名とし、1年生に少人数のクラスに参加する経験を与える。FYS2単位のコースである。FYSを担当する教員は一般教育コースもしくは学部共通プログラムを教える義務を果たしたことになる。

 

3.          卒業論文セミナーの確立

教養学部長は卒論セミナーの設立を提案し、卒業論文の指導を強化をする。このセミナーは各教員の指導割当時間数(teaching load)(各学期1単位で合計3単位)に換算される。全学生はその論文の口頭試問の機会を与えられるべきである。アドバイザー以外の教員が最低でも一人読むべきである。教養学部長室は卒論発表の要綱を出し、また成績評価法のガイドラインも出している。

 

4.          ICUカリキュラムにおけるキリスト教の側面を促進する

現在、ICUのカリキュラムのキリスト教に関する主な特徴としては、キリスト教概論の履修を全学生に義務付けている。4年生卒業時調査はICU学生の霊的な問題への関心の低さを浮き彫りにしている。キリスト教に関する大学の使命を果たすためにもカリキュラム全般でキリスト教精神を植え付ける必要がある。キリスト教的なカリキュラムの模範は、フィートン・カレッジ(www.wheaton.edu)、ゴードン・カレッジ(www.gordon.edu)、ハバフォード・カレッジ www.haverford.edu などのアメリカのリベラル・アーツ・カレッジに見られる。ICUは最近新しい一般教育科目として生物倫理のコースを設け、またビジネス倫理のコースも開講する予定である。ハバフォード・カレッジの例にならい、社会正義実現に関わる意識を向上させるコースを必須にする社会正義用件(social justice requirement)を設けることも一案である。

 

5.          組織上の科による区分を重点分野に置き換える(Establish Soft Enhancement Areas to Replace Hard Divisions

自己点検の過程で、入学時に6学科のいずれかに所属することを求める現行制度の問題点が明らかになった。学生は入学後に所属学科を変えることは出来るが、この手続きは煩雑で、冒険心あふれる学生が興味の対象を自由に移行させる障害となっている。全学生が教養学部に所属学科を決めることなく入学し、自由に興味の幅を広げる環境を整備することも検討すべきである。

 

更に6学科(人文科学、社会科学、理学、教育学、語学、国際関係学)を学際的な四つの重点分野(enhancement areas)に再編成することも考えられる。重点(Enhancement)という語が重要である。これらの4分野は学生の語学、一般教育、基礎科目で得た知識を更に高める目的がある。この試みでICUの一般教育科目は維持もしくは強化されるべきである。同じような学術分野(人文、社会、自然)を一緒にするのではなく、新しい編成で現在世界を取り巻く主要な問題領域をカバーすることも考えられる。1)創造的表現、言語、文化研究 2)グローバル研究 3)生命と自然環境 4)歴史、価値観と教育

 

これらの重点分野(enhancement areas)を設定する意図は、学習する内容を変えるのではなく、プロセスを変えて学習をより活発に学生本位(student-centered)にすることにある。伝統的な分野も専攻として残すが新しい学際的専攻も追加する。ICUは「行動するリベラル・アーツ」を長年スローガンとしてきた。21世紀ICUフォーラムの報告書が1995年に述べたように「リベラル・アーツ教育の重要な目標の一つは、生きた社会の問題に積極的に関わりを持とうとする責任感と実行力の涵養である。」これらの4つの重点分野(enhancement areas)はこのビジョンを実現させる。

 

この重点分野(enhancement areas)を作り、学際的もしくは問題対応型専攻(problem-oriented majors)ができることで、学生の世界的時事問題と向きあう意識を高めることができる。若者を一人前の社会構成員として育てるためには、ICUが複数の情報源から知識を求め深い理解をする能力を育てる必要がある。これが重点分野(enhancement areas)の目標である。これらの分野の履修は学生にクリティカル・シンキングを含む知的・実用的スキルを身につけさせ、市民意識と責任を植え付け、世界的な問題への積極的な貢献へと導く。ICUはこの構造改革で責任ある地球市民を育成する使命を果たすことができるようになる。本大学の小規模を学生—教員間の関係構築だけでなく、様々な分野の学者や研究者が集って実際の問題を解決することにつなげたい。学術的協同(Academic synergy)は21世紀のリベラル・アーツの新たな課題である。

 

6.          実用的なリベラル・アーツ

最後に、リベラル・アーツにおいても専門的な職業訓練の必要は無視することができない。ICUは、一方で大学院への学び、他方で専門的なキャリアへとつながる学習の道筋(learning pathways)を強調すべきである。リベラル・アーツ教育は卒業後のキャリアまで考慮するべきではないと言う者もある。その目的が生涯学習で特定の職業につくことではないからである。しかしこの「象牙の塔」的アプローチで教育を捉えることはできない。改革の主な目標はリベラル・アーツを活性化させ、教室での積極的な学習方法を持ち込むだけでなく、学生が卒業後も社会の活発な構成員として働くことを目的とする。これは理系・文系の区別なくリベラル・アーツ専攻のICU生すべてにあてはまる。ICUは法曹、医学、国際機関、ジャーナリズム、教育の各界で活躍する卒業生を送り出している。彼らのたどった学習の道筋が明らかにされるべきである。ICUはもちろん基本に忠実であるが、同時に社会と活発に関わる卒業生を送り出すことに気を配るべきである。